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闘うコラム大全集
- 2026.07.02
- 一般公開
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世界の動乱、日本立直しの好機とせよ
『週刊新潮』 2026年7月2日号
日本ルネッサンス 第1201回
中東での米国・イラン戦争停戦の覚書(Memorandum of Understanding)は、米国の政治的敗北を際立たせた。
開戦当初、米国が掲げた目標、⓵イランの核保有を許さず濃縮ウラン440キロは米国が入手して処分する、⓶イランのミサイル、海軍は全て消滅させる、⓷ヒズボラやハマスといったテロ組織への支援も中止させる、などは全て未達成だ。
⓶と⓷について覚書は触れてもおらず、⓵についてはイラン国内における希釈への取り組みを今後60日以内に決定することになった。
米国がイランの譲歩を得られなかったのとは対照的に、イランが得たものは大きい。まず、彼らは米国に復興資金3000億ドル(48兆円)を約束させた(第6項)。これによってイランは自国のGDPに匹敵する金額を手にすることになる。加えて米国は対イラン制裁を全て解除する(第7項)。イランの原油輸出に伴う保険、輸送、銀行決済全てについて米財務省が便宜をはかる(第10項)。つまりイランにドルの決済を認め、国際金融システムへの回帰を許すのであり、イランにとってこれ以上の救済はないだろう。また第11項ではイランの凍結資産の全てを完全に利用可能とすることを約束した。
ホルムズ海峡は最初の60日間だけ無料航行となるが、その後は対岸のオマーン国と協議してイランが海峡の管理体制を決定するとしている。彼らは国際海峡であるホルムズの主権を主張して、事実上の通航料を徴収する構えだ。
米国は圧倒的な軍事力でイランに勝利しながら、政治的に惨敗した。なぜか。6月18日のトランプ大統領のトゥルース・ソーシャルへの投稿から答えが見えてくる。
「私がイランに十分に強硬ではないと考えるバカ共は、株式市場の史上最高値、石油価格暴落に嫉妬する悪辣な連中だ」と断じ、自分の決断がなければ、市場は1929年の世界大恐慌の水準に落ち込んだとして、「私は大不況を引きおこしたハーバート・フーバーにはなりたくない」と主張した。
中国の思惑
11月に中間選挙に直面する氏は、明らかに「強い立場ではなく、弱い立場から交渉した」と米紙「ウォールストリート・ジャーナル」が批判した点だ。
最も困難な状況に陥ったときの、指導者としてのトランプ氏の振舞いも見えてきた。覚書第1項は「レバノンを含む全戦線での軍事作戦を即時、かつ恒久的に終了する」である。レバノンを拠点とするヒズボラは、「イスラエルに死を」というイランの宿願を共有するテロリスト勢力だ。イランは彼らを長年支え、代理勢力、先兵とし、イスラエルを攻撃させてきた。
イスラエルにとってはまさに不倶戴天の敵であるヒズボラはレバノンに勢力を広げており、そこでの戦いを即時かつ恒久的に終了すると謳った覚書第1項は、間違いなくヒズボラを守ることになる。合意はイスラエル抜きに行なわれており、同国の激怒は当然だろう。
しかし、トランプ氏は長年の盟友であるイスラエル首相のネタニヤフ氏を切り捨てる発言を重ねた。6月17日、G7の場で語っている。
「ネタニヤフ氏は興奮し易く、ヒズボラの攻撃に過剰に反応しがちだ。彼はアメリカにとってとても小さなパートナーにすぎない」
翌日、ネタニヤフ氏が語った。
「我々の前途にはさらなる挑戦が生まれた。冷静さを保ち、わが国の安全保障の基軸を固め、米国の友人との関係を維持することが重要だ」
イスラエルという国家の命運を懸けた戦略を語る氏は、トランプ氏とは対照的だ。
一貫した戦略を欠き自己中心の大統領と論難されるトランプ氏だが、イスラエルもG7も米国の力にあやからずには生き残れない。それを鮮やかに示したのが仏・エビアンでのG7首脳会議だった。いま西側では米国の力の奪い合いが起きていると言ってよいだろう。
G7の首脳全員がトランプ氏の意を迎えることに最大限の注意を払い、「敬愛の姿勢」で氏に接した。米国のイラン戦争につけ入って、米欧、或いは日米関係に楔を打ち込むべく戦略を練ってきた中国の思惑は打ち砕かれたといえる。世界が頼るのは米国の比類ない軍事力、情報力である。他国の追随を許さない凄まじい実力を、米軍はベネズエラでもイランでも見せつけた。中露北朝鮮イラン、全ての独裁者はその力に恐怖を覚えたはずだ。
しかし、政治、経済においては確実に重要な変化が起きている。米国との関係を保ちつつ、G7は民主と法の秩序を基盤とする新しい世界を形作り始めたといえる。新秩序は最大の脅威である中国に対峙するためであり、G7首脳会議での一連の対話と、合意文書を見れば、その先頭に立ったのがわが国だったと見てとれる。
「パワー・アジア」構想
まず、レアアースの武器化で国際社会に圧力をかける中国に関して、高市早苗首相は重要鉱物の中国への依存度を4年後の2030年までに60%未満に大幅に低減し、可能な限り早期に、さらに50%に下げようと具体的に提案した。
わが国はレアアースの中でもとりわけ重要な重希土類の備蓄制度を有している。米国には軍事用の備蓄はあるが民間企業に関する制度は最近までなかった。G7のその他の国々には政府主導の備蓄制度はなく、わが国はこの分野では一歩進んでいるわけだ。その体験を踏まえての提言は、まず各国の企業毎の備蓄を種類、量に至るまで把握し、情報を共有し、G7及び同じ価値観を有する国々でいざという時に融通し合う仕組みを作ろうというものだ。そのために必要な取組みを、資金手当ての方途も含めてわが国は提案している。
イラン戦争で生じた石油不足についてもわが国はアジア諸国の窮状を救ってみせた。高市政権が提唱する「パワー・アジア」構想は、サウジアラビアやUAEなど産油国と消費国をつなぐ壮大な備蓄構想だ。
安倍晋三総理の提唱した自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)は国際法遵守が基盤である。米中露の大国が国際法を無視しがちな今、高市氏が法と秩序の重要性を語ったことが、G7の共同声明において台湾問題に軍事力を使うことは許されず、平和的に解決されなければならないとの文言に繋がった。
世界をリードするG7が日本の提案を全て受け入れたことは、わが国への期待の大きさを示している。
トランプ氏と米国の揺らぎは、わが国にとっての警告であると同時に、この上ない好機でもある。
敗戦、占領を経てわが国の国柄は否定され、自国を自力で守ることを諦めた、国家とは呼べない国家となり果てた。一方的に頼ってきた米国が揺らぐいま、わが国が失った国家基盤をひとつずつ確実に取り戻す最大の好機が、私たちに与えられている。眼前の世界動乱こそ、わが国立て直しのまたとない機会なのである。
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