闘うコラム大全集

  • 2015.06.25
  • 一般公開

国際政治と安保に疎い“長老”たちの罪

『週刊新潮』 2015年6月25日号

日本ルネッサンス 第660回


河野洋平、村山富市両氏をはじめ、山崎拓、武村正義、藤井裕久、亀井静香各氏が日本記者クラブで会見し、気勢をあげた。

 

財政問題では筋の通った主張を展開し、尊敬を抱いていた藤井氏も含めて、この人たちは安全保障問題になると全員が思考停止に陥るのか。国の基盤は経済力と軍事力である。如何なる国もその2つの力の上に立って、政治を行い、外交を行う。これが常識である。にも拘らず、日本には金輪際、安全保障上の自立や一人立ちは許さないというGHQによる統治と、その落とし子としての日本国憲法を厳守せよと、この人たちは言い張る。彼らこそ、日本がまともな国になるのを阻止し続け、日本弱体化をはかる人々だ。

 

河野氏は安倍晋三首相の平和安全保障法制を批判する前に、自身の歴史問題発言の間違いを国民に釈明し、詫びるべきだ。慰安婦の強制連行を世界に言明した1993年8月の記者会見での発言について、氏は批判的なメディアの取材には応じない。決して反論されない場に限って出席して自己主張を展開し、「私は安倍政権に本当に怒っている」などと言う。しかし、「本当に怒っている」のは国民であり、怒りの対象が自分であることを、河野氏は認識すべきだ。

 

村山氏は、安保法制のような大事な問題について、安倍政権はもっと議論すべきだと強調したが、私は反射的に氏の独裁専制振りを思い出す。

 

社会党党首として、自衛隊は違憲だと唱えていた村山氏が、河野氏らと組んで政権を奪取し、首相の地位を得た。首相になった村山氏は自衛隊合憲論へと身を翻したが、その時点で全国の社会党支持者に対して十分な説明や時間をかけた議論をしたのか。モーニング姿に正装し自衛隊の観閲式などで、立派に職務を果たせと訓示したが、そのときも、社会党支持者らに十分説明したのか。

 

私は社会党や氏が支持者に対して十分説明したという話を寡聞にして聞かないが、少なくとも村山氏の変節がここで止まっていれば、まだ国民は救われる。しかし、氏の節操のなさには続きがあった。1年半で首相を退き、社民党党首に就いたら、氏はまたもや自衛隊はやはり違憲だと言い出した。


軍事力への忌避感

 

現在の社民党に繋がる日本社会党には、それなりの長い歴史と熱心な支持者が存在した。その支持者に、国の安全保障の最重要点である自衛隊と憲法の関係について、違憲から合憲へ、再び違憲へと変転し続けたことについて村山氏は一体どれ程説明したのか。納得してもらえる議論は殆どしていないはずだ。であれば、氏は安倍首相批判などをする前に、自身の軌跡をふりかえり、独裁専制君主のような方針転換に心からの反省を示すべきだ。


“長老議員”たちは、彼らが憲法を守れと主張している間に、世界がどう変化し、それがなぜ起きたのか、考えたことがあるだろうか。

 

誰の目にも明らかなように、アメリカは中東、ヨーロッパ、アジア、世界各地域で影響力を低下させている。対照的に、中国は軍事的膨張を続けている。このような変化のきっかけが中東での混乱だった。拙著『日本の敵』で詳述したが、中東でテロリスト勢力が跋扈し始めた原因は、オバマ大統領が国際政治における軍事力の意味を理解しようとせず、介入に躊躇したからである。

 

2010年12月、チュニジアで民主化運動が発生し、瞬く間にエジプト、リビアへと広がった。当時イラクは米軍の駐留と支援で安定を保ちながら自由選挙を行い、シーア派、スンニ派、クルド人の3勢力による政権誕生に、兎にも角にも漕ぎつけていた。3勢力の協力関係が実現したとはいえ、イラクは危ういバランスの上にあった。にも拘らず、オバマ大統領は公約に従って11年末までにイラクからの米軍撤退を完了させた。

 

イラク、アフガン戦争からの撤兵を公約して大統領となったことにも見られるように、オバマ氏は歴代大統領の中で、軍事力行使に対して恐らく最も強い忌避感を抱く大統領だ。

 

13年9月10日、大統領はシリア問題に関連して、アメリカは世界の警察ではなく武力介入は行わないと演説した。ただでさえ難しいイラクの政権運営は不安定さを増し、マリキ首相率いる政府は少数派のスンニ派住民やクルド人への目配りが行き届かず、結果としてシーア派以外は退けられた。

 

マリキ政権下のイラクが直面するこうした一連の問題に、オバマ大統領は積極的に関わろうとしなかった。混乱と不満が拡大していく中で過激派が力をつけ、「イスラム国」勢力を生み出し、中東をより深い混迷に陥らせたのである。中東における混乱の主原因はオバマ大統領の無策だったのである。


日本国民の命と領土を守る力

 

南シナ海で中国が埋め立てを加速させたのは、この1年半、つまり、14年以降である。プーチン大統領がウクライナからクリミア半島を奪ったのが、オバマ大統領の「アメリカは世界の警察ではない」という宣言から半年後だった。中国とロシアを国際法無視の蛮行に走らせたのも、オバマ大統領の武力不介入宣言だったのである。

 

国家にとっての最重要の責務は、国民の命を守り、国土、領海を守り、民族が民族らしい生き方を追求する自由を守ることだ。如何なる国家にとっても、その責務は基本的に自力で担うものだ。

 

だが、日本には国民を守るに足る十分な自力が備わっていない。現行憲法はそのようなことを禁ずる精神で作られており、だからこそ、戦後ずっと、アメリカが日本を守る形が整えられてきた。しかし、今、アメリカが自分たちは世界の警察ではないと言っているのだ。この状況下で日本国民の命と領土を守る力を、日本国自身が身につけなければならないのは明らかだ。それを達成しようとしているのが、いま国会で議論されている安保法制である。

 

前出の“長老”たちは烈しく安保法制に反対したが、仮に一連の法改正がこの国会でなされなかったとすると、どういうことになるのか。それは中国に大いなる誤解を与えるだろう。しっかり自分たちを守るという日本人自身の気概が十分ではなく、実力も大したことはないと判断されれば、そのときが一番危うい。

 

危険な国に対しては、十分な抑止力で行動を起こさせないことが最善の防衛力につながる。こちら側に十分な力と意志があるのを見せることだ。それをしなかったために、オバマ大統領は中東のみならず世界中に混乱をひきおこした。前述の“長老議員”らには、日本のやる気のなさが、オバマ大統領のやる気のなさと同様の構図で中国の対日侵略を招いた場合、政治家としてどう責任をとるのかを問いたいものだ。

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