闘うコラム大全集

  • 2020.04.30
  • 一般公開

韓国総選挙、文氏大勝利で進む反日

『週刊新潮』 2020年4月30日号

日本ルネッサンス 第899回


武漢ウイルスを最も巧妙に利用した一人が韓国の文在寅大統領だ。文氏の与党「共に民主党」などは4月15日の総選挙で一院制議会の定数300議席中180、実に6割を獲得した。圧倒的勝利だ。文氏がこのまま「勝利の方程式」の道を歩めるとは限らないが、韓国で反日政権が強力な基盤を築いたことの意味は深刻である。


韓国では議席の6割を持てば本会議で法案を「迅速処理指定」できる。指定された法案は野党の反対などで委員会で採決されなくとも、本会議に上程、議長権限で採決可能だ。


6割を持った韓国与党は、自分たちの希望する法案を迅速処理に指定し可決できるのであり、3分の2の支持が必要な憲法改正を除いておよそ全ての法案を通すことが可能になった。文大統領と与党の独裁も可能になった。


文政権が着手すると思われる具体的法案はこの政権が反日革命政権であることを示している。まず4本の反日新法だ。➀親日的発言者を処罰する、➁親日派の財産を没収する、➂親日派の叙勲を剥奪する、➃国立墓地内の親日派の墓を掘りかえし移動させる、である。


4月17日、「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。


「韓国では親日派への厳しい批判だけでなく、たとえば元慰安婦のおばあさんたちを客観的な証拠をもって批判することさえ処罰しようという議論がずっとありました。そうした法案は何度も作られ国会に上程までされました。反対論も強くこれまでは否決されてきましたが、いま状況は一変しています。親日派というより、客観的に正しく歴史を見詰めて議論しようという人々がいきなり刑事罰に処せられる可能性があります」


本欄でも紹介した『反日種族主義』(文藝春秋)を上梓したソウル大学元経済学部教授の李栄薫(イヨンフン)氏や、同書の共著者で、国連人権理事会の関連行事で戦時朝鮮人労働者は強制連行でも奴隷労働でもなかった、日本人と同じ給料が支払われ、同じ扱いを受けていたと英語で講演した李宇衍(イウヨン)教授らは、真っ先に➀の法律で収監される危険性がある。


キリスト教徒への弾圧


➁はすでに実施中だが、「それでも生温い」として強化される。


➂と➃は親日派を辱めるために、大々的な政治ショーとして行われるだろう。対象者の筆頭は朴正煕大統領であろうか。


これらの法律が実際に成立したら実証的な学者たちはおよそ皆刑事罰を受け、日韓関係はさらに悪化するだろう。言論テレビで「統一日報」論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏が警告した。


「文政権の打ち出した三つの国内政策は革命断行の宣言です。選挙が終われば、市場と宗教と言論を変えると宣言しています」


「市場を変える」とは、自由経済体制を変革し、文氏が長年表明してきた社会主義的経済に移行するということだ。文氏は「反財閥」「反金持ち」「反自由主義経済」に傾く人物だ。資産家への感情的反発は非常に強く、その富を奪って再分配するという考えだ。「大韓航空」も「現代」も経営基盤を崩されつつあるが、文氏の信念である財閥解体を実現するものであろう。


文氏の宗教に対する反感も強い。現在進行中のキリスト教徒への弾圧について洪氏が語る。


「韓国の総人口の4分の1がキリスト教徒です。これまで保守派は多くの反文在寅デモを主催し、政治闘争をしてきましたが、その中心軸がキリスト教の教会勢力でした。だから文政権にとって一番厄介なのがキリスト教徒なのです」


文政権は教会勢力の有力な指導者だった全光焄(チョンガンフン)牧師を理由にならない理由で選挙前に拘束した。全牧師は現在も獄中にあり、体調不良が懸念されている。全牧師を失った教会は政治的影響力を一気に奪われた感がある。如何に影響力が強かったとはいえ、総人口の4分の1、1000万人以上のキリスト教徒が存在しながら、一人の指導者を奪われただけで、なぜ教会は勢いをなくしたのか。


「そこが文在寅左派勢力の巧妙なところです。彼らは武漢ウイルスを利用して、全牧師は頭のおかしい変な奴だというイメージを作って孤立させました」と西岡氏。


韓国では、新興宗教団体、新天地の集団感染が大問題となった。キリスト教系の新興宗教団体であったことから韓国社会に教会への警戒感が生まれた。そうした中、全牧師は野外での礼拝で「神様が病気を治してくれる」と語った。


牧師なら当然言うであろうこの一言が繰り返し報じられ、当局はそれを利用した。また先述のように当局は、政治的理由で全牧師を逮捕した。それを見た他の教会は全牧師と距離を置き始め、教会勢力のまとまりが失われたという。


総選挙は「韓日戦」


「言論の改革」は言論の自由を封殺し、文政権への批判を許さない国へと韓国を変貌させるだろう。今回の総選挙は「韓日戦」として行われた。韓国の選挙なのに、日本が争点になったのだ。与党系支持者によるネット上のポスターは「共に民主党」のシンボルカラーである青と、野党側のシンボルカラーの赤で半々に塗り分けられた。赤の側には安倍首相、岸信介、東条英機、豊臣秀吉らが描かれ、赤と青の境目に「朝鮮日報、中央日報、東亜日報、自由韓国党」の名が赤色で大書された。メディア3社と野党第一党は親日だという意味だ。


「政権側の姿勢の厳しさを、当の韓国メディアが認識しているとは思えません。朝鮮日報は狙われています。中央日報も東亜日報もやられると思います」(同)


これから韓国情勢は大激変の嵐に突入するだろう。だが、選挙結果は韓国全体が文氏支持ではないことも示している。与党と野党第一党は議席では180対103と大差がついた。得票数では1430万票対1190万票。240万票、8%の僅差だった。4%の120万票で結果を反転できるということだ。文政権は議席では60%を獲得したが得票では49.9%だったのだ。


韓国の保守勢力はまだ大きいが、問題は歴史認識の厚い壁である。左派・従北勢力は長年文化戦略を通して韓国人に「反韓国」の歴史観を植えつけた。それが日本との協力関係の中で経済的繁栄を実現した韓国自身への批判に行き着くのは必然だ。


日本への批判は批判として、事実に基づく教育を保守派はすべきだった。李栄薫氏らの実証的な歴史教育こそ若い世代に教えるべきだった。だが韓国政府も韓国の大人もそれをしなかった。結果としていま、北朝鮮の脅威の実態や日本の貢献を知る古い世代が否定され、歴史を知らない若い世代が反日文政権の支持母体となっているのだ。


正しい歴史教育をする勇気を欠いたことが韓国の現実につながっている。日本にとって他山の石である。

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