闘うコラム大全集

  • 2018.12.27
  • 一般公開

横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

『週刊新潮』 2018年12月27日号

日本ルネッサンス 第833回


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄い社説から、中国の正体が見える。


12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束された。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政府を挙げて引き渡し阻止に動いている。


「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。


一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すればするほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。


たとえば環球時報はこう書いた。


「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だからといって中国でもそうだとは言えないだろう」


続いて、環球時報は次のように警告する。


「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわりに、中国の法律に従わなければならない」


中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。


21世紀の大中華思想の恐さ


12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。


「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催してやるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考えている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことはできないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件について)意思の疎通をはかるのは困難だ」


なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。


そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは要求する。


「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えておくべきだ」(15日社説)


彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこう。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、こうも言う。


「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」


全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。


「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならない。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」


人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふうに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。


なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。


世界一の国にはなれない


ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつあるのが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字もある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共にファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁護を考えれば、当然だろう。


10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦いだ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする中国の意図を挫きたいのである。


5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイやZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走ったとしても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のために利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にするのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもない。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。


人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせる陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよいのである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許してはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

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