闘うコラム大全集

  • 2018.08.25
  • 一般公開

日本国憲法を「絶対善」とする不可思議 改憲で自由なくなるなら根拠示すべきだ

『週刊ダイヤモンド』 2018年8月25日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1244


夏休みは、NHKのプロパガンダの季節か。そのように感じさせる戦争にまつわる番組を、NHKは何本も放映していた。


日本は大東亜戦争で敗北したのである。辛い体験であるのは当然だが、NHKの報じ方はあえて言えば「軍と政府が悪い」「国民が犠牲にされた」という相も変わらぬ短絡な構図だった。


そんな中、加地伸行氏の『マスコミ偽善者列伝 建て前を言いつのる人々』(飛鳥新社)が痛快である。木っ端微塵にされた筆頭が澤地久枝氏だ。加地氏は澤地氏を「日本国憲法の条文はこれこそ〈絶対善の本物〉と反応してそう思い込み、その条文通りに生きるのが正しいとする観念論を撒き散らしている」と断じた。


この的確な批判に、澤地氏はどのように反応するであろうか。


槍玉に挙げられたのはいわゆる新右翼と言われた一水会の鈴木邦男元顧問も同様だ。寡聞にして知らなかったのだが、鈴木氏は平成26年3月1日の「毎日新聞」、同7月18日の「朝日新聞」で「中国や韓国に意図的にけんかを売って反感を導き出し、求心力を高めようと利用している感じがする」と、安倍政権批判を展開していたようだ。


加地氏は問う。「驚いた。逆ではないか。『中国や韓国に』ではなくて、『中国や韓国が』ではないのか」と。


さて、鈴木氏はどう答えるか。


憲法について鈴木氏は、見直すべきと言いながら、「今の政府で改正すればもっともっと不自由になり、国民を縛る憲法になる」とも発言していたそうだ。加地氏はこれを「左翼顔負けの護憲」と斬って捨て、もう一つ、鈴木氏の次の言葉を紹介している。


「自由のない自主憲法になるよりは自由のある押し付け憲法の方がいい」


「右翼ももう終わりである」と加地氏は書いたが、事はもっと深刻であろう。改憲すれば「自由がなくなる」、改憲しなければ「自由がある」と鈴木氏は対比したが、根拠は何か。根拠を示さずにこの種の乱暴な主張を展開するのでは、右翼以前に言論人としての存在が終わってしまうであろうに。


深い素養に基づき、加地氏の論は縦横無尽、大胆に展開される。批判の矢に射抜かれるのは、社会保障を損得勘定で語る「有識者」の愚かさであり、一大ブームを巻き起こしたピケティ氏の格差批判でもある。


山崎正和氏の平成25年11月号の「潮」における発言は以下のようだったと加地氏が示している。


「日本人にとって、選択できる道は一つしかない。たとえ個人的には身に覚えがなくとも、全国民を挙げてかつての被害国に謝罪をつづけることである」


山崎氏がどんな意見を述べようと言論の自由であるとしたうえで、加地氏は、(1)「道は一つしかない」、(2)「全国民」、(3)「つづけることである」と主張するのは、「己れの立場という一つのありかたしか許さない」ことで、俗に言うファシズムだと断じている。


人類の歴史における戦争を含む不幸を、私たちはそれまでのことはすべて水に流すという国際社会の約束事としての講和条約などで乗り越えてきた。その典型が日米関係だ。


加地氏は『論語』の「八佾(はちいつ)」から引いている。「成事(せいじ)(できたこと)は説かず。遂事(すいじ)(すんだこと)は諫めず。既往(過去)は咎めず」。


こうした人類の知惠を学ばず「個人的には身に覚えがなくとも」謝罪をつづけよとは、中・韓の回し者のような発言だとは、言い得ているではないか。


加地氏は著書の最後で、日本人のみならず東北アジアの人々にとって、一神教を理解するのがなぜ難しいのかを語っている。一神教と多神教についての氏の考えを、二度、三度と読んで、人の死を祖先とのつながりの中で受容し、慰められ、生き続けるということの意味が深く私の実感と重なった。読後感は「感謝」の一言だった。

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