闘うコラム大全集

  • 2026.06.18
  • 一般公開
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皇室典範改正、正副議長の案でいけ

『週刊新潮』 2026年6月18日号

日本ルネッサンス 第1199回


6月5日、皇位継承安定化の法整備にようやく目途がついた。2021年12月、岸田文雄内閣に提出された有識者会議の報告書を基に衆参両院議長、副議長による取りまとめが終了したのだ。右案は今後各党に通知され、全体会議での正式決定(10日)を経て立法府の総意として政府に提出、法案が国会に上程され、今国会中の法制化を目指す。


野党によって尚、修正が加えられる可能性もゼロではない中で、私は拙稿を書いている。


取りまとめの重要点は、⓵内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する、⓶皇族の養子縁組を可能とし、皇統に属する男系男子を皇族とする、である。


詳細は後述するが、第⓵案は本来不要である。しかし、入っている。その意味で取りまとめ案は妥協の産物である。高市早苗首相の下で、麻生太郎自民党副総裁、森英介衆院議長が取り仕切ってもここまでしかできないのかと思う。同時に、私は安倍晋三総理の憲法改正案を想い出す。


安倍総理は自民党案として9条2項の削除なしに自衛隊の存在を明記するとした。2項を削らずして何の意味があるのかと、当時私は強く反発した。しかし自公連立政権の下ではこれが政治的限界だった。改憲の発議には公明党の賛同が欠かせず、公明党は2項削除には絶対反対だったからだ。


現在も自民党は似たような弱点を参議院で抱えている。石破茂前首相が衆参両院の選挙で大敗し、高市氏が大勝して盛り返したが、それは衆院だけだ。参院では自民党は少数派で立憲民主党が立ちはだかっている。


野田佳彦氏は今は中道改革連合に属するが、立憲民主党代表当時、皇室典範改正について党の意見をまとめられなかった。その指導力欠如を恥じることなく、氏は皇室典範改正の会議に出席しては個人的見解を党の見解であるかのように述べてきた。


氏の考えはまず女性宮家を立て、やがて女性・女系天皇につなげるというものだ。そのために、第⓵案にこだわり、かつ、夫と子供も皇族にせよと主張し続けた。


日本共産党なども同様の主張である。


「皇室の歴史に整合的」


立法府の総意がまとまらない中で、野田氏ら女系派野党は今国会での総意取りまとめを阻んで先送りさせようとしているとの懸念が、保守勢力の間に生じてきた。立憲の執拗な抵抗を見れば、その種の警戒心が自民党保守勢力側に生ずるのは当然だろう。


今国会で万が一にでも法制化できない場合、果たして次の機会はあるのか。高市、麻生両氏の下でさえできないのであれば、次の好機は当面あり得ないとの危機感が高まった。「今」を逃してはならない、不本意ながら第⓵案を残し、第⓶案を通して男系男子を増やすことが肝要だとの決意を、自民党は固めたと思う。そうして辿り着いたのが今般の取りまとめである。


この厳しい状況の中で、長年決着できなかった皇室典範改正をようやくまとめた点は評価できる。また注意深く検討すれば、取りまとめ案には野田氏らの女系天皇実現の目論見を打ち砕く文言が挿入されている。


まず第⓵案の、結婚なさった女性皇族の夫と子の身分である。取りまとめ案には夫と子への直接的言及はない。だが女性皇族の身分保持の制度設計は「皇室の歴史に整合的」であることと明記されている。


皇位継承問題に詳しい日本大学名誉教授の百地章氏が指摘した。


「皇室の長い歴史上、結婚後も皇族としてとどまった女性皇族はいますが、その配偶者や子が皇族となった例は皆無です」


幕末の第14代将軍、徳川家茂(いえもち)は皇女和宮(かずのみや)を迎えた。和宮が降嫁後も皇族にとどまる一方で、家茂は皇族にはならなかった。将軍という高い位に在っても皇統の血筋にない男性は皇族になれないのである。


従って、と百地氏は続ける。


「皇室の歴史に整合的であるということは、女性皇族の夫も子も皇族としないという意味です。この点を明確にしたことは、女系天皇への道を事実上閉ざしたことになります」


それでも、と自身も男系男子の血筋を引く作家の竹田恒泰氏は警告する。結婚した女性皇族が皇族としてとどまること自体が蟻の一穴だと。


「今の政権は保守ですが、わが国は過去にとんでもないリベラル政権を誕生させてきました。鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦、石破茂各氏のような政権になれば、女系皇族のお相手の一般男性も皇族にしろなどと言い出しかねない。『皇室の歴史に整合的』だけで守り切れるか疑問です」


氏の懸念は当然で、多くの人が共有するものだ。第⓵案なしには取りまとめはならず、従って第⓶案も通らないという厳しい状況があったのは確かだが、将来にわたって最大限の警戒を要する点だ。


GHQが元凶


次に今回、最も重視された第⓶案である。同案には新たに皇族となられた方は皇位継承資格を持たない、一定年数ごとに見直すという条件がついている。


いずれも妥当であろう。皇位継承は秋篠宮皇嗣殿下と悠仁親王殿下が決まっており、以後数十年間は安泰である。令和2(2020)年、今上陛下が立皇嗣の礼を執り行われ、次の天皇は秋篠宮さまであると宣言された。それを衆参両院が全会一致で議決し、法律として定めた。


従ってこれから皇族としてお戻りいただく世代の方々には皇位継承の機会は巡ってこないだろう。竹田氏は6月5日の「言論テレビ」でこう語っている。


「皇室をお支えする宮家の皇族が実際に天皇に即位する可能性は何百年に一度です。ですからこれから皇族復帰する方が皇位継承資格を持たないのは当然です。この条項は世間の人々の心配も解消してくれるのではないでしょうか」


一定年数ごとに養子縁組の在り方を見直すという点も合理的である。


取りまとめ案は完璧ではないが、総体的に見ると評価できる内容だ。だが、皇位継承を巡る一連の議論で決定的に欠けていたのが、歴史を踏まえてのそれだった。そもそも皇位継承に不安が生じたのはGHQが強制的に11宮家を臣籍降下させたことが元凶である。わが国の主権が侵されている占領下、占領軍は強権を以てわが国の国柄の基である皇室を極限まで弱体化させた。その上、わが国の歴史にも国柄にもおよそ無知な人々が、1週間で現行憲法を作り上げた。


にもかかわらず一連の議論で11宮家の臣籍降下は、まるで日本国民が決定したかのように扱われている。皇位継承問題を、占領軍が日本憎しでつくった現行憲法の価値観に基づいて滔々と語る学者もいる。


主流メディアの多くもまた歴史的背景に触れることなく、議論を展開した。読売新聞の場合、悠仁さま誕生で状況が変わったにもかかわらず、相変わらずの女系論だ。客観情勢を無視しての論評に意味があるのかと私は疑うものだ。

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