闘うコラム大全集

  • 2015.01.08
  • 一般公開

特集 安倍晋三×櫻井よしこ 対談

『週刊新潮』 2015年1月1・8日合併号

日本ルネッサンス拡大版 第637回

日本経済の「先行き不安」説に答える!


選挙に大勝し、新たな船出を迎えた第3次安倍政権。だがアベノミクスの効果は未だ限定的だ。急激な円安は新たな弊害を生み、再増税先送りで財政再建を絶望視する声もあがる。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が、不安渦巻く日本経済の先行きについて、総理に問うた。


櫻井よしこ 選挙での大勝、おめでとうございます。快勝で、第3次安倍内閣がスタートしました。自民党単独で291議席を獲得し、自民・公明の与党で3分の2を制した。これほどの勝利を可能ならしめた背景には、安定した政権のもと、「日本が抱える重要課題を解決し、歴史的使命を果たしてほしい」という国民の期待の大きさがあると思います。これだけの信任を得た今、総理には、中国の脅威への対処や集団的自衛権に関わる安保法制の整備、憲法改正、経済成長のための改革など、重要課題に、さらに断固とした姿勢で取り組んでいただきたいと思います。とりわけ大事なのは、アベノミクスの恩恵をより一層、浸透させることでしょうか。


安倍晋三総理 そうですね。まず日本の国力を強くするには、何より経済が大事ですから。2012年にスタートさせたアベノミクスはまだ道半ばです。もっとも、雇用面に関して言えば、我々の主導した経済政策によって、すでに100万人の雇用を創出することができました。また宿題であった正規雇用も、この2014年7~9月期で、前年同期比10万人の増加を達成しています。まだ給与の面で景気回復を実感できない人が多いかもしれませんが、2015年に企業がさらなる賃上げを実行していけば、多くの国民の方に、我々の経済政策は成功しつつある、間違いなく良い方向に向かっているんだということを理解していただけるものと考えています。


櫻井 確かに先の政労使会議で、総理は「2015年春の賃上げをぜひお願いしたい」と要望され、経済界からも前向きな回答を引き出しました。それが実現すれば、展望はかなり明るくなるとお考えですか。


安倍 はい。先の経済界、労働界との合意では、いくつかの点を重視して、お願いしました。その一つは、円安により大きな利益をあげている企業には、それに関連して原材料の高騰に苦慮する下請けの関連企業に対し、充分な配慮をお願いしたいということです。それにより、中小企業や小規模事業者の皆さんにも、円安によるメリットを平等に得られるようにしていくことが可能になると思います。


櫻井 その円安ですが、ここまで進むと、弊害の方が大きいという意見もあります。今後さらに、130円台などになれば、日本はどうなるのかと、先行きを危ぶむ声も出ています。円安についてはどうお考えですか。


ものづくり企業の国内回帰


安倍 もちろん、円高、円安、それぞれにメリット、デメリットがあります。円安にも難点があるわけですが、だからといって、民主党政権下の行き過ぎた円高に戻っていいはずはありません。日本はこれまで苛烈な円高によって疲弊し、塗炭の苦しみに喘いできました。国際競争力を失うまいと、自動車メーカーや半導体、家電メーカーなどの「ものづくり企業」が次々と日本から出ていき、海外に生産拠点を移すという事態に晒されたわけです。それによって、我々は雇用を失い、税収も喪失する憂き目に遭いました。しかしながら、その為替がようやく是正されてきた。これによって、たとえば東芝は、この間、国内にあった4つの生産工場の閉鎖を余儀なくされましたが、今度は一転、3000億円以上を投資して、三重県四日市市に生産ラインの新設を決めました(2014年9月着工)。再び日本に工場を作り、日本人を雇って、日本で税金を納めようと、そういう重大な経営判断を行ったのです。民主党政権時代に円高、デフレを放置したため、先を競うようにものづくり企業が国内から出て行ってしまったのですが、この悪しき流れを変えることができたと自負しています。今後、さらに大手企業が国内回帰を進めるでしょう。そもそも大手メーカーは海外に避難できても、下請けの企業はついていく資力がありませんから、工場や店舗を閉めざるを得なかった。だから、倒産件数もそれにつれて増加したわけです。私が第2次安倍政権を発足させる前の2012年の企業の倒産件数は月平均約1000件でしたが、それを2014年には月平均約800件とし、この間、2割近く減らすことができました。


