闘うコラム大全集

  • 2018.04.26
  • 一般公開

野党とメディアが日本を滅ぼす

『週刊新潮』 2018年4月26日号

日本ルネッサンス 第800回


米英仏は4月13日午後9時(日本時間14日午前10時)からシリアの化学兵器関連施設3か所に、105発のミサイル攻撃を加えた。


1年前、トランプ大統領は米国単独でミサイル攻撃を加えた。今回、米国がどう動くのかは米国が自由世界のリーダーとしての責任を引き受け続けるのか否か、という意味で注目された。それは、異形の価値観を掲げるロシアや中国に国際社会の主導権を取らせるのか、という問いでもある。


米英仏軍の攻撃は、米国が自由主義世界の司令塔としてとどまることを示した。決断はどのようになされたのか。


米紙、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)などの報道によると、国防総省はトランプ氏に3つの選択肢を示したという。➀シリアの化学兵器製造能力につながる施設に最小限の攻撃をかける、➁化学兵器研究センターや軍司令部施設まで幅広く標的を広げ、アサド政権の基盤を弱める、➂シリア国内のロシア軍の拠点も攻撃し、アサド政権の軍事的基盤を破壊する、である。


トランプ氏は➁と➂の組み合わせを選択した。ミサイル攻撃を一定水準に限定しつつ、化学兵器製造能力に決定的打撃を与えるが、アサド政権の転覆は目指さないというものだ。


結論に至るまでの議論をWSJが報じている。トランプ氏は➂の選択肢に傾いており、ニッキー・ヘイリー国連大使も大統領と同様だったという。反対したのがジェームズ・マティス国防長官で、ロシア軍の拠点まで含めた攻撃はロシアのみならず、イランからも危険な反撃を受ける可能性があると説得したそうだ。


攻撃4日前の4月9日に国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任したジョン・ボルトン氏は今年2月、WSJに、米軍には北朝鮮に先制攻撃を行う権利があると述べた強硬派である。マティス国防長官は国防総省でボルトン氏に初めて会ったとき、「あなたは悪魔の化身だという噂をきいています」と、冗談めかして言ったそうだが、それほど、ボルトン氏のイメージは強硬派の中の強硬派なのである。


米朝会談の展望


しかし、今回、ボルトン氏はアサド政権に潰滅的打撃を与えながらも、過度な攻撃を避けるという「困難な妥協点を見出した」と評価された。強硬だが、分別を持った陣容がトランプ氏の周りにいるとの見方があるのである。


それにしてもトランプ氏の考え方は矛盾に満ちている。彼は一日も早く中東から米軍を引き上げさせたいとする一方で、シリアに大打撃を与えるべく、強硬な攻撃を主張する。


化学兵器の使用という、人道上許されない国家犯罪には懲罰的攻撃を断行するが、ロシアとは戦わない。今回の攻撃の目的はあくまでも人道上、国際条約で禁止されている化学兵器の使用をやめさせることであり、政権転覆や中東における勢力図の変更を意図するものではないというのが米国の姿勢だと見てよいが、トランプ氏が同じように考えているのかはよくわからない。


もっとも、共和党にはリンゼイ・グラハム上院議員の次のような考えも根強い。


「アサド氏は米軍による攻撃を、仕事をする(doing business)ための必要なコストだと考えている可能性がある。ロシアとイランは今回の攻撃を、米国がシリアから撤退するための口実の第一歩と見ている。米英仏の攻撃がロシア、シリア、イランに戦略を変えさせ、ゲームチェンジを起こすわけではない」


米国の攻撃は状況を根本から変えるわけではないというグラハム氏の指摘を日本は重く受けとめなくてはならないだろう。シリア政策は北朝鮮政策にも通じるからだ。


5月にもトランプ氏と金正恩氏は会うのである。どちらも常識や理性から懸け離れた性格の持ち主だ。周囲の意見をきくより、即断即決で勝負に出る可能性もある。狡猾さにおいては、正恩氏の方が優っているかもしれない。


米朝会談の展望を描くのは難しいが、万が一、米国に届く大陸間弾道ミサイルを北朝鮮が諦めるかわりに、核保有を認めるなどということになったらどうするのか。


日米首脳会談で安倍首相がトランプ氏と何を語り合い、何を確約するかは、日本にとっても拉致被害者にとっても、これ以上ない程に重要だ。本来、首相以下、閣僚、政治家の全てがこの眼前の外交課題に集中していなければならない時だ。


しかし、驚いた。米英仏のシリア攻撃直後のNHKの「日曜討論」ではなんとモリカケ問題などを議論していた。メディアも政治家も一体、何を考えているのか。私はすぐにテレビを消したが、野党とメディアが日本を滅ぼすと実感した出来事だった。


喜ぶのは某国


4月13日夜、私の主宰するネット配信の「言論テレビ」で小野寺五典防衛大臣が日報問題について語ったことの一部を紹介しよう。


自衛隊がイラクに派遣されていた10年以上前、日報の保存期間は1年以内だった。隊員たちも「読み終わったら捨てるものだから、何年も前の日報は廃棄されて存在しないだろう」と思い込んでいた。


だが、自衛隊は全国に基地や駐屯地が300か所以上あり、隊員だけで25万人もいる。思いがけずパソコン内に日報を保存していた人がいたり、あるいは書類棚の中に残っていたのが見つかった。その時点で報告し、開示すべきだったが、そこで適切な処理が行われず、これが結果的に問題を招いてしまったというのだ。このような背景をメディアが正確に報じていれば、日報問題への見方も異なっていたはずで、無用な混乱もなかったはずだ。


ここ数年、防衛省には年間5000件以上の情報開示請求が集中豪雨のようになされているという。大変なのは件数だけでなく、請求内容だ。「何年何月の資料」とピンポイントで開示請求するのでなく、「イラク派遣に関する文書」というような大雑把な請求が少なくない。当然、膨大な量になる。資料が特定できたとして、中身を調べ、開示して差し支えないか、関係各省にも問い合わせる必要がある。この作業を経て黒塗り箇所を決め、提出する。これが年間5000件以上、職員はもうくたびれきっている。


防衛省をこの種の書類探しや精査の作業に追い込んで、本来の国防がおろそかにならないはずはない。喜ぶのは某国であろう。


ちなみに日本を除く他の多くの国々では、日報は外交文書同様、機密扱いである。日報を一般の行政文書に位置づけて、情報公開の対象にしているのは恐らく日本だけだ。


問題があれば追及し、正すのは当然だ。しかし、いま行われているのは、メディアと野党による日本潰しだと私は思う。

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