闘うコラム大全集

  • 2026.06.11
  • 一般公開
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習近平の思い込みが世界の脅威だ

『週刊新潮』 2026年6月11日号

日本ルネッサンス 第1198回


「どす黒いまでの孤独」


自民党副総裁の麻生太郎氏は自身の首相時代を振りかえり、当時の心境をこのように描写した。指導者は孤独である。国家の全責任を一身に負い、国民、国家を守らなければならない。その責任はどす黒いまでの孤独と対だったというのだ。


今、世界を統べる筆頭はトランプ米大統領と習近平中国国家主席だ。尋常ならざる重責の下で、両首脳はどんな精神状態にあるのか。


トランプ氏は夥しい数のメッセージをソーシャルメディアに上げる。氏に関する限り、情報は溢れている。氏自身が喋りまくるからだ。他方、習氏関連のそれは厳しく統制されており、外部から窺い知ることは難しい。表情もとぼしいために、氏の心の中は覗きにくい。ところが、そんな習氏が感情を爆発させていた。5月14、15両日に行なわれた米中首脳会談でのことだ。


2日間の会談で習氏激昂の「最も緊迫した場面」について、英紙「フィナンシャルタイムズ」(FT)が詳報した。習氏は、高市早苗首相が再軍備を進めているとしてこきおろし、アジ演説のように声を荒げて日本を批判したというのだ。日本は米中会談の議題になかったため、米国側は習氏の発言に驚いた、とも報じられた。


FTの報道だけでも衝撃的だが、さらに続きがあった。双日米国副社長の吉田正紀氏が5月29日、「国家基本問題研究所」の総合安全保障研究会で米国務省筋の情報として明らかにしたのだが、会談中、習氏が怒りの余り席を立ち部屋を出て行こうとしたというのだ。


習氏が高市氏を論難したのに対し、トランプ氏は、日本人に深い敬意を抱いている、高市氏とは親密な個人的関係があり、習氏の言うような人物ではない、首相としてよくやっていると擁護した。習氏が立ち上がったのはその時か。


もう一点、FTの報道に「米側代表団は、日本に米国の大規模戦力が駐留していることを中国側に想起させた」との記述がある。自衛隊の佐世保地方総監も務めた吉田氏がこの件りを読み解いた。


「右の記述は中国側が在日米軍の撤退を要求したことへの答えでしょう。日米の絆の強さを示してみせたわけです」


「精神的に不安定」


習氏はさぞ落胆しただろう。米国側は自分の日本非難の言葉に乗ってこない、米軍基地については強硬な回答が返ってくる。


そこで考えてみよう。習氏は日米分断を図る立場から、日本を軍国主義に立ち戻るファシストだと非難して米国の同意を得ようとしたのか。習氏の怒りは戦略戦術に基づいたものだったのか。それとも、日本憎し、高市憎しの感情から、習氏は本当に我を忘れて怒ったのか。


ワシントンの情報筋は、多角的に分析した結果、習氏は本当に怒っていた、感情に流されていたとの結論に辿りついたと語る。


「日中の歴史観の違い、そこから生まれる日本への憎悪感情は日本側が考えるより遥かに深刻です。安倍総理から高市氏まで、日本を普通の国にしようと努力を重ねているが、そのような試みに習氏は本気で反発している。ダヴィデにとってのゴリアテみたいなうっとうしい奴、もう一回敗戦させてやろうという想いが、日本に対してはあるのでしょう」


「日清戦争は習氏のナショナリズムにおいて大きな比重を占めており、台湾を日本に奪われたという恨みにつながっています。マルクス主義者らしく習氏は、自分は歴史の絶対的に正しい側に立っていると信じている。100%間違っていると自分が思う相手には殺人を含めて何をしてもよいと考えていると思われます。日本はそのような一方的な歴史観のターゲットにされていると認識して、対応すべきです」


中国の対日軍国主義批判、歴史戦、琉球論は、右の情報筋の見立ての正しさを証明しているのではないか。


中国人の友人がこう語る。


「習氏は精神的に不安定だと思います。経済不振、高い失業率、軍にはびこる腐敗。粛清しても粛清しても信ずる部下を得られない。そうした中で日本は防衛力を整備中だ。トランプがそれを擁護した。日米の連携に台湾はどう絡むのか。トランプの心が読めない。日韓も近くなっている。こうしたこと全てが、習氏は恐いのです」


台湾のシンクタンク、中央研究院の蔡文軒研究員の調査が興味深い。蔡氏は長年テレビに映る習氏の表情を研究対象としてきた。2015年と25年の抗日戦争勝利の記念軍事パレードでの習氏の表情をAIで分析した。すると悲しみの表情が25年には15年の2.8倍に、嫌悪の表情は2.3倍に増えていた。蔡氏は、25年のその頃は中央軍事委員会の最側近、何衛東副主席らの処分を検討していた時期と重なると分析する。


被害者意識


中国研究の第一人者も語る。


「恐れと不安でしょう。王毅外相は習氏の前では直立不動です。中国共産党には習氏に抗う者はいない。それでも信じられる側近はいない。約半年、北京を離れていないのは余裕がないからです。少しでも忠誠心に疑いがあれば汚職の罪を着せて裁判で死刑にすることも容易です。だから全員がひたすら追従ばかり。こんな絶対的専制に慣れきった習氏には、自分の言うことをきかない高市氏もトランプ氏も理解できず、冷静でいられないのでしょう」


老人医療の専門家で心理学者でもある和田秀樹氏に72歳の習氏の心理を問うた。氏は、習氏の分析ではないと断ったうえで、一般論として、加齢と共に人間の機能の中で真っ先に老化するのは前頭葉だと語った。前頭葉は人間の喜怒哀楽を司り、人間らしさを表現してくれる脳の部位だ。


「前頭葉が老化すると、性格の先鋭化が起きます。頑固な人はもっと頑固に、怒りっぽい人はより怒りっぽくなります。ケチな人は本当におカネが使えなくなる」


あるべき社会秩序についてはどの人も一定の考えを持っていることだろう。中国共産党所属の人物なら尚更、上下関係はかくあるべしとの考えを持っているはずだ。


そのような上下思想が裏切られたとき、被害者意識が生じてもおかしくない。中華思想の持ち主である習氏は明らかに日本を見下している。だが、日本は誇り高く、中国の命令に従わない。その事が怒りや逆恨みにつながるのではないか。和田氏はこれらを習氏に関連づけたわけではない。だが、人間観察はインテリジェンスの重要な一部だ。習氏の内面分析の作業は欠かせない。


折しも、高市政権は国家情報局を設置する。5つの組織が縦割りで集めていた情報を首相直属の同局に統合する。その先に対外情報庁を作り、スパイ防止法も整備する。相当の年月がかかるだろうが、軍事、経済だけでなく、指導者の心理まで読みとれる国になってほしい。

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