櫻井 確かにそういうプラス面も大きいですね。その反面、輸入による原材料の価格高騰で中小の製造業は厳しい現実に直面し、食料品の値上がりも国民の生活を直撃しています。


安倍 もちろん、原材料や食料品の値上がりにもしっかりと目配りをしていく必要があると認識しています。円安が生む弊害への対策はきちんと手を打たねばなりません。具体的に申し上げますと、中小や零細企業で原材料費が上がり、経営困難に陥っている会社や、借金の返済もままならなくなっているところには、政府系金融機関による低利の融資を行っていきますし、金融機関に対し、返済の猶予をするよう要請もしています。


もっとも、円安によって、他のプラス効果も出ています。海外からの旅行者が増大しているのです。東日本大震災以前は年間800万人ほどだった観光客が、2014年は1300万人を突破する見込みです。実に500万人も増えたわけで、そのインパクトは相当大きい。こうした旅行者が地方にも足を伸ばしてくれれば、地域の経済を潤してくれます。なにしろ、外国人旅行者は、日本人旅行者より平均して、一人約10万円も多くお金を使うという統計があります。円安による観光客の増加は、少子化、人口減による消費の冷え込みをカバーし、内需拡大に寄与してくれるのです。旅行収支(訪日外国人が日本で使う消費金額から、日本人旅行者が海外で支出する金額を差し引いた金額)が2014年4月、月単位において、あの大阪万国博覧会が開かれた1970年7月以来、44年ぶりに黒字に転じました。かつては、毎年3兆円の赤字であり、これを通年で黒字にするのは大変なことですが、それが実現できれば、日本の経済にとっては大変なメリットとなります。観光は新たな稼ぎ頭の産業となり得るもので、しかも地方創生につながる大きな可能性も秘めているのです。


櫻井 円安の好機をうまく捉え、そのメリットを日本経済の成長につなげていく一方で、もう一つ、心配なのが、財政再建の問題です。巨額の財政赤字を抱え、日本の国と地方を合わせた長期債務残高はすでに1000兆円を突破しています。これだけの大借金を背負いながら、消費税の10%への再増税が先送りされました。先の選挙は、その是非も問うたうえで、信任を勝ち得たわけですが、やはり政府は財政健全化への道筋を示す責務があります。日本の個人金融資産は約1654兆円もあり、それで国債を吸収している形ですが、債務総額はその3分の2にまで迫ってきています。このままのペースで国債を発行し続ければ、あと10年ほどで借金の額がこれを上回ってしまうという指摘があります。財政再建はもはや待ったなしの感がありますが、総理はどういう対策をお考えでしょうか。


毎日100億の国富流出


安倍 我々は、借入金を除く税収などの歳入と、過去の借入金の元利払いを除いた歳出の差を示す「プライマリー・バランス」(基礎的財政収支)を挙げて、財政健全化への道程を示しています。まずは2015年度までに、このプライマリー・バランスの赤字額の対GDP比を、2010年度(マイナス6.6%)に比べ、半減させていきます。そのうえで、2020年度までにプライマリー・バランスを黒字化する目標を掲げているのです。これらの目標を達成すべく、現在、全力で取り組んでいるところであります。


櫻井 これまで中々できなかったことですが、実現できるのでしょうか。


安倍 安倍政権になって、この2年間でプライマリー・バランスは7兆円も改善しました。対GDP比でも1.5%、赤字幅を縮小させています。その意味では、財政は着実に、確実に改善してきているのです。いずれにしろ経済の再生なくして、財政再建はありません。この間、税収は50兆円を超え、民主党政権時代と比べると、8兆円も増やすことができました。今後、経済の好循環を創り上げ、デフレ経済から脱却していく中で、さらに税収を増やしながら、その一方で無駄はしっかりと削減していきたい。そうすることで経済成長と財政健全化の両方を成し遂げたいと考えています。


