闘うコラム大全集

  • 2013.05.23
  • 一般公開

いつまで許すのか、外資の国土買収

『週刊新潮』 2013年5月23日号
日本ルネッサンス 第558号


5月10日、私がキャスターを務めるネットテレビ、「君の一歩が朝を変える!」で「奪われる日本の国土」をテーマに取り上げた。「言論テレビ」が配信するこの番組の、元気のよい名前は品川女子学院の生徒たちがつけた。番組では毎週ゲストを招いて小一時間、地上波のテレビ報道や新聞報道よりもずっと深く問題を掘り下げ、本質に迫る議論を重ねていると自負している。

過日お招きしたのが東京農大客員教授の平野秀樹氏である。氏はこれまでに『奪われる日本の森』(共著)、『日本、買います』(いずれも新潮社)などを上梓した。

日本の土地、とりわけ水源地や森林を外国資本が買い漁っていることは広く知られている。平野氏の報告はそうしたことを知りながら手を拱いてきた日本政府及び国民に冷や水を浴びせかけるものだった。

氏は対談の冒頭、北海道から沖縄まで、○や△印をつけた日本列島全図を示してみせた。○は売却済み、△は現在交渉中の土地を示す。○や△印の島々が目に入る。北海道日本海側の奥尻島、本州に下がって佐渡島、対馬、東シナ海側に移って長崎県の高島と五島列島、鹿児島県の沖永良部島、沖縄県の石垣島などの土地が外資の手に落ちたか、落ちつつある。

島ではないが、重要な土地を抱えている地方自治体として、北海道では日本海側の岩内町に△印、千歳市と倶知安町には両方○印、青森県三沢市が△印、新潟市、東京港区の南麻布、山口県柳井市には各々しっかりと、○印がつけられている。

この他、奪われた島や土地は無数にある。平野氏が語った。

「防衛施設や原発施設周辺の土地か、或いは国境の島々であるかを基準として拾ったのがこれです。いずれも安全保障上、外資に取られてしまえば深刻な結果を招くと思われます」

真珠の首飾り戦略

これらの土地や島々はリゾートにも森林業にも適さないところもあり、経済原理上投資には向かないが、安全保障上の重要性は非常に高い。

たとえば北海道岩内町の近くには原発関連施設がある。佐渡島は中国が租借権を得た北朝鮮の日本海側最北の港、羅津から近く、日本海に目配りを利かすのに欠かせない。長崎県高島はこれまで殆ど話題にならなかったが、この島の重要性を平野氏は次のように説明した。

「長崎県には高島という名前の島が4つあります。売却交渉が進行中なのはその内の佐世保基地にとても近い一番小さな島です」

東シナ海の守りの最前線にある佐世保近くの島を中国が手に入れれば、日本の国防体制の妨げとなる。他の自衛隊基地周辺の土地も中国が買えばどうなるか。数百メートルの距離から電子情報を盗み取る技術が確立されている現在、日本の国防関連情報は容易に盗まれかねない。有事の際、どう利用されるかもわからない。

日本買いを進める外資の9割は中国資本だと平野氏は見る。であれば印のついた島々や土地を線でつなげると日本包囲網のように浮かび上がるその形から或る意図が見えてくる。

連想されるのが、インド封じ込めに中国が展開する真珠の首飾り戦略である。ユーラシア大陸から三角形に突き出るインドを包囲する形で中国がインド洋の島々を手に入れ軍事拠点を築いた。各拠点を真珠の粒に見立てて線でつなぐと、まるでインドをグルリと囲む首飾りのようだ。必要なとき、中国はこの首飾りでインドを締め上げる態勢をとれるわけだ。

北海道、本州、九州、沖縄を網羅する島々の土地買収は、必要な時には対日攻略、或いは封じ込めの拠点となる。その戦略遂行の力となっているのが中国資本なのだ。

平野氏は長年、こうしたことに警鐘を鳴らしてきた。しかし日本政府による外資規制は遅々として進んでいない。

「林野庁は現在、日本の国内の森林約800ヘクタール、ゴルフ場6個分が、外国つまり中国に買われたと発表しています。実際はその10倍、20倍は買われているはずです。極めて深刻です。しかし正確な数字は出てきません。買収しても表に出さなくて済むのが日本の制度ですから」

表に出ないのは、中国の代理を務める日本企業や日本人が買収し、届け出も登記もせずそのまま所有し続けているからだと平野氏はいう。土地売買は1998年までは事前の届け出が必要だった。しかし規制緩和で基本的に事後の届け出で済むようになり、同時に国の業務が県の業務になって、監視が緩くなった。

地方自治体側は、これでは到底国土の管理も防御も出来ない、自治体の力には限界があると主張する。規制する法律を整えてほしいという悲鳴にも似た陳情は100件に上る。

「民主党が与党だったとき、国土を守るプロジェクト・チーム(PT)が出来ました。その会合で、ある女性議員が地方自治体の陳情に対し国の見解を示せと迫ったのです。そのときの外務省の担当者は、『懸念懸念と仰るが、何を困っているのか、個人的にはわからない』と答えました。切迫感がないのです」

各国は三重四重の規制

PTの作業はそこで終わった。議論も作業も全く先に進まなかった。理由を平野氏はこう推測する。

「民主党ですからね、仕事が増えるということで全て先送りされ、不作為のまま今日に至っています」

民主党の下で不作為が目立ったのは事実であろう。同時に、中国などに土地取得を許す無防備な制度を作ったのは自民党である。自民党親中派議員の中には中国に気兼ねして土地取引の規制に及び腰の人物もいる。

では、この危機をどう乗り越えるのか。まず、政治家も国民も、国土に関する国際社会の常識と日本の異常さを認識することが大事だ。国土売却になんの規制もないのは、世界でおよそ日本一国のみとされる。買われた国土をどう使われようが規制出来ないのも日本一国のみという。

外資を土地売買及びその使用で規制することは、世界貿易機関(WTO)の一員として困難だという意見がいまだに存在する。お役所には、規制をかけられないのは財産権を侵してはならないと定める憲法29条のためだという声も強い。

しかし、WTO加盟の中国は一寸の土地さえ売らない。韓国、シンガポール、豪州、インドなどは外国資本の土地取得に厳しい条件がある。米英独仏では買収は可能だが、戦略上重要な地域の売買は許されない。事前に買収目的を明らかにしなければならず、買収後は厳しく監督される。政治判断で売買の取り消しも可能だ。WTO加盟国でありながら、各国は三重四重の規制をかけている。

この厳しい政策は当然である。国土を売ることは国家を売ることだ。売買も使用も制限しない日本の在り方を、急ぎ、変えなければならない。

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