闘うコラム大全集

  • 2013.03.07
  • 一般公開

首相初訪米、成功の先に待ち受ける課題

『週刊新潮』 2013年3月7日号
日本ルネッサンス 第548回


日米首脳会談は終わってみれば成功だった。政治の勢いとはこういうものかと思わせる安倍晋三首相の訪米で、事前に抱いていた危惧はともかくも、当面は払拭された。

安倍首相はオバマ大統領に「強いアメリカは強い日本をもたらし、強い日本は強いアメリカをもたらす」と語った。宰相による「強い日本」という表現が新鮮に聞こえるほど、従来の日本は強さを忌避してきた。尖閣諸島問題でも中国の侵略など問題が発生した場合、日米安保条約は適用してもらえるのかと、救いようのない他力本願の姿勢を見せてきた。

今回、安倍首相は、日本は日本の力で領土を守り続けるとの考え方で首脳会談に臨んだと、語っている。

その首相に、オバマ大統領は「安倍政権が続く限り、米国は力強く支持していく」と言明し、ケリー国務長官も尖閣問題に関して、「安保条約の適用について揺るぎないコミットメントを改めて確認するとともに、日本が自制的に対応していることを評価する」と述べた。

日本が自ら守る決意を語り、米国が有事の際には同盟国としての責任を果たすと明言する、本来あるべき形が今回ようやく作られたと言ってよいだろう。

首脳会談後に行った戦略国際問題研究所(CSIS)での講演で首相は、「強い日本は日米両国の国益に資するだけでなく、中東、アフリカ、又は国連などで日米共同で多くの成果をあげることにつながる」、「日本は二流国にはならない」と語ったが、日本国の首相としては当然の言葉であり、国際社会が日本に期待する発言でもあった。日本の力と気概を明確に発信した点で首相訪米は米国でも評価されたが、なによりも日本国民の深い共感を呼んだはずだ。

首脳会談で日米両国はざっと以下の大事な案件について合意を得た。環太平洋経済連携協定(TPP)への日本の参加、北朝鮮への追加制裁の安保理決議、ミサイル防衛協力の強化、普天間飛行場の早期移設の実現、尖閣問題での日本の冷静な対処、エネルギー供給安定化のための原子力発電の継続と米国のシェールガスの対日輸出などである。

大戦略の枠組み

とりわけ重要なのがTPPへの参加であり、とりわけ難しいのが、今回表向きに語られることのなかったオバマ政権の内向き姿勢への対処である。

TPPへの参加が決定的になったことは、アジア・太平洋で進行している国際政治の枠組みの大変革を日本がさらに後押しし、日本も重要なルール・メーカーになることを意味する。国内には依然として根強い反対論があるが、TPPが日米及びアジア諸国の繁栄の基盤になるのは間違いない。
TPPは、単に新たな経済圏の枠組みという範疇を超えた21世紀のアジア・太平洋の在り方を規定する大戦略の枠組みである。その重要性については、中国が如何にTPPを気にしてきたかを思い出せばよい。
2011年10月、農林水産省が野田佳彦首相と古川元久国家戦略相のTPPに関する会話及び情報分析を文書にまとめた。ところが日本の外交戦略に関するこの国家機密が農林水産省へのサイバー攻撃によって盗まれたのだ。

機密情報の流出は翌12年1月頃に発覚した。政府は情報漏洩を伏せたが、その後の調査の中で、サイバー攻撃をかけたのは中国である可能性が高まった。流出文書の中には、前述の野田、古川両氏の会話記録があった。具体的には両氏はTPPへの参加発表を11年11月の、ハワイでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)で行う可能性と党内対策を論じていた。

そして野田首相はハッキングされた会話録が示すように、11年11月のAPEC総会でTPPへの交渉参加を打ち出すと、間髪を容れず、中国が日本に日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉入りを促してきた。

それまでFTA交渉には極めて後ろ向きだった中国が、電光石火、前向きの反応を示したのは、事前に情報を入手し、準備したうえでの対応だったと断じてよいだろう。

中国がここまでこだわるのは、TPPが単なる経済的連携にとどまらず、欧州連合(EU)のようなさまざまな絆によって結ばれる諸国間同盟的な地域ブロックに発展することを見越しているからだ。TPPは中国に門扉を開きつつもアメリカ主軸のブロック形成を意味する。中国が作りたいのはアメリカ抜きの中国主軸のブロックである。日本が中国ブロックに入ったとして、日本の未来はないだろう。しかし、中国にとっては日米切り離しのメリットはこの上なく大きい。だからこそ、中国は日本をアメリカ抜きのFTAに引き込むべく、球を投げてきたのだ。

米国の内向き外交政策

そんな方向に進む選択肢は日本にはないのであり、安倍首相はこれからTPP参加に向けて党内のとりまとめに入るが、感情的反対論の人々とは多くの対話を重ねるのがよい。その過程で、反対論者が抱く恐れが如何に根拠のないものであるかが明らかになるだろう。そのうえで、農業を強い競争力のある産業に育て上げる具体策を示せばよいのだ。農業の成功談は冷静に見れば驚くほど多く存在する。

それよりも深刻な課題は、米国の内向き外交政策にある。ケリー国務長官は就任後初の外交演説を南部のバージニア大学で行った。「なぜ、国務長官が最初の演説を米国内で行うのか」と自ら問い、「外交政策がかつてないほど我々の日常生活に関わっているからだ」と答えてみせた。ケリー氏は米外交の最大の課題は実は足下の米国自身の財政問題であるとして、「米国の国防費が予算全体の約2割に上る一方で、国務省の予算は全体の1%にすぎない。兵士を派遣するより、外交官を送る方が問題解決には効果的だ」と断言し、国防費削減の意図を示した。国際社会への関与の度合とその代償として、国内施策に必要な国家予算をどれだけ犠牲にするのかなどについて、米国は重要な選択に直面しているというのである。

一方、オバマ大統領は一般教書演説で、北朝鮮の核については、ミサイル防衛(MD)を強化するとのみ語っている。北朝鮮の核保有を米国が積極的に阻止するなどの国家意思は一言も語っていない。

アメリカは完全に内向きになっているのである。北朝鮮の核についても、尖閣についても、日本は第2期オバマ政権から多くを期待することは出来ないと覚悟しておくべきだろう。中国の脅威の急速な増大の前に日本は真に気概ある国として自助努力を続け、米国が軽視出来ないほどの有益で強い同盟国になるしかない。それが安倍首相の最大の課題である。

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