闘うコラム大全集

  • 2019.02.02
  • 一般公開

対露外交は希望的観測を持つことなく厳しい要素を過小評価しないのが大事だ

『週刊ダイヤモンド』 2019年2月2日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1265
 


「心配が現実になった」と感じた日露首脳会談だった。1月22日、日本時間の夜8時45分から小1時間遅れで始まった日露首脳会談は、約3時間続いた。


その後、安倍晋三首相とウラジーミル・プーチン大統領の共同記者会見が行われたが、中継画像で両首脳が会見場に入った姿と表情から不首尾は瞬時に見てとれた。


会見ではまずプーチン氏が、「たったいま、会談が終わりました。非常にビジネスライクな建設的なものでした」と素っ気なく語り始めた。氏の話は二点に大別される。日露経済協力の具体的プロジェクトの進展具合と、平和条約締結についてである。


明らかに前者には力が入っており、全体の約4分の3を占めた。貿易はこれから数年間で1.5倍の300億ドル(約3兆3000億円)にするなどの具体的目標も語った。


他方、平和条約締結についての話は全体の4分の1でしかない。その内容も、「私たちは平和条約の締結を目指します。調整担当として外務省高官と外務大臣を任命しました」などというものだ。


日本側は平和条約と領土の問題は、外務省ルートでは実際の話は進まないため、別ルートでの交渉に期待をかけてきた。そのうえで最終的に安倍・プーチン両首脳の決断によってのみ、解決できると考えている。プーチン氏の発言はそうした日本の腹づもりに応えるものではないだろう。


安倍首相が日露間の往来者数がふえて、昨年は過去最高だったと発言した。昨年ロシアから日本への訪問者数は年間10万人に達し、逆もほぼ同水準だったという。いま関係がギクシャクしている韓国からでさえ、毎日2万人以上が訪日している。日露間の交流の貧弱さは、日本人の対ロシア観を反映しているのである。


首脳会談を最も前向きに報じたのは「産経新聞」だった。ロシア相手の非常に難しい交渉だが、それでも推進しなければならないのは「中露の蜜月」を避けるためだとの内容だった。


中露の連携は日本にとってのみならず、米国にとっても、たしかに厄介だ。しかし、注意すべき点は、ロシアは本当のところ、中国をどのように考えているかである。


力をつけた中国は中央アジア諸国を手始めにユーラシア大陸の北に西にと勢力を広げつつある。北極圏にも明確な位置を占めるべく戦略的に動いている。中国の勢力拡大の動きの中で、ロシアは日本が期待する程、中国を退けようとはしていないのではないか。


たとえば北極圏開発だ。中国は自らを「極地強国」であり、北極の利害関係国だと位置づけている。一帯一路に北極海を組み込み、「氷のシルクロード」などと呼んでいる。この中国の方針にロシアは基本的に協調的である。2017年にロシアで開催した「国際北極フォーラム」でも、ロシアは北極海航路とシベリア鉄道を結ぶプロジェクトへの中国の投資を呼びかけた。


中国の北極圏進出の狙いは資源エネルギーに加えて、米国に対する核抑止力の構築にある。防衛研究所の主任研究官、山口信治氏は、中国が戦略原子力潜水艦を北極海に進出させることができれば探知は殆ど困難で、米国に対して確実な反撃能力を獲得すると指摘する。米国のみならず、ロシアも警戒すること必至だが、中国はロシアに警戒感を抱かせないように巧く立ち回っているというのだ。


クリミア半島強奪以降、国際社会の経済制裁に苦しむロシアにとって中国の占める位置は日本で考えるより遙かに大きく重要である。


日本のロシア外交は、希望的観測を一旦横に置き、厳しい要素を過小評価しないことが大事だ。一方的に経済協力だけさせられて終わってはならないであろう。

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