闘うコラム大全集

  • 2015.03.26
  • 一般公開

それでも自由主義国か、混乱の韓国

『週刊新潮』 2015年3月26日号

日本ルネッサンス 第648回


一向に改善されない日韓関係にアメリカから懸念の声が上がっている。3月13日、ワシントンの保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(AEI)主催の「国交正常化50年の日韓関係・アジア最弱の関係」と題するシンポジウムでのことだ。


1期目のオバマ政権で東アジア外交を担当したカート・キャンベル前国務次官補は、アメリカ政府は、イランの核問題やイスラエル・パレスチナの関係改善に取り組むのと同様に、擦り切れた日韓関係の改善に取り組むべきだと語った。


氏は韓国の指導者は「北朝鮮の指導者とは前提条件なしにいつでも会う」という姿勢だが、日本の指導者とは会おうとしないと指摘、「日本の指導者は『韓国には疲れきった』と語っている」として、日韓関係の停滞がアメリカの国益を損ねていると警告した。


朴槿恵大統領は3月1日の「三・一独立運動」記念式典で、日韓国交正常化以降の50年間の交流を評価する一方で、慰安婦の「名誉回復のための時間はあまり残っていない」「日本政府の教科書歪曲の試みが続いていることも隣国関係を傷つけている」などと演説した。


朴大統領も韓国メディアも日本非難ばかりで歴史の事実を見つめようとしない。シンポジウムでのキャンベル発言を韓国のヨンハプ通信のチャン・ジャエスン記者はこう書いた。


「長年日韓関係を傷つけてきたのは、主としてトーキョーが戦時中の残虐行為と植民地支配をごまかそうとしてきたからだ。とりわけ首相就任以降、安倍晋三氏が国粋主義的行動をとり、日韓関係はさらに悪化した」


韓国側は日本非難で自己満足し、異論に耳を傾けない。たとえば、世宗大学教授の朴裕河氏が上梓した『帝国の慰安婦』(朝日新聞出版)は今年2月、韓国における事実上の出版禁止処分にされた。「慰安婦を『自発的売春婦』等と表現した部分を削除しない場合、被害者の名誉・人格権に回復しがたい損害が発生するおそれがある」というのだ。


ソーシャルデザイナー


同書は慰安婦を、戦争に付随する問題ではなく、「普段は可視化されない欲望・強者主義的な支配欲望」の対象としてとらえた作品である。朴教授はその欲望を「帝国」と呼び、著書を『帝国の慰安婦』と題した。ここでは本書の内容への深入りは避け、一点だけ指摘する。ソウル東部地裁が下した発禁処分は、慰安婦は全て強制連行でなければならないとする、韓国に浸透してしまった言論統制そのものだということだ。


韓国の頑な姿勢では、日韓関係がこじれるのも当然であろう。両国が関係修復をはかろうとするなら、何が必要か。3月13日の「言論テレビ」で統一日報論説主幹の洪熒氏と対談した。


洪氏は、35年間の日本統治の約2倍に及ぶ戦後の南北朝鮮分断の意味をとらえるべきだと主張する。なぜ朴大統領は慰安婦問題を言い立て、韓国は反日に走るのか。理由は約70年間の南北朝鮮の戦いの結果として醸成された韓国自身への憎しみであり、反日ではないというのだ。


たとえば、駐韓米大使リッパート氏を襲った犯人、金基宗(55歳)は1959年生れで全斗煥大統領時代に、韓国の左翼思想の牙城といわれる成均館大学に学んだ。この時期、韓国で光州事件が起きた。


光州事件は、北朝鮮の特殊部隊が工作した騒乱だったことが今では判明しているが、当時は、全斗煥大統領が光州で発生した反政府運動を徹底的に軍事制圧した事件だとされた。その結果、非常に強い反政府、左翼運動が韓国全土に吹き荒れた。


「その80年代に学生だった金基宗は光州事件に刺激され、骨の髄まで反米、従北(北朝鮮シンパ)になってしまいました。彼は大学卒業後、一度もまともな職業についたことはなく、職業革命家になります。盧武鉉大統領とは1985年に個人的なつながりを持ち始めました」


盧武鉉大統領は金正日に忠誠を誓った、韓国にとってはまさに売国の人物だ。金大中も同様である。この両大統領の時代、左翼は全ての面で優遇された。金基宗も憲法機関のひとつ「民主平和統一諮問会議」の一員となった。


金大中、盧武鉉両氏が残したのは、国家を動かす民衆の力としての膨大な数の左翼的NGOと、政府中枢深くに潜行して政府を動かす頭脳となる左翼的人材だったと、洪氏は言う。


「韓国に存在する万単位のNGO中、とりわけ活動的なのが左翼系の団体です。韓国では市民運動団体への参加が政治家になるのに非常に有利だという現実があります。ソウル市長の朴元淳氏も弁護士から市民運動家になり、自分をソーシャルデザイナーと呼びました。革命というと人々は驚きますが、ソーシャルデザイナーならソフトなイメージで人々は疑問を抱かない」


日本にも責任


1986年10月に東ドイツ書記長のホーネッカーが北朝鮮を訪れ、金日成主席と会談した。ベルリンの壁崩壊で明らかになったその内容を洪氏が語った。


「金日成はホーネッカーに、韓国が民主化されれば、革命勢力も自由に活動できるようになる。従って、北朝鮮は韓国の民主化を支持すると語っていたのです。自由主義国では思想信条の自由も保障されます。それを逆手にとって、北朝鮮シンパの勢力を広げると言っているわけです。そして90年代に入ると、韓国国内で、誰が金日成の奨学金を貰ったか、情報分析が盛んになりました」


金主席が韓国の学生たちを支援して大学に進学させ、官僚として政府内に、或いは記者として各メディアに送り込み続けたことは今では定説になっているという。


「その数はメディアの場合、毎年100人といわれています」


洪氏はこのように親北勢力が韓国に浸透したのは、日本にも責任の一端があると指摘する。


「韓国の法律で3団体が反国家団体に指定されています。朝鮮労働党、朝鮮総連、韓統連(在日韓国統一連合)です。内2つが日本にあります」


朝鮮総連は事実上、北朝鮮の大使館だ。韓統連は朝鮮総連と共に一貫して北朝鮮を支えてきた。


日本が南北勢力の戦場になっていることを日本国政府も日本人も解っていないと洪氏は指摘するわけだ。


であれば、なぜ朴大統領は安倍首相と協力して、日本国内の北朝鮮系組織に厳しい法の目を光らせてほしいと頼まないのか。なぜ、不条理な歴史非難を繰り返すのか。キャンベル氏の指摘のように、日本が韓国の反日に嫌気がさすのも当然だ。


洪氏は韓国が直面しているのはもっと切実な内戦であり、もっと大きな危機だと訴える。その通りであろう。北朝鮮とその背後の中国の脅威を考え、感情を横に置き、日韓関係を修復すべきであるのは間違いない。

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