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闘うコラム大全集
- 2026.07.23
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準戦時圧迫体制の中国に対処せよ
『週刊新潮』 2026年7月23日号
日本ルネッサンス 第1204回
7月10日、今国会の最重要課題である皇室典範改正案が全衆議院議員中90%以上の支持で可決された。17日の会期末までに参議院でも可決され、法制化される見込みだ。最後の最後まで気が抜けないが、ここまで辿り着いたこと、高市早苗首相らを評価したい。
皇室典範改正後の最重要課題は尋常ならざる動きを続ける中国である。習近平国家主席はトランプ米大統領の足下を見透かして、台湾奪取の統合戦略を強化中だ。元陸上幕僚長で国家基本問題研究所(国基研)副理事長の岩田清文氏は、それを「準戦時圧迫体制」へのシフトだと指摘する。
三つの大きな動きが軸になっている。第一が6日、人民解放軍(PLA)の戦略原子力潜水艦(SSBN)から、南太平洋の公海海域に向けて模擬弾頭搭載の戦略ミサイルが発射され、赤道を越えて予定海域に正確に着弾したことだ。
撃ち込まれたミサイルは射程7200キロのJL―2と見られている。この射程では南シナ海から米国本土には到達しない。
国基研の中川真紀研究員は、2023年版の米国防総省の報告書に、中国がより射程の長い、1万2000キロのJL―3を晋級SSBNに配備したと記載されている点を指摘する。JL―3であれば、中国は南シナ海を出て第一列島線を突破して太平洋まで進出せずとも、米本土を射程圏内にとらえることができる。
中国のロケット軍は、24年9月に海南島から南太平洋の仏領ポリネシア周辺に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射して目標海域に命中させている。今回は海中から発射して命中させた。これで核攻撃に必要な三つの運搬手段の内、地上発射のICBM、海中発射のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の二つが揃った。戦略爆撃機からの核攻撃能力の開発が完了すれば、米国と互角になる。
中国の第15次5か年計画(26~30年)では来年以降ステルス爆撃機の就役が予定されている。PLA建軍100年までに、彼らは米国を抜いて世界一の軍事大国になるつもりなのだ。
グレーゾーン活動
米国が中露を相手に二正面作戦、もしくは北朝鮮も入れた三正面作戦を強いられる状況が現実になっている。7月6日の戦略ミサイルの撃ち込みはその意味で、非常に深刻な事態の到来を告げている。
中国の第二の危険な動きは、6月6日から10日にかけて、海警と中国交通運輸部(省)が、台湾の東側海域を航行する外国船舶198隻に「管轄権」を行使したことだ。彼らは無線で指示を送り、船籍や進路の確認など法令順守を要求した。3隻には「矯正措置」を取ったと公表した。
台湾当局はこの海域の管轄権は台湾にあり、船舶は中国の不当な検査要求や指示に従う必要はないと強く反発した。岩田氏が指摘する。
「無線で指示したのは中国海軍ではなく、海警や交通に関する行政府の部署でした。米英独仏四国は中国を批判しましたが、軍事挑発と断定できない形で中国側が動いているために手を出しにくい状況でした」
尖閣諸島を狙うのと同じ手法だ。海警は歴としたPLAに所属する部署でありながら、海軍とは異なるコーストガードだという建前を崩さない。中国得意のグレーゾーン活動で少しずつ、侵食していくのだ。
監視対象となった船は198隻だったが、これはいざという時に、どのように船舶をコントロールするか、その実務的な手順を確認していたと思われる行動だ。
第三の動きはとりわけ重要な意味を持つ。今年5月以降、海警が台湾東岸から南東の海域に居座って巡視活動を繰り返していることだ。台湾海巡署(コーストガード)が海警の船に伴走する形で監視を続けているが、その間にも海警は商船への無線警告や妨害的接触を強めている。
2番目と3番目の動きを合わせて見れば事の重大性が浮かび上がる。台湾もわが国も東側海域は或る意味、安全な海であり続けた。台湾の東側に存在するのは日本だ。日本の東側は大きな海と米国だけだ。従って両国とも東側の防備は西側よりも手薄なのである。
台湾の東側海域における中国の活動は台湾人に対する心理的恫喝となる。有事の時、台湾人や在台湾の日本人が110キロ先の日本最西端の島、与那国に逃れようとしても、海警が立ち塞がる。わが国は台湾の大型船も受け入れられるように与那国島の港を拡張する予定だが、そのルートが海警に封鎖されかねない状況が出現しているのである。
強烈なリアリスト
中国は台湾東側に位置する軍事基地への攻撃も当然視野に入れている。台湾の最高峰、新高山(台湾名・玉山)の東側には山腹をくり貫いた広い軍事基地が構築されている。そこに幾百幾千の戦闘機、ミサイルをはじめ主力武器装備を納めている。
PLAや海警は、台湾東側海域で活発に動いて見せることで軍事的制圧に欠かせないこの空間を「前取り」しようとしているのである。
これら一連の動きは統合戦略の一部をなす要素だ。バラバラにとらえるのでなく全体を一体として観察すれば習氏の意図が透視できる。岩田氏の指摘だ。
「決して断定はできません。しかし、可能性として見ておくべきは、習氏が全てを台湾奪取に向けて進行させているということです。準戦時圧迫体制につながる動きとして見れば全て辻褄が合い、合理的に説明できるのです。従ってわが国の国防は、その視点を踏まえて構築していくことが大事です」
全ての戦略はあらん限りの事実を踏まえた上で論理的推測を立て、目標を設定することから始まる。わが国の国防の目標は、中国に台湾やわが国への侵略をさせないことだ。それには習氏の野望を止めなければならない。
4年前に暗殺された安倍晋三総理が習氏について語っていた。ある時の首脳会談で習氏が語ったそうだ。もし、自分が米国に生まれていたら、米国共産党には入らず、民主党か共和党に入る、と。安倍総理は習氏の発言を以下のように解釈した。習氏にとって政治的影響力を行使できない政党は意味がない。習氏は思想信条ではなく政治権力を掌握するために共産党に入ったのであり、強烈なリアリストだ、と。
であるならば、わが国はリアリストの習氏に決して手を出させないだけの強い軍事力を持つしかない。わが国の力を誇示して、習氏の軍事的抑圧には決して屈しない、という強い意志を鮮烈に示すことだ。
現在、高市政権内で議論されているはずの戦略三文書の大幅な書き換えと、その先の憲法改正が如何に大切かということだ。高市氏はこの点に心して、閣僚はじめ部下全員に改めて国防の重要性を説き、強い軍事力構築の具体策を実現する時だ。
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