元気になるメルマガ

  • 2013.02.28
  • 一般公開

今こそ日本は急げ!情報戦略の構築

 安倍晋三首相の支持率が軒並み右肩上がりです。過日の訪米が日米関
係に一段と弾みをつけて成功のうちに終わったことは、民主党政権の下
で後退した日米同盟を修復した点で、国民に安心をもたらしました。

 国内政策でのスピード感のある決定と実行にも好感がもてます。難問
の筆頭にあげられていたTPPについても2月27日、自民党の外交・
経済連携調査会が国益を守り通すという前提で参加を容認しました。

 TPP参加を決定したとはいえ、これから多くの問題を現実に則して
詰めていかなければならず、それはそれで厳しい局面は残っています。
それでもひとつの大きな山場を、安倍首相は超えたといえます。

 過日の「櫻LIVE 君の一歩が朝(あした)を変える!」に出演な
さったコマツ会長の坂根正弘さんのお話にもあったとおり、TPPに参
加することなしには、日本経済の発展は見込めないと思います。

 いま、経済の7割強を国内需要に依存しているのが日本です。しかし
、少子高齢化と人口減少で国内市場は小さくなる一方です。経済を成長
させるには外に市場を求めなければなりません。輸出をふやし、輸入も
ふやす。TPP参加はその双方で日本経済を成長させていくでしょうし
、日本復活の力強いエンジンのひとつになると確信しています。

 順風満帆のようにみえる安倍自民党政権ですが、依然として大きな問
題を抱えていることに変わりはありません。戦後レジームからの脱却を
標榜してきた安倍首相にとっても決して避けて通ることのできない歴史
問題です。

反日歴史認識を利用した情報戦

 日本の歴史についてありとあらゆる不条理なことが罷り通ろうとして
いる状況を正す準備を、政権への支持が高い今の内に始めるべきです。
何をすべきかを論ずる前に、一体、いま、歴史問題についてどんなこと
が起きているか、確認しておきましょう。

 長崎県対馬市の観音寺などから昨年10月に2体の仏像が盗まれ、後
に仏像は韓国内で回収されました。日本から盗まれた仏像ですから、本
来なら、直ちに日本に返すべきものです。ところが、韓国の地方裁判所
はそのうちの1体を日本へ返還することを差し止めました。韓国のお寺
がこの仏像は14世紀に自分のところの寺で作ったものだと主張したか
らです。元々、日本はどのようにしてこの仏像を手に入れたのか、日本
こそ最初に盗んだのではないかというような主張です。600年以上も
前にこの仏像がどのような経緯で日本に渡ったのかは、まず昨年の窃盗
事件を解決してから、双方できちんと歴史を辿ればいいことです。

 600年以上も前の仏像の渡来と、昨年の窃盗を、まるで同列に並べ
るかのような韓国の司法判断は法治国家のそれとは思えません。このよ
うな判決が堂々と罷り通るのは、韓国が日本に対して抱く歪曲された歴
史観がひとつの大きな要因です。

 反日歴史認識を強める韓国は、慰安婦問題で官民あげて日本に不条理
な非難を浴びせ続けています。その主張をアメリカやヨーロッパ諸国で
大々的に展開し、慰安婦の像を各地に建てて対日誹謗に熱くなっている
のも周知のとおりです。

 中国もまた、日本に対して歴史の歪曲を攻撃材料として使い続けて今
日に至ります。中国は韓国よりずっと戦略的です。たとえば、1997
年10月、江沢民主席がアメリカを訪れたとき、最初に訪問したのがハ
ワイでした。パールハーバーで献花し、アメリカ国民に、かつて中国と
アメリカは「ファシスト国家の日本」に対して共に戦った仲であるとパ
フォーマンスで示したのです。

 2002年10月に再びアメリカを訪れた江沢民主席はブッシュ大統
領との会談で、かつて日本は米中共通の敵であったことを指摘しました
。機会がある毎に中国は、日米離反を起こさせるべく、日本を歴史的に
非難するのです。

 他方、アメリカは2001年に9・11のテロ攻撃を受けていました
。小泉純一郎首相はいち早く、米国への支持を表明しました。そんな事
情もあって、ブッシュ大統領は日米関係を重視し、江沢民主席の言葉に
動かされることはありませんでした。

 しかし中国は現在も同じ主張を続けています。習近平氏は中国共産党
総書記に就任する前の2012年2月アメリカを訪れ、日本が米中共通
の敵であったと、ことさらに語りました。オバマ大統領もバイデン副大
統領もそうした中国の主張には同調しませんでした。のみならず、バイ
デン副大統領は自ら主催した昼食会に習氏を招き、中国が正すべきこと
として、知的財産権、不当に安い為替レート、内外企業に公平に提供さ
れるべき同等の競合条件、不当な最新技術の強制移転などの問題を次々
に指摘し、さらに厳しく言いました。

