闘うコラム大全集

  • 2014.03.18
  • 一般公開

異なる歴史観を日本が持つことが危険と、米国はなぜ考えるのか

『週刊ダイヤモンド』 2014年3月15日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1026


安倍晋三首相の靖国神社参拝に対して「米国を怒らせてどうするのだ」という批判がある。中韓だけでは足りずに、米国とも摩擦を起こした、オバマ大統領やバイデン副大統領までも怒らせたとの批判だ。

例えば、1月19日の朝日新聞「靖国参拝 衝撃と失望」の大島隆記者の記事や1月18日の日本経済新聞「靖国参拝、米『失望』表明の舞台裏」の吉野直也記者の記事はいずれも、米国側は安倍首相または麻生太郎副総理との接触で、参拝はしないと踏んでいただけに衝撃を受けたと報じている。

こうした報道を受けて、長年反米だった人物やメディアがすっかり立場を変え、米国を怒らせてはならないと言い始めた。私を含めて保守系の言論人や政治家は長年、リベラルで左翼系のメディアなどで米国の主張を聞き過ぎるとして非難されてきた。ところが、いまは逆に十分に米国の言うことを聞いていないと非難される。実に奇妙な現象である。

3月5日のフジテレビ「プライムニュース」の舞台設定もややもするとその範疇に入りかねない。番組では摩擦を抱える日米関係と打開策を取り上げていた。摩擦を起こさないことが、日本の考えや真実の確立よりも重要だと考えているのかと、思わせられる部分も垣間見えた。

ただ、急いで付け加えておきたい。外交においては確かに摩擦を起こさないことは大事である、と。ただ、外交の大目的は国益を守ることだ。ひたすら摩擦を回避することではない。その問題意識がどれほど番組にあったのかと、つい考えた。

論者の一人、萩生田光一総裁特別補佐は摩擦を起こした側の人物として、多くの質問を受けていた。氏は番組の終わりで、健全な日米関係がいま一番必要だと強調した。そこには米国向けと、日本人と日本のメディア向けのメッセージが詰まっていたと思う。

氏は、同盟国として米国と助け合いながらも、日本が日本として考え行動できることが大事だと語った。私なりに解釈すれば、国内問題である宗教観にまで米国が立ち入ることのない同盟関係が理想だという主張に言い換えてよいだろう。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)などの社説を読む限り、米国は、日本には思想の自由を許さないと言っているかのようだ。同紙社説は繰り返し安倍首相の歴史認識を非難する。3月2日には「安倍氏の危険な修正主義」と題して「安倍晋三首相のナショナリズムがかつてないほど日米関係への深刻な脅威となりつつある」と書いた。首相は「南京大虐殺」を否定し、慰安婦への謝罪をご破算にして同問題を再検証するつもりだなどとも非難した。

だが、安倍政権は「南京大虐殺」の否定などしていない。慰安婦への謝罪取り消しもしていないし、予定もない。安倍政権は戦後体制を変えようとしているわけでもない。ただ、慰安婦の事例に見られるような事実誤認を正そうとしているだけである。大東亜戦争美化の考えなど、毛頭ないのは明らかだ。その意味でNYTの非難は極めて根本的なところで事実に反している。

事実誤認に基づいて大いに偏向したNYTの安倍非難には安倍首相が米国の抱く歴史認識から離れていくことへの不快感と不安感が見て取れる。米国と異なる歴史観を日本が持つことが危険だと、なぜ、彼らは考えるのか。安倍首相の参拝は各国首脳の英霊への祈りと同じである。首相の参拝より、はるかに深刻で問題なのは中国の歴史修正であり人権弾圧だと、アジアの私たちは考える。その点への非難よりも日本に歴史観を共有せよと迫り続ける米国のメディアこそ、理解し難い。

だからこそ、米国はその精神において日本を米国の影響を受けて従うべき被保護国と見なしているのではないかと問いたくもなる。

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