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Vol.193 一般公開

がん死亡率はなぜ日本だけ増えるのか

福島でがんが増えるのは被曝でなく避難生活

2016.07.01 66分

 日本は、男性の3人に2人、女性の2人に1人近くが、がんに罹患する世界でも有数のがん大国です。日本のがん死亡者数は、年間34万人に上っており、全死亡者の30%を占めています。欧米ではがん死亡率が減少していますが、日本だけが右肩上がりに増え続けているのです。日本には世界最先端の医療機器があり、多額な医療費を使っています。なのに、がん対策は決定的に遅れています。
 櫻井キャスターが「世界のCTの3分の1は日本にあり、手術のレベルが世界一の日本でがん死亡率が増えているのは、がんや医学に対する考え、取り組みが他の先進国に比べ異なっているのか」と疑問を述べると、中川恵一東京大学医学部放射線医学教室准教授は「日本の医療の在り方が、病気なってからが医療なのです。症状のない人が病院で検査を受けることは基本的にできない、少なくとも健康保険は使えません。韓国などはがん検診が保険証でできるので、予防と治療に垣根がありません。日本の多くの医師にとっては病気になる前の部分はあまり関心がない」と述べ、がんの専門医師などが予防や早期発見の分野に入っていかないとがん死亡率は下げられないと指摘しました。
 中川先生は、原発事故以後の福島の復興を支援するために、低線量被ばくと健康影響についてのリスクコミュニケーションに取り組んでいます。東日本大震災で避難生活を余儀なくされているのは約30万人で、その約半数の15万人が福島県民です。その3分の1にあたる約5万人は、自治体の指示ではなく自身の判断に基づき避難を続けています。最近までの環境放射線量の測定や調査の結果から、村民ら、福島県民の被ばく量、特に内部被ばく量は当初危惧されたようなレベルでは、全くないことが明らかになっています
 中川先生は「避難する理由は、被ばくで起こるかもしれないがんを避けるためです。しかし、避難という行動が生活習慣を悪くさせ、がんの原因の3分の2近くが生活習慣ですから、生活習慣が悪くなれば癌が増えてしまう。癌を避けようとしてやっている事が、結果的には癌を増やすことになる」と極めて重要な指摘を行いました。櫻井キャスターも「福島を助けなきゃいけない、ここは大変な被害を受けたけれども、経済的という意味では逆方向に行っている、避難地域で暮らす人に出ているお金が必ずしも彼らを助けていない」と厳しく指摘しました。

≪動画インデックス≫
 1.がんが1センチになるには最低10年かかる
 2.65歳以上なったら積極的に肉を食べると良い
 3.「がん家系」はがんの原因の中でたったの5%でしかない
 4.お酒は百薬の長は誤解で、お酒1合を超えるとがんが増える
 5.甲状腺がんは大きくならずに消えてしまうタイプがほとんど
 6.世界のCTスキャナーの3分の1は日本にある
 7.日本の医療の在り方は、病気になってからが医療
 8.日本の医療体制では遅れているのは「予防」と「早期発見」
 9.全品を検査して出荷するのだから福島の食べ物は日本一安全
10.「年間1ミリシーベルト以下」という除染の長期目標値がもたらした弊害
11.東電から4人世帯に対する原子力損害賠償額は6千万円~1億円
12.仮設住宅はバラックだが止めてある車は高級車
13.福島でがんが増えるのは「被ばく」したからでなく「避難」したから
14.がんを避けるために何をすべきか?
15.サプリメントを飲んでがんが増えたケースがある
16.日本人の場合1日でコーヒー5杯以上飲むと肝臓がんに良い

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中川恵一

中川恵一
東京大学医学部放射線医学教室准教授

1960年東京都生まれ。1985年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部放射線医学教室入局。スイス Paul Sherrer Institute へ客員研究員として留学後、社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師を経て、現在、東京大学医学部放射線医学教室准教授。この間、平成15年から26年まで、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。患者/一般向けの啓蒙活動にも力を入れており、福島第一原発後は、飯舘村など福島支援も積極的に行っている。主な著者には『自分を生ききる』(共著)、『緩和医療のすすめ』、『ビジュアル版 がんの教科書』、『がん!放射線治療のススメ』など多数。日経新聞で「がん社会を診る」を毎週連載中。

※ プロフィールは放送日2016.07.01時点の情報です

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