櫻井 国家運営の命運がかかった極めて重大な課題ですから、ぜひとも国民に率直に語りかけて財政再建を進めてほしいと思います。


エネルギー政策では原発の再稼働問題についても、前向きの指導力が必要です。世界で一番厳しい規制基準を設けている原子力規制委員会の審査に合格した原発は安全が確認されたわけですから、再稼働させていくことが、日本経済にとっても大切なはずです。


安倍 仰る通りです。規制委員会が新基準に適合したと確認した原発は、地元の理解を得る努力を続けながら、再稼働を進めていきます。目下、国内の原発をすべて止めているがために、火力発電の稼働に要する追加燃料の輸入増などで、毎日、100億円もの国富が海外に流出しているのです。これは貿易赤字を拡大させているばかりか、電気料金の値上げにより、国民負担にもつながっています。


櫻井 先ほどから、総理はアベノミクスの成果がすでに出始めていると話されてきました。これを成功させ、経済再生と財政健全化に道筋をつける努力をしたうえで、やはり総理に期待されているのは、憲法改正や、集団的自衛権の問題だと思います。今回の衆院選で自民党は大勝しましたが、その一方で、保守の側から安倍総理を叱咤激励する役割を果たせるはずだった「次世代の党」が壊滅状態(改選前の19議席から2議席に減少)となり、渡辺喜美さんの「みんなの党」も空中分解してしまった。反面、民主党が少し議席を増やし、共産党が3倍弱に躍進しました。与党の公明党も議席を増やしましたが、集団的自衛権などに関しては、ブレーキ役を果たすと仰っています。そういう意味では、国会では反対勢力、リベラル勢力が力を増した形です。今後、国会での法案審議の進め方などにかなり高度な戦略・戦術が必要になってくるのでしょうか。


安倍 今まで通り、丁寧に議論していき、国民の皆様への説明もしっかり行っていきたいと思っています。この集団的自衛権に関しましては、国民の生命・財産や幸せな生活を守るために、7月、自民党・公明党で行使の一部容認を閣議決定致しました。それも争点となることを前提とした今回の総選挙です。各テレビの討論会においては、これも必ずテーマになりました。その結果、集団的自衛権行使の一部容認を閣議決定した与党が3分の2の議席を獲得したわけです。我々はその信任の上に立って、安保法制の整備を進めていきたいと考えています。


櫻井 集団的自衛権に関する閣議決定は、安全保障に対する戦後の無責任体制と訣別する歴史的な偉業だったと、私は評価しています。しかし、別の面からすると、自衛隊が実行可能なことをリストアップする「ポジティブリスト」の項目を増やし、「ポジティブリスト」の上にまた「ポジティブリスト」を作るという状況に陥っていくように思えます。これでは国防のための運用がより複雑になりかねません。この方式ではなく、「やってはいけないこと」をリスト化する「ネガティブリスト」方式へ変え、有事に即応できるようにすることが肝要です。「ポジティブリストの自衛隊」から「ネガティブリストの自衛隊」へと質的変換をはかることが理想ですが、総理はどう思われますか。


安倍 有事というものは、そもそも全てを予測し得ません。日本を侵略しようと考える勢力は、私たちの考える防衛政策の裏をかこうとします。ですから、「自衛隊はこういう事態では、こういうことしかできません」と、中身を明示する完全ポジティブリストでは、それこそ相手側の思うつぼなんです。国際的な常識に鑑みれば、「国際法上、やってはいけないことはやりません」ということにすべきでしょう。それは、櫻井さんが仰った「ネガティブリスト」ということになりますが、ただ日本の安全保障上の政策には、当然、憲法の制約がかかります。そうした憲法との関係を十分に踏まえながら、国民の命を守り、その幸せな生活を切れ目なく守っていくことに資する法制にしていきたいと思っています。


「もはやデフレではない」


櫻井 まさにその憲法の問題ですが、総理はかねてより、「自分の歴史的使命は憲法改正だ」と述べてこられました。その実現に向け、第1次安倍政権で国民投票法を定め、第2次安倍政権では、同法の投票年齢を18歳以上に引き下げる改正を行いました。12月14日の選挙後の記者会見でも「憲法改正は、我が党にとって悲願だ」と語られた。第3次安倍政権が発足し、そこからさらに一歩進んでいただきたいと願いますが、この憲法改正への思いをお聞かせください。