 「アメリカの外交基本は人権擁護である」「人権を守ってこそ全ての
社会の繁栄と安定が得られる」、然るに「中国の人権状況は悪化し、特
に数名の人物の苦境は深刻化している」と。

 それでも中国は対日歴史攻勢の戦略を諦めません。彼らは国家の総力
をあげて歴史を日本叩きの武器として利用し続けます。この中国の戦略
によって何が起きたでしょうか。南京事件や慰安婦問題など、中国の歴
史捏造に基づいた情報戦略は、驚くほどの効果を上げ始めているのです。

 中国版の歴史認識がどれだけ深くアメリカに浸透しているか、歴史問
題について日本に対するアメリカ世論がどれほど厳しさを増しているか
は考えるだに恐ろしいものです。「慰安婦強制連行」も「南京大虐殺」
も全て事実だと思っているアメリカ人が驚くほどいるのです。歴史に関
するこうした日本非難は、驚くことに、最も親日的な人々の間において
さえ顕著です。

 尖閣問題で日中紛争が発生した場合、無条件で駆けつけて、日本の側
に立って共に戦うと熱く語る海兵隊幹部でさえ、歴史問題になると、色
をなして私たちを非難します。知日家、親日家といわれる学者や識者も
、歴史問題になると、「またか」というようなウンザリした目でこちら
を見ます。こちらの意見に耳を傾けるのも嫌だという反応さえ、珍しく
ありません。

 歴史認識問題がボディーブローのように効いて、確実に日本の立場を
不利にし、日本の印象を悪化させています。日本が日本なりの主張を展
開すれば、それこそ、中韓両国にアメリカも加わって日本非難の大合唱
が起きかねません。この歴史認識問題こそが安倍政権、そして日本国の
直面する最も深刻な問題です。

凄まじい中国の情報戦に対抗するために

 だからこそ、経済が順調に上向き始め、スピード感ある政策決定で支
持率を上げ、政権に求心力のある今こそ、安倍首相以下政府は静かに、
しかし、最大限の努力を注いで、闘いを始めなければなりません。まず
日本の名誉を守り、現代と未来の日本人のために、また、祖国に殉じた
先人たちのために、この闘いは、賢く勁い心で、戦略的に展開しなけれ
ばなりません。

 まず戦略は二重の構えで推進することです。第一に現在進行中のホッ
トな事柄について、中国の異質性や異常性を冷静に指摘するのです。ア
メリカにとっても、アジアそして世界にとっても、より良い価値観を体
現しているのは日本であり、中国ではないということを多くの事実を示
して伝えることです。

 材料は山程あります。中国の環境破壊、汚染、少数民族の弾圧、虐殺
、中国共産党の腐敗、国際法の無視、領土領海の強奪など、すべて私た
ちの眼前で進行中のことですから、日本が冷静に説明しさえすれば、国
際社会には明確に伝わります。

 同時に、もうひとつの戦略に力を入れなければなりません。中期、長
期の情報戦略です。

 中国がどれほど情報戦に力を注いでいるかを見てみます。彼らは対外
広報予算約9000億円を使っています。中国のアメリカにおける情報
戦略は凄まじいの一語に尽きます。膨大な予算をシンクタンク、一流大
学などにバラ撒き、親中的な研究を進めさせます。中国文化をアメリカ
に浸透させてアメリカ全体を親中国家として教育するために孔子学院を
各地に作りました。

 年月をかけて、アメリカ国民に中国寄りの情報を吹き込み続けて親中
感情や中国への憧れを育てていければ勝ちだと考える中国共産党は、ま
た、中国版のCNNも開設しました。米国全土で24時間365日、中
国の考え方を巧みに盛り込んだ情報を発信しています。しかも、報道で
あれ文化的な番組であれ、表に出てくるのは中国人ではありません。優
秀な米国の記者やキャスターを引き抜き、流暢な英語やスペイン語で中
国の考えや主張を語らせるのです。

 そうした情報戦の中で、自ずと中国への親近感が生まれ、そして一連
の情報発信では、常に日本が悪者扱いされています。

 こうした韓国と中国の官民あげての対日歴史攻勢は年毎に激しさを増
し、アメリカやヨーロッパ諸国の深部に不当な反日の価値観を植えつけ
つつあります。このような事態を放置すれば、日本は未来永劫立ち行か
なくなります。なんとしてでも日本なりの情報発信を始めなければなり
ません。

 前述した中国の対外広報予算9000億円に較べて、日本のそれはわ
ずか170億円余りです。まず、安倍政権は対外広報予算を10倍20
倍に増やすほどの決意で、そして情報戦が日本の運命を決することを肝
に銘じて、この問題に真剣に取り組み始めなければならないと思います。

                           櫻井よしこ


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