闘うコラム大全集

  • 2016.10.01
  • 一般公開

核燃料サイクルの技術継承を断ち切る「もんじゅ」の廃炉決定は大きな誤り

『週刊ダイヤモンド』 2016年10月1日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1151


政府は9月23日、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を閣議決定した。他方、核燃料サイクルは堅持するとの方針だ。だが、もんじゅ廃炉は日本の核燃料サイクルの技術継承を断ち切ることであり、政府の主張は矛盾している。

 

政府はフランスの次世代高速増殖炉アストリッドの開発に協力することで技術継承を可能にすると説明する。ところが、東京大学大学院教授の岡本孝司氏は、そもそももんじゅとアストリッドでは目的やシステムが全く異なると指摘する。

 

もんじゅは発電しながらプルトニウム燃料を生産するが、アストリッドは発電ではなく高レベルの放射性廃棄物処分のための設備だというのだ。加えて、日仏間には決定的な自然条件の差があるため、フランスの技術の導入は日本の高速増殖炉の技術開発や核燃料サイクルの完結にはつながらない。

 

地震国日本は全ての原子力関連の施設に特別の対策を必要とする。フランスも他の諸国もタンク型と呼ばれる高速増殖炉を開発してきたのに対して、日本がループ型と呼ばれる独自の型を開発してきた理由もそこにある。

 

簡単に言えば前者は液体金属ナトリウムを入れた大きなおけの中に炉心や熱交換器などを浸した形であり、後者は原子炉を収納した原子炉容器や熱交換器、蒸気発生器などを固定して、配管でつなぐ形である。

 

ループ型はもう1つの高速増殖炉の問題にもよく耐えることで知られている。高速増殖炉は、使用するナトリウムが入り口で400度、出口で550度となり、150度の激しい温度差にも耐えなければならない。そのため、タンクの壁は可能な限り薄くする。厚ければ急激な温度差で破壊されかねないからだ。一方、日本では耐震のため原子炉容器は小型で堅固に、タンクの壁は相対的に厚くする。温度差に対して壁は薄く、地震には厚く。相反する二つの要素を同時に満たすのがもんじゅのループ型だ。

 

アストリッド計画への日本の参画は研究資金の提供が柱となるが、将来フランスの技術が完成しても、前述のように、異なる性格の技術を導入できるはずがない。

 

そのとき日本は再び、地震国の自然条件を満たすループ型高速増殖炉の開発を始めなければならない。しかし、それまで一体日本の誰が技術を継承するのか。いま、もんじゅを廃炉にすれば、技術は確実に途絶える。それは今回の決定を主導した経済産業省も自民党も十分に理解しているはずだ。

 

廃炉支持派の人々はもんじゅが1995年のナトリウム漏れ事故以来ほとんど稼働していないと非難する。確かにもんじゅは問題続きだ。だが、メディアの感情的かつ非科学的非難報道の前で、問題の性質とあるべき対処を説明してこなかったのは政府である。

 

もんじゅのナトリウム漏れの原因は温度計の形状にあった。それは原子炉の安全には全く影響がないと証明された。にもかかわらず、もんじゅは15年間も運転を止められた。

 

いま政府・経産省が学ぼうとしているアストリッドはこれまでに30回もナトリウム漏れ事故を起こしている。だが、その都度、原因を究明し対策を講じ、完成度を高めてきた。フランスにできて、なぜ、日本にできないのか。フランスは高速増殖炉という新しい技術に対するのに専ら科学的アプローチを大事にした。日本は感情論に埋没したまま今日に至るからであろう。

 

政治に期待されることは、国益の為の中・長期的戦略を地道に実行することだ。時に正論は孤立を招く。それでも政治家は言葉を尽くして国民を説得しなければならない。もんじゅ廃炉は核燃料サイクルの挫折であり、資源小国の日本は将来、この分野で中国の属国になりかねない。今回の決定に、私は強く抗議するものである。

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