安倍 憲法改正には、まずどの条文をどう変えていくかという問題がありますが、現状では、衆議院・参議院いずれにおいても議会で3分の2の勢力を構築しなければ、発議すらできません。そのうえにおいて、国民投票で過半数の支持を得なければいけない。日本の場合、この両方が必要なので、要件が厳しいのです。


櫻井 総理は、憲法改正の発議に、衆参の3分の2以上の賛成を要するという96条の条文の変更を唱えられていた時期もありましたね。


安倍 憲法を国民の手に取り戻すためにも、本来なら、国民投票の方がより大切で、重視されるべきなんです。それにもかかわらず、両院で3分の2の勢力を確保できないと提案さえできない。ハードルが高すぎて、国民投票まで辿り着けないということ自体が、おかしいと思うんです。


櫻井 私たち民間で今、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」という会を設立し、2016年の参院選の頃に試案を提示しようと言っているんですが、総理は憲法改正の実現を、いつ頃、どうしたいというお考えはありますか。


安倍 時期に関しては、まだいつまでにと明示できる状態にはありません。ただ、両院の3分の2の多数を得られたとしても、国民投票によって否決されたら、一巻の終わりになるんです。だからこそ、そうならないように、まずは国民的な議論を深めていく必要があります。


櫻井 憲法改正の歴史的必要性については、我が国を取り巻く現下の国際情勢を見れば、明らかです。ぜひとも改正に向け前進し、戦後体制が抱える課題に切り込んでいただきたいと思います。また2015年は、大東亜戦争終結から70年という節目の年です。歴史問題に関する中国の反日攻勢が激しさを増すのは必定で、私はとても憂慮しています。総理は、中国の反日プロパガンダなどに対し、どう情報発信を行っていかれますか。


安倍 この70年で日本が平和国家として歩を進め、アジアの発展、そして平和、民主化に大きな貢献を果たしてきたことは評価されているものと思います。


櫻井 その点は、2014年7月の総理のオーストラリア訪問の際、アボット豪首相も共同記者会見で、「日本を公平に見てほしい。70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」と強調してくれました。


安倍 その通りです。70年を機に、今後、日本がどういう道を歩んでいくのか、しっかり世界に向けて発信していきたいと思います。日本と志を同じくする国々とともに、アジア・太平洋地域をより平和で安定した地域にしていかなければならない。戦後50年を迎えた際は村山談話、60年では小泉談話が発表されました。戦後70年を迎えるに当たり、安倍政権として、先の大戦に対する反省とともに、この間の70年の日本の歩みや、今後、我が国がアジア地域や世界のためにどういう貢献を果たしていくのか、その思いをしっかりと表明し、新たな談話の中に書き込んでいきたいと考えています。


櫻井 日本が・まともな国・になるためには、毎年、総理が靖国神社に参拝され、英霊への尊崇の念を示すことも重要だと思います。中韓からの不当な批判に晒されようが、総理には毎年、靖国参拝をしてほしいと思わずにはいられません。


安倍 これに関しては、今まで述べている思いにいささかの変化もありません。国のために戦って、尊い命を捧げた方々に対し、そのご冥福を祈り、手を合わせる。極めて当然のことであり、世界各国のリーダーに共通する姿勢だと思います。私自身もそういう気持ちを常に持ち続けていきたいと考えています。


櫻井 経済再生や国防の強化、憲法改正などは、総理に託された使命です。安定した長期政権を築いたうえで、日本を立て直してください。


安倍 ありがとうございます。経済再生に関して言えば、アベノミクスで雇用を生み、賃金を増やし、消費を拡大させる状況を維持しています。「もはやデフレではない」という状況を作ることができるところまで来た。それによって、間違いなく2017年4月には消費税を10%に引き上げられる環境を整え、財政再建に取り組むこともお約束します。次は景気判断条項はないのですから。民主党のように「もう成長できない」と言ってしまったら、終わりです。逃げてはいけない。日本はもっと成長できる。それに向かって経済政策を進めていくのが、私の責任なのです。

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