2025.04.12
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闘うコラム大全集
- 2025.04.03
- 一般公開
習氏の檄、台湾侵攻の「戦備強化」
『週刊新潮』 2025年4月3日号
日本ルネッサンス 第1141回
シンクタンク「国家基本問題研究所」で衛星画像の解読を始めて1年、中国人民解放軍(PLA)が台湾侵攻準備を進める様子を見てきた。画像の全てが現実である。仮想でも誇張でもない。その現実を、私たちは見詰めなければならない。その上で習近平国家主席の考え、中国共産党指導者の政治的思惑は何かを知って対処しなければならない。
3月21日、国基研は総合安保研究会で、同月5日から開催された全国人民代表大会(全人代)を軍事面から解読した結果をメディア関係者らに公開した。眼前で進行中の中国の軍事行動を知る人が増えれば、危機に気づいて解決の道も拓けてくると信じているからだ。現在のわが国はまことに長閑で平和で弛緩しきっている。こんなに油断したまま、この先無事にすごせるとは思えない。まず、中国の実態を私たち日本人が共有することが先決だ。
結論から言えば、習氏が内々に指示していた、2027年までに台湾侵攻の軍事的準備を完了するとの目標がほぼ現実になりつつある。同件については米国の前CIA長官、バーンズ氏が23年2月に、習氏は27年までに台湾侵攻の準備を整えよと指示しており、PLAはそれを成し遂げつつあると指摘した。前太平洋軍司令官、アキリーノ氏も昨年3月、中国は27年までに台湾侵攻の準備を整える、と警告した。
次期国防次官に指名されたコルビー氏は公聴会で、米中戦争は回避できないわけではないが、戦争は勃発し得ると語っている。氏は米国防総省に関して、戦略はあってもそれを遂行する意志と能力があるかを懸念するとも語っている。
トランプ氏に指名され、上院でギリギリ承認されたヘグセス国防長官は米国の保守的テレビ局、FOXニュースの元司会者、国防副長官のファインバーグ氏は投資家だ。国防総省のトップ2人は軍事の素人である。コルビー氏が国防次官として承認されれば、安全保障問題の専門家として国防総省を牽引するだろう。
米中対立の行方
その本人が米国防総省には戦略はあってもそれを実行できていない、実行する意志も能力も心配だと言うのだ。米中の軍事力を比較するとき、氏の指摘は非常に深い意味を持つ。なぜなら、中国が戦略目標に向かって強い意志で多大な経済的犠牲を払って突き進んでいるのに対して、米国はすべきことは分かっていながら、実行できていない。であれば、米中対立の行方は暗いからだ。
そこで今年の全人代における軍事報告である。国基研の中川真紀研究員は去年と今年で顕著な違いがあると指摘する。
「毎年、年初に国防部が記者会見をして重視すべき訓練を発表します。去年は⓵基礎訓練、⓶対抗訓練、⓷統合訓練、⓸科学技術(無人装備やAI)を活用した訓練となっていました。ところが今年は去年の⓷がトップ項目に上がっていました」
国防部の大方針に基づいて、台湾侵攻に関するPLAの訓練の範囲が広がり烈度も上がったことが見て取れると、中川氏は語る。台湾侵攻を想定した統合訓練が活発化し、さらに訓練を通して抑止力を発揮せよとの指示も出ている。またPLAは全軍訓練現地会議で訓練の基準を統一化した。その結果、各部隊の訓練指導が効率化され部隊の練度も部隊間の訓練精度も向上したという。
もうひとつ、去年との相違は今年、「戦備強化」(いつでも台湾侵攻ができる態勢の維持)が重要項目として登場したことだ。
全人代では李強首相が政治活動報告を行う全体会議とは別に、軍と武装警察への指示を明らかにする人民解放軍・武警代表団全体会議がある。ここで軍事委員会主席を兼ねる習氏が重要講話を行う。
「重要講話で習主席は2つのことを言いました。質の高い発展を目指せ、つまり優れた民間の力と資源を活用し、侵攻力戦闘力の強化、発展を加速させよという訓示です。もう一点は軍隊建設14期5か年計画を達成せよ、です。はっきり言えば計画通り進んでいない、遅れていると言っているのです」と中川氏。
具体的にPLAの強軍計画のどこが遅れているのかは分からない。しかし、習氏の重要講話の後、各部隊の代表6名がそれぞれのテーマで発表した内容に注目すべきであろう。ロケット軍を代表して、崔道虎先任曹長が行った発表は「国防陣地建設の推進」だった。
「彼はミサイル陣地を建設中の、ロケット軍の某旅団に所属する隊員として、砂ぼこりの舞う砂漠地帯で建設作業に従事しているわけです。中国は玉門、哈密、杭錦に各々巨大なサイロ(ミサイル発射基)群を建設中です。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射基地です。この3か所のどこからミサイルを撃ってもワシントンを叩けます。砂漠で建設作業中の軍人がロケット軍を代表して表に出たことはICBMのサイロ建設を非常に重視していること、大急ぎで作れという指示だと思います」
時間の問題
アメリカに届くICBMの運用を急ぐ理由は明らかだ。台湾侵攻時、アメリカに邪魔をさせないためだ。アメリカが台湾を守るために駆けつけようとしても、米本土に届くICBMをいつでも発射できるとなれば対米抑止力が強く働く。
習氏が急がせているのはICBMサイロ場の運用開始だけではない。彼らの言う新領域、即ち海洋、宇宙、サイバー、バイオ、新エネルギー、人工知能、量子科学技術など、これらの分野をおさえればアメリカを圧倒できる。そのために軍民融合でPLAの発展をよりダイナミックに進めよとの指示も繰り返されてきた。
アメリカを恐れ、敵愾心を燃やす習氏は、前述のように台湾侵攻の準備が遅れていると考え、檄を飛ばす。PLAの遅れについて元陸上幕僚長の岩田清文氏は彼らの統合訓練に注目する。
たとえば昨年12月、艦艇60隻、海警局の船30隻が、史上最大規模とみられる海上演習を行った。台湾を巡って海上封鎖演習をする場合、いつもは世界中にその映像を公開するのが中国だがこの時はしなかった。同演習でPLAは台湾封鎖にとどまらず、第一列島線まで艦船を出して米軍を迎え撃つ態勢をとったのだが、空母は参加していない。岩田氏の見立てである。
「PLAは十分な統合作戦をまだ実施できていないのではないでしょうか。中国が空母3隻を出して構えれば米軍を第一及び第二列島線に近づけさせないことができるかもしれない。だが、それができていない。PLAの体制は完全ではないと思います」
陸海空、空母、ミサイル軍などを合わせた統合作戦遂行能力は、まだ整っていないのかもしれないが、それも時間の問題であろう。私たちにどれだけの時間があるのか。石破茂首相は商品券を配っている場合ではないのである。
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