2026.10.10NEW!
【櫻LIVE】第729回:岩田清文・元陸幕長・国基研副理事長/小泉悠・東大先端科学技術研究センター准教授・ロシア評論家との対談動画を公開しました
闘うコラム大全集
- 2026.10.15
- 一般公開
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極まる露北の困窮、現実的戦略を取れ
『週刊新潮』 2026年10月15日号
日本ルネッサンス 第1213回
10月2日、プーチン大統領がロシア中部のチェリャビンスク州で新型ドローン(ジェット推進式の無人機)を視察した。翌日には露外務省が、ウクライナの首都キーウに滞在する外国人や外交官に、露軍は大規模攻撃を継続するとして退去を勧告した。
そんな警告を俟つまでもなく、9月13日には英国元首相、ボリス・ジョンソン氏や欧州諸国の安全保障担当高官らの乗った外交列車が、ウクライナ領内のポーランド国境までわずか2キロの地点で、ジェット推進式無人機の攻撃を危うく受けるところだった。絶え間ないロシアの攻撃で運行ダイヤが変更された結果、ジョンソン氏らの列車は予定より早めに出発していた為に難を免れたと言われる。
ジョンソン氏と同じウクライナ復興に関する国際会議に出席し、後続の列車にいた元駐ウ大使の松田邦紀氏が、会議での討論について語った。
「ロシアは今年の夏以降、攻撃を激化させていますが、各国の認識は、『戦況はロシアに不利』で一致しています。ロシアは、ウクライナ向けの武器を生産しているドイツの工場への放火、その企業のトップやウクライナ支援を叫ぶ政治家への暗殺未遂、NATO加盟国へのドローン、ヘリコプター、航空機、船舶による領空領海侵犯、ポーランドやバルト三国への攻撃姿勢さえ見せている。バルト三国は『状況はNATOが北大西洋条約第5条に基づいて集団安全保障を発動するレッドラインに近づいていると、ロシアに警告すべきだ』とまで主張しました」
但し、バルト三国との国境に沿って露軍が集結し、対NATO軍事作戦を意図しているという兆候は見られないという発表も併せて行なわれた。
戦争開始の2022年、ウには中国からドローンを輸入しアフターサービスをする企業が、7社存在した。それが25年末で500社以上となり、今では独自生産で、1300種類、年間1000万機を超える生産を誇る。これはロシアの生産量の2倍以上だ。
北朝鮮に追加派兵を要求
世界一のドローン大国になったウクライナにロシアは追いつけない。プーチン氏が視察したジェット推進式のドローンもターボジェットは中国製だ。ウは直ちに自前の国産ジェットエンジンを作り始め、同エンジン搭載の迎撃ドローンは9月中旬から実戦配備されている。
戦場ではウクライナの北東から南東にかけて1200キロの前線があり、そこに幅20~50キロのキルゾーンが出現した。上空には偵察監視ドローン、地上には地上型ドローンに加えて通常のレーダーが十重二十重に設置され、兵が踏み入ると30分以内にほぼ全員が死亡するという怖ろしい状況だ。
結果、露軍の死傷者数は26年初頭までは一日当たり1000~1300人だったが、現在は1500~1700人だ。戦えば戦うほど犠牲者は増え、補充兵の不足が深刻化し、経済も財政も困窮を深めている。
経済力がなければ戦争もできない。ウクライナは軍事費(兵の給料、国産武器の開発、生産・調達のための費用など)を税収で賄えている。輸入する武器の一部は税収で、残りは凍結したロシアの資金が生み出す金利を担保にしたソフトローンで支払う。一般の行政経費、公務員の給与などの殆どには西側諸国からの財政支援を充てる。わが国もJICA(国際協力機構)及び世界銀行を通じて貢献している。
ウを世界中が支援しているのとは反対に、ロシアを財政的に援助する国はない。ロシアは原則、軍事費を税収と、原油輸出によって得た資金を貯めた外貨基金で賄ってきた。今、それが払底し、税収も落ちている。
「プーチン氏は休眠口座の残金没収や、第三国経由でロシア保有の金の売却も始めようとしているという情報もあります」と松田氏。
世界のどの国にも支えられずに衰退するロシアが頼るのが、これまた展望の暗い北朝鮮だ。死傷者が多すぎて兵力が不足する中、プーチン氏が新たに50万人を動員するという情報が流れ、ロシアの大都市の若者らが国外脱出を始めている。そんな中、プーチン氏は7月から8月にかけて北朝鮮に10万人の追加派兵を要求した。朝鮮半島情勢の専門家、西岡力氏が懸念する。
「ウクライナ戦参戦の見返りに、ロシアから多額の資金を受けとった北朝鮮は経済が潤っていると報じられていますが、謀略情報です。偽情報で国際社会における北朝鮮の立場が強化されれば、米朝交渉にも日朝交渉にも悪影響を及ぼします」
西岡氏は北朝鮮と韓国双方の情報源に基づいて以下のように説明した。
25年8月時点で北朝鮮は派兵の報酬として計50億ドル相当を受け取った。うち現金は5億~7億ドルだった。金正恩氏は1億ドルを海外で活動する工作員や治安機関要員に与え、残りは軍事支援として現物で受け取った。民生経済を担当する機関には一銭も与えていない。
拉致被害者を奪還
派兵された北朝鮮兵はどうなったか。24年10月、戦闘部隊1万2000人をクルスク州に派兵し、ほぼ壊滅状態。25年1月、2万3000人を増派、戦死者9800人、負傷者1万人と確認された。同年7月から戦闘部隊10万人がウクライナ領の全戦線に参戦したが、この時はそれまでのような突撃はせず、後方でドローン・ミサイル攻撃を担い、戦死者は2550人にとどまった。そして今年9月からさらに5万人が派兵される。
北朝鮮兵士の戦争経験をどう評価すべきかの前に、多くの兵の命で贖ったはずの経済そして国民生活は豊かになったのか。金正恩氏が民生経済担当部門に一銭も与えなかったことは前述した。他方、平壌には豪華なマンションを幾つも建てている。最高幹部が住む蒼川通りのマンションは、金正恩氏の執務室が同地区にあるという理由で練炭の使用は禁止だ。その為、冬は幹部の家族といえども布団にくるまりガタガタ震えて過ごす。その事が金正恩氏に伝わり、1世帯1部屋だけセントラルヒーティングの暖房を入れてよいことになったが、夜11時には停電のため、再び寒さが戻る。
多額の外資を提供する経済力がロシアにはないことを、金正恩氏は分かっている。だから最初から最新兵器や軍事技術をもらうことを優先した。金正恩氏が手にする兵器は主として彼自身の命を守り、権力基盤を維持することに使われている。北朝鮮経済は決して豊かにはなっていない。
このことを明確にしておかなければ、これから先、米朝首脳会談が行なわれる際、北朝鮮が強気に出て、不必要な譲歩を迫りかねない。米朝会談が日朝会談につながる場合、わが国が拉致被害者を奪還する可能性も出てくる。そのとき、北朝鮮の状況を正しく把握しておかなければ、交渉で敗北する。実態からかけ離れた情報はその都度、厳しく精査することが欠かせないのだ。
もうひとつの問題は、金正恩氏の下、人民軍兵士がウクライナでの実戦を経験していることだ。有事の時、韓国もわが国もそんな彼らに対処しなければならない。8月の米韓合同演習が途中で切り上げられたのを等閑視している場合ではない。むしろ日韓軍事協力を進め、米国をも招き入れる体制が必要な時だ。
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