闘うコラム大全集

  • 2016.06.02
  • 一般公開

激変する国際情勢、日本は変われるか

『週刊新潮』 2016年6月2日号

日本ルネッサンス 第706回


いよいよ先進7カ国首脳会議が始まる。6度目の日本開催となる伊勢志摩サミットを歴史の検証に耐えるものとしたい。国際情勢が激変する真っ只中で、主要国は問題の複雑さにもがきながらも未来の地球社会の基本方針を決定し、日本はその中で重要な役割を担わなければならない。

 

日本の役割は、中国の暴走を抑止するのに十分な経済力と軍事力の枠組み確立の先頭に立つことである。アメリカの内向き志向を念頭に、日本がそのような提案をする資格を身につけるために、日本自身が真の変革への姿勢を見せていきたい局面である。

 

国家の生き残りのために世界各国は真剣に努力している。その一例にサウジアラビアの「革命一歩手前」の改革がある。

 

世界最大の産油国、サウジアラビアは2900万の人口を抱え、歳入の実に8割を石油収入に頼ってきた。豊富な原油は神の恵みとして、医療も福祉も教育も国民に無料で提供し、税も課さずにきた。だが昨年1月に第7代国王が就任し、4月に子息のムハンマド・ビン・サルマン氏が副皇太子に就任して様相が一変した。

 

MBSの通称で呼ばれる副皇太子は父親である国王の下、国家のみならず国民の在り方をも変えようとしている。「油価が1バレル30ドルでも70ドルでも構わない。油価は私の闘いではない」と言ってのけるのが副皇太子だ。

 

彼はサウジアラビアを石油中毒体質から引き剥し、国営石油会社アラムコを含む経済全体の民営化をはかり、国家に依存する生き方ではなく国民に自立を促し、初めて国民に税を課すことを考えている。宗教はより穏健なイスラム教を目指し、現在は映画の上映さえも禁じられている国で公共の娯楽を認めようという。


中東政策の失敗

 

現体制の最大の受益者である7000人の王族やイスラム教指導者たちの反発は侮れない。サウジアラビアはイスラム教徒の9割を占めるスンニ派の盟主であり、イスラム教純化路線で知られるワッハーブ派の本拠地であり、ISなどの思想的源流はサウジアラビアにあると言われている。そうした国内事情の下での改革には、多くの困難が待ち受けている。それでも大胆な改革に踏み切るのは世界情勢が激変しているからだ。

 

アメリカの豊富なシェールオイル産出で油価は下落し続け、IMFの予測では2020年にはサウジアラビアの外貨準備は底をつく。また、国民の生活水準が向上したことで、サウジ産出の原油は38年には全て国内で消費されてしまう。パラダイスは続かないのである。世界最大の産油国サウジが原発16基の建設計画を進める理由がここにある。

 

一連の改革で、サウジアラビアは対外政策においても大きな変化を辿りつつある。アメリカの盟友でありながらロシアに接近しているのだ。アメリカの中東政策への不満が強いのである。とりわけアメリカとイランが昨年7月に核合意に達したことが大きな理由だ。サウジの最大の国家目標はイラン打倒であるにも拘らず、核合意は10年後、イランに核開発の道を開く危険性を孕んでいるのだ。

 

オバマ大統領の中東政策は失敗の連続だった。アメリカは11年末までにイラクからの撤兵を実現したものの、その後のISなどの台頭で、14年6月以降、五月雨式に軍事力を投入せざるを得ず、16年4月18日時点で4087人の軍人が派遣されている。

 

IS問題解決の展望もないまま、オバマ大統領は退任することになるが、アメリカの中東戦略は事実上、手詰まりなのである。

 

オバマ大統領は5月23日、伊勢志摩サミットに先駆けてベトナムを訪れ、同国への武器輸出の全面的解禁に踏み切った。ベトナム戦争終結から20年すぎた1995年の国交正常化、それからさらに21年後のいま、オバマ大統領は自身が拘ってきたはずの人権問題で妥協してベトナムへの武器輸出を完全に解禁した。アメリカ単独でアジアの秩序を維持しようというのではなく、各々の国が相応の努力をせよという姿勢である。ベトナムへの米国型武器輸出の完全解禁は中国を念頭においたものだ。1000年もの長きにわたり中国の支配を受けてきたベトナムの中国への心理的な恐れは想像以上に深く、その分、反発も凄まじい。かつての天敵アメリカへの接近は、中国への恐れ及び反発と、表裏一体である。

 

中国の支配下に組み入れられないために如何に自力をつけるか、その戦略作りにベトナムは心を砕いてきた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の創始国のひとつが彼らである。TPPはベトナムの一党独裁体制、国有企業、権益構造などを切り崩し、政権中枢の人々の個人的利益をも切り崩していく。それを十分承知で、中国に圧し潰されないためにベトナムは変わろうとしているのである。


核戦略を転換

 

こうした中、中国の強硬策は激しさを増す。中国共産党が国民の政治的発言に神経をとがらせ、言論の自由を厳しく規制していることは周知の事実だが、言論統制はいまや経済分野にも及ぶ。習近平主席は新華社、人民日報、中国中央テレビを今年はじめに訪れ、「中国関連でよいニュースを伝えるように」と指示した。このあからさまな介入に先立って昨年秋頃から、経済界への介入が始まった。中国の経済展望や中・長期計画を否定したり、疑問を呈示することは許されなくなるわけだ。

 

このように国内においてなりふり構わず共産党の権威を固め求心力を高め、外に対しては軍事力を最大限に活用するのが習政権である。

 

2013年に2年ぶりに発表した国防白書で、中国は前回11年の白書にあった「核の先制不使用」の記述を削除した。中国が事実上、核戦略を転換したと見られる軍事活動もあった。昨年11月から12月にかけて、中国人民解放軍海軍の晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)が初の戦略哨戒任務を遂行したのである。

 

中国は1964年以来、「核の先制不使用」を唱え、核弾頭とミサイルを別々に保管することがその証しだとされてきた。しかしSSBNの戦略哨戒任務ではミサイルに核弾頭が装填されていたとされる。これは中国の核先制使用を示唆するものだと専門家らは見ているのである。

 

このように世界各地で大きな変化が起きているいま、伊勢志摩サミットで日本の姿勢が問われるのである。激変する状況の中で国々はそれぞれにもがき、変わろうとしている。生き残るために、その国がその国であり続けるために変わろうとしているのだ。日本も憲法を含めて変わる努力をしなければならない。

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