闘うコラム大全集

  • 2026.08.06
  • 一般公開
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改正皇室典範、天皇陛下は「ありがたい」

『週刊新潮』 2026年7月30日・8月6日合併号

日本ルネッサンス 第1205回


7月17日、改正皇室典範が参議院で可決、成立した。小泉純一郎政権の皇室典範改正議論から20年余りである。10日の衆院本会議で全衆院議員中97%の賛同を得て可決されたとき、高市早苗首相は、胸に手を当て天を仰いで目をつぶった。感慨深かったことだろう。


産経新聞を除く全ての全国紙、およそ全ての雑誌とテレビが愛子さまの天皇即位を切望する報道に走る中で、高市政権には一方的な批判が集中した。そうした中、高市氏、麻生太郎自民党副総裁、木原稔官房長官、小林鷹之党政調会長らが改正皇室典範成立に心を砕いたことを、私は国民の一人として評価するものだ。


高市チームが苦労の末に実現した改正案は、⓵女性皇族は結婚後も皇族の身分を維持するが、夫と子は一般国民にとどまる、⓶男系の血筋を受け継ぐ旧11宮家の15歳以上の男子を宮家の養子に迎え皇族とする、が骨子である。


⓵案は、結婚後の女性皇族のご身分は一代限りであること、夫と子は皇族にはならないと定め、皇室の歴史に整合する。これまで一般男性が女性皇族と結婚して皇族になった事例はないからだ。このことは女系天皇の誕生を防ぐことにもなる。


⓶案は、皇族に復帰した養子の方々の次の世代は生まれながらの皇族であるため、男子ならば皇位継承資格を有するとした。これは皇位継承の安定化を支える要素となる。


両案は30年を目途に見直しが可能だ。全体的に皇室の歴史を守り通す精緻な仕組みになっている。


今回の改正について、当事者でいらっしゃる今上陛下のお考えはどうか。そのことを知る手懸りが7月2日の宮内庁長官、黒田武一郎氏の定例記者会見における発言である。氏は質問にこう答えている。


「陛下が6月にオランダ・ベルギーを訪問された際、皇室典範改正に向けた議論の内容については報告しました」


つまり、ヨーロッパご訪問の時、陛下も皇后陛下も改正皇室典範の内容を十分に承知しておられたということだ。無論、その時点ではまだ国会での議論が残っており、正式には最終結論は出ていない。だが、先述の両案の内容はすでに固まっていたのであり、国会での決議もその内容を受け入れたものとなった。訪欧中の両陛下の朗らかな笑顔は改正案を前向きにとらえておられることを示すのではないか。


さて、記者会見で黒田長官は改正案に何を期待するかと問われ、次のように応えた。


「何らかの方向性が示されればありがたいと思っています」


「ありがたいと思っています」――まさにこれは陛下のお気持ちであろう。そもそも長官は陛下のお気持ちを代弁する立場にあり、その言葉は陛下のご意向を反映したものと受け止めるべきである。定例会見での黒田発言はそれ以前に流布されていた「天皇陛下のお心」のとらえ方が完全に間違っていることを明確に示したものではないか。


状況は180度変わった


少なからぬ皇室研究者が今上陛下のお心は愛子さまの即位にありと主張し、それを週刊誌が盛んに書き立てた。しかし、黒田長官は第⓵案と第⓶案を天皇陛下にご説明後に会見し、「何らかの方向性が示されればありがたいと思っています」と述べた。繰り返すが陛下は⓵⓶案の内容を承知なさったうえでお心を長官に示したはずだ。長官はお心を代弁して「ありがたい」と発言した。陛下御自身がその通りに思っておられると、理解すべきである。


このような趣旨を「言論テレビ」で解説していたら、興味深い質問を受けた。では、羽毛田信吾元宮内庁長官が女系天皇論を主張していたのは、当時の天皇である上皇陛下がそう望んでおられたからか、という問いだった。当時の状況を振り返れば、そのとおりだと言って差しつかえないだろう。


長年お子さまを授からなかった今上陛下御夫妻に待望のお子さまが生まれたのは2001年、内親王愛子さまだった。今上陛下の次の世代を担う若い男子の皇族が存在しない状況下で、上皇陛下が愛子さまを次世代の天皇にとお考えになり、そのお気持ちを周囲にもらされた。そこから小泉政権による皇室典範改正の動きが始まったのが実態だ。これが当時、天皇陛下(現上皇陛下)を支えた宮内庁長官、羽毛田氏らが女系天皇論を唱えた背景だろう。


だが、愛子さま誕生から5年後、秋篠宮妃殿下、紀子さまが悠仁親王をお産みになった。状況は180度変わったのである。以下の点は日を改めて詳述したいのだが、紀子さまに第3子を要望なさったのは当時の皇后(現上皇后)さまである。そして悠仁さまがご誕生になった。


旧11宮家への仕打ち


時は移り、上皇さまは2019年に退位、今上陛下が即位され、令和と改元される。令和2(2020)年、今上陛下は立皇嗣の礼で秋篠宮さまを皇嗣殿下として宣明なさった。自らの後をつぐのは弟宮の秋篠宮だと内外に明らかになさったのだ。このことは、秋篠宮さまの後継は悠仁さまだという意味でもある。


一方で政府が懸念したのは、悠仁さまが即位される頃には、女性皇族が結婚などで皇籍を離れてしまえば皇族は誰もいなくなるという状況だ。


ご公務をお一人で務められるはずはない。黒田清子さんがご結婚後、民間人となられても伊勢神宮の祭主を務めて下さっているように、さまざまなご公務を担って下さる皇族が必要だ。今回の改正で、民間人のお立場でも皇族のお立場でもご公務を扶(たす)けて差し上げて下さいということになった。


もうひとつの課題は悠仁さまの後の天皇はどなたになるのかである。悠仁さまに親王がお生まれになれば問題はない。しかし、これだけは神様のなさることであり、人間の思うままにはならない。そこでGHQ(連合国軍総司令部)が強制的に臣籍降下させた旧皇族の皆さま方に、元に戻っていただこうと考えるのは自然なことであろう。


むしろ奇妙なのは、右の発想がわが国の殆どのメディアに欠落していることだ。臣籍降下は11宮家自身が望んだことでも日本国民が望んだことでもない。GHQがわが国の力の源泉がどこにあるかを研究し、皇室こそが日本国の基(もとい)を成す存在であると気づいた。皇室をなきものにして、わが国が中心軸を失い、年月と共に弱体化していくのを期待した。それが11宮家への仕打ちである。


戦後史を振り返れば改正皇室典範の原点はそこにある。にもかかわらず、読売新聞はじめ大手全国紙の主張にはこの大事な歴史的視点が完全に欠落している。戦後レジームにどっぷり浸かる大手メディアの気概なき姿が晒された。

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