闘うコラム大全集

  • 2014.04.01
  • 一般公開

断固たる意志で備えなければ侵略を防ぐことはできない

『週刊ダイヤモンド』 2014年3月29日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1028


自民党はいったい、どうしたのか。民主党政権の3年3カ月にあきれ果てた国民が再び自民党を選んだのは、まともな国家運営をしてくれると考えたからだ。にもかかわらず、集団的自衛権をめぐる総務懇談会の議論はまるで自民党は民主党と同じなのかと思わせる。

中国の膨張と米国の内向き政策を見れば、安倍晋三首相の提唱する改革案でさえも、あるいは、間に合わないのではないかと、私は懸念している。日本周辺の切迫した状況が自民党にはわかっていないのではないか。

首相の集団的自衛権の議論の進め方は「乱暴過ぎる」「前のめり過ぎる」として開催された総務懇談会で村上誠一郎行政改革担当大臣が「解釈変更を閣議決定して法案を出すなど言語道断」と言い、脇雅史参院幹事長が「行使容認で何を目指すのか。具体的な事実に基づき議論すべきだ。観念論ではいけない」などと発言した。

集団的自衛権行使で目指すのが日本国の安全を守ることというのは自明のことだ。自民党はこんなことまであらためて議論しなければならない政党なのか。具体的事例は従来の議論で繰り返し提示されてきた。それを観念論というのは脇氏の勉強不足であり、観念論を展開しているのはむしろ脇氏だ。

集団的自衛権の行使に反対の自民党議員は、国際社会をよくよく見るべきだ。ロシアのプーチン大統領は3月16日のクリミア自治共和国での住民投票を受けて、18日にはクリミアのロシア領編入を発表、条約に署名した。

オバマ米大統領も欧州連合もこうした事態を防ぎ切れなかっただけでなく、ロシアの電光石火のクリミア編入に対応策を打てないでいる。そうした中、領土を奪われたウクライナのヤツェニュク首相の訴えを心に刻みたい。

「ウクライナは旧ソ連が解体された当時、1900発の戦略核弾頭を保有していた。だが、核の拡散を恐れる米英露が、ウクライナに核弾頭をロシアに移管し、NPT(核拡散防止条約)に入るよう迫った。その代わりにウクライナの領土保全を約束するという、ブダペスト覚書を交わしたではないか」

ウクライナを守ると言った米国はいったい何をしてくれるのかと、首相は怒りを爆発させたのだ。ウクライナではいま、再び核武装論が盛り上がっている。大国を信じていては国を守ることはできない、自らを強化するしかないという自覚故の議論である。

フィリピンのアキノ大統領は2月4日、「いつになったら、もうたくさんだと言ってくれるのか。第二次世界大戦を回避するためにヒトラーにズデーテンランドを与えた事例を覚えているか」と語っている。

ヒトラーにズデーテンランドを与えればそれ以上の膨張はないとみて英国首相は妥協したが、ヒトラーはかえって自信を深めさらなる侵略へと突き進み、第二次世界大戦が始まったのは周知の通りだ。アキノ大統領のメッセージは、断固たる意志で侵略を防ぐ力を備えなければ、侵略を防ぐことはできないということだ。

ペンシルベニア大学教授のウォルドロン氏が3月7日の「日本経済新聞」への寄稿で、ワシントンでは日本より中国のほうが重要だと考える勢力が影響力を増している、これからの10年間に米国の軍事力は着実に弱くなっていく。中国が軍事侵攻しても、米国の支援はほとんど期待できないとして、「日本は米国の行動にかかわらず、全領土を自らの手で守れるような軍事力を持つ必要がある」と警告した。

英国やフランスのように「最小限の核抑止力を含む包括的かつ独立した軍事力を開発すべきだ」とまで言う。

中国の侵略から日本を守るためにでき得るすべてのことをなさなければならないいま、集団的自衛権の行使に躊躇することは、政党として無責任だということだ。

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