闘うコラム大全集

  • 2017.10.12
  • 一般公開

政権担当の資格はありや希望の党

『週刊新潮』 2017年10月12日号

日本ルネッサンス 第773回


安倍晋三氏の自民党を選ぶのか、小池百合子氏の、名目上は希望の党だが事実上の民進党を選ぶのか、10月の選挙はわが国の命運を左右する政権選択選挙となった。


それにしても前原誠司氏はどんなことを期待して、150億円に上る政党交付金と680万票を有するといわれる労組、連合をつけて、小池氏に民進党を差し出そうとしたのだろうか。前原氏が民進党全員の受け入れを小池氏に依頼したのに対し、小池氏は安保法制と憲法改正に賛成することという条件をつけて、一人一人の議員の選別をすると言い始めた。


前原氏が、このような小池氏による「排除」の論理を予測して、民進党左派の切り捨てを目論んだとは思えないが、実はその作業こそ、ある意味で前原氏に期待されていたことだった。


枝野幸男氏と代表の座を争ったとき、前原氏は民共共闘の見直しに言及した。だが、代表に就任すると、その基本軸が揺らぎ始めた。笠浩史氏らの離党はそれが原因だった。小池氏と希望の党が、これから民進党議員の選別をどのように進めるのかは定かではないが、民進党議員全員が希望の党にそっくりそのまま移ることはもはやない。


10月1日、枝野氏は、前原氏が「全員」新しい枠組みの中でやっていくと「あれだけ力強く」説明したので前原提案を了承したと語っていた。恨みがましい氏の主張が、小池氏に通ずるはずもないだろう。小池氏はこの件について問われ、「私は(前原氏に)考え方が一致する人と言ってきました」と語り、左派切り捨ての「排除の論理」を民進党が納得できないのは、民進党の側のコミュニケーションの問題だと言ってのけた。


結局、前原氏の詰めが大甘だったということだ。だがそれ故に見えてきたこともある。私はそれを民進党を考える上での貴重な教訓だと思う。


哀れな姿


民進党の全議員を対象にして、前原氏が自身の案を説明したとき、枝野氏が語ったように全員が納得した。小池氏の下に結集することに、少なくとも誰も反対せず、全会一致で了承したのである。


私は民進党の支持者ではないが、同党の中の幾人かについては期待するところもあった。枝野氏ら左派勢力の人々とは全く考え方は異なるが、それでも彼らなりの理論を展開する熱意や、彼らなりの筋を通そうとする姿勢には、一定の敬意を払ってきたつもりだ。


それが一体どうしたのだ。どの議員も皆、泥船から逃げ出すように、民進党を捨てようとした。そこまではよいが、逃げ出して身を寄せる先が小池氏である。議席を失えば議員ではなくなる。それがどれ程大変なことかは多少は理解しているつもりだ。しかし、民進党議員は、議席確保のためなら、なりふり構わないという哀れな姿である。


彼らにとって小池氏の下に走り込む大義は何なのか。反安倍、打倒安倍政権か。であるなら安倍政権のどの政策が受け入れられないのか。


だが、小池氏が掲げるのは安倍氏と基本的に同じく安保法制賛成、憲法改正賛成である。片や、民進党の全議員が安保法制に反対した。安保法制が成立した後も、つい先頃まで安保法制廃止を唱えていた。そんな人々が、いま安保法制を掲げ、かつては日本の核武装にも言及した小池氏の下に結集しようというのか。


彼らは東京都議選のような大ブームの再来を期待したのだろうか。そこに行けば議席が確保できると考えたのであろうか。政策の違いを物ともせずに議席確保に走る姿を見せて貰ったいま、野合とはこういうものかと実感する。小池氏の希望の党の実態はまさにここにあるのであろう。


若狭勝氏が希望の党を代表していくつかの報道番組に出ているが、氏は安保法案採決のとき欠席して反対を表明した。その人物がいま、小池氏の右腕となり、安保法制に反対し続ける議員は排除するというのであるから、面妖なことだ。


氏はその件について、法律の細部を取り上げ、反対したことを正当化していた。だが、2年前のあの場面で、日本が集団的自衛権の行使に全く踏み込まない道を選んだ方がよかったと、氏は考えているのだろうか。だとすれば、希望の党が掲げる安保政策とは全く合わないだろう。


小池氏の動きは日替り定食のように日々変わるために、明日、何が起きるかわからない。そうした中で、10月1日の今日、この大騒動から意味のある事象を拾うとすると、民進党の左派勢力が彼らなりにグループを形成しようとし、共産党がそれらの人々と連携するために門扉を開けて待っているということだ。


連合はどうするのか


大雑把に言えば、これで民進党が左右に二分される。そこで、次の問いは、では、連合はどうするのかである。680万票を有する巨大組織も、連動して左右に割れるとしたら、瓢箪から駒であろう。


連合は少数派の自治労や日教組が、数の多い民間労組、たとえば電機連合などを支配してきた。体質の全く異なる官公労と民間労組が無理を重ねて連携を維持してきたと言ってよいだろう。


肌の合わない二つの労組群が共同歩調をとるなど、そもそも無理なのだが、一旦連携してしまえば、分かれるのは非常に難しい。しかし、希望の党に走る議員と別の道を歩む議員とに民進党本体が分裂すれば、連合も同様に分裂できるのではないか。もしそうなれば、希望の党と民進党のドタバタ劇にも歴史的な意義が付与されようというものだ。


今、私たちの眼前には北朝鮮有事が迫っている。現状のままでは、日本はこの危機に対応できないだろう