闘うコラム大全集

  • 2015.07.09
  • 一般公開

百田氏発言、朝日に批判の資格はあるか

『週刊新潮』 2015年7月9日号

日本ルネッサンス 第662回


健全な民主主義社会であり続けようとするなら、報道及び言論の自由を守るのは当然だ。言論の自由こそ、国家の基本的価値として尊重されなければならないと、私は信じている。

 

そのうえで、自民党若手議員の勉強会「文化芸術懇話会」(文芸懇)に講師として招かれた百田尚樹氏の発言に対する批判と自民党の対応には疑問を抱く。メディアは百田発言と文芸懇に関して「沖縄・報道の自由、威圧」(朝日新聞、6月27日)などと一斉に批判を浴びせ、自民党は文芸懇代表の木原稔党青年局長を更迭し、1年間の役職停止を決めた。

 

問題となった百田氏の発言は一体、どのようになされたのか。氏によると、若手政治家の勉強会に招かれ、冒頭でのカメラ撮りを除けばそのあとは取材なしのオフレコだと説明されて、約1時間語ったという。


「メディアの人たちは全員外に出たんです。けれど部屋の仕切りの磨りガラスに人の耳の形がくっきり見えていました。ガラスに耳をくっつけているんだ。僕の地声は大きいし、マイクも使っているから丸聞こえやなぁと思ったんですが、取材なしのオフレコやから、また、これを書いたらルール違反ですと木原さんも言ってましたから、気にしないで喋ったんです」(百田氏)

 

日本では、オフレコで語ったことでもしばしばリークされる。その意味で、日本のジャーナリズムのオフレコルールは必ずしも当てにならない現状がある。そうした中、氏は質疑応答で沖縄のメディアについて、「左翼勢力に乗っとられている。先生ならどんな対策をとりますか」と問われた。質問した長尾敬衆院議員の話だ。


「平和活動の名の下に、反社会的活動が行われている事実が沖縄にはあります。こうしたことをメディアは報道すべきだと、言いました。それはきちんと事実を報じてほしいということであり、何かを報じてはならないという言論弾圧ではありません」


多様性が重要

 

百田氏が語った。


「質問に対して、僕も沖縄メディアで批判されていると言って、2つの新聞は潰さなあかんけれども……とそこで言葉を濁したんです。落語家が語尾を濁す形を意識して、断定表現を避けたんです。言論を弾圧しようなんて全然、思っていません」

 

新聞社に「圧力をかけたらどうか」との問いもあった。氏が説明した。


「僕はこれは語るべきことではないと思い、それ(圧力をかけること)は難しいと言って、すぐに話題を切り替えました。新聞よりもテレビの方が影響力は大きいですから、テレビ局の体制を批判しました。地上波テレビ局の電波使用権が半世紀以上も、いわば既得権になっているのは問題です。この独占事業分野に自由競争の原理を導入すべきだと、かなり熱を込めて語りました。でも、この件はあまり報道されていません」

 

上智大学教授で、報道・表現の自由に詳しい田島泰彦氏はこう語る。


「メディア批判は自由にやってよいと思います。但し、それをどう表現するかが問われます。右寄りであれ左寄りであれ、新聞を潰すという発想は妥当ではないと思います」

 

百田氏も「本気で潰さなあかん……」と言ったのではないと語る。メディアへの圧力についても氏は「難しい」と語り、話題を変えている。ただ、その言葉だけをとれば、追及される脇の甘さはあった。

 

田島氏は、言論、表現、報道の分野では、もっと幅広く多様性を認めることが大事だと強調する。


「欧米のメディアは政治的スタンスがはっきりしています。スタンスが異なるから、ない方がいいとまでは、彼らは言わない。異なる相手と議論することで初めて、多様で多元的であることを前提にした、より健全な社会が生まれます。それは日本的な公正中立というものとも異ります。応酬し、批判し合うことが大事です。日本に欠けているのはその点でしょう」

 

大事なことは、多様な物の見方と多角的な情報を提供する場を社会全体で確保することだ。メディアはその最先端で、幅広い視点と全体像を示す多様な情報を報じる責任がある。

 

百田氏らへの批判の先頭に立っている感のある「朝日新聞」は、そのようなメディアとしての機能を果たしているか。沖縄の2紙はどうか。

 

朝日の慰安婦報道における酷い偏りや、福島第一原発所長の吉田昌郎氏の調書についての歪曲報道は、私たちの記憶に新しい。朝日が、慰安婦の強制連行に関する吉田清治氏の嘘を32年間も放置した末に、関連記事を取り消すと発表したとき、私は、朝日が反省し、世界に広まった自らの報道の間違いを正すべきだと批判した。


バランスのとれた判断

 

では朝日は真に反省したか。彼らは第三者委員会に検証を任せ、「報告書」が昨年12月に発表された。委員には慰安婦問題の専門家は誰ひとり選ばれておらず、従って、その内容が的外れなものになったのは当然だった。

 

専門家抜きに如何にして真の検証が可能だと、朝日は考えたのか。その答えは、朝日の去年8月5日付の「慰安婦問題の本質、直視を」と題した杉浦信之氏による1面の主張から見てとれると思う。氏は朝日批判を「いわれなき批判」だと逆に非難した。十分な反省ができないのである。その結果、朝日は、言論・報道の自由と表裏一体の、多様な物の見方と多角的な情報提供を拒絶し続けていると言われても仕方がない。その朝日から多くの読者が離れている。廃刊などしなくても、信頼に値する報道ができないとき、読者は離れていく。私はそれでよいと思う。

 

沖縄の2紙も同様だ。彼らは、メディアの重要な役割である多角的多層的な情報を報じているか。そうではないだろう。現在審議されている平和安全法制だけでなく、沖縄紙の偏向報道について、私はこれまで幾度か言及してきたが、沖縄メディアの情報の偏りの中で、読者は如何にしてバランスのとれた判断を下せるのか、疑問に思わずにいられない。

 

沖縄には、2紙とは別の新しいメディアが必要だと私は考えている。もっとバランスのとれた情報を提供する必要があるのであり、2大紙の偏向した情報しか読めないとしたら、読者は本当に気の毒だ。

 

さて、自民党は烈しい批判に驚いたのか、党内の勉強会での発言が大問題となり、安保法制を通すために木原氏の処分を急いだ。であれば、先に衆議院の憲法審査会に長谷部恭男早大教授を招いた船田元氏の責任はどうなのか。船田氏は安保法制の議論を進め、憲法改正を実現すべき役職にありながら、それに逆行する人選を行った。日本に、それがどれ程深刻な負の影響を与えるか。そのことを考えれば、まず、船田氏の処分こそ考えるべきだ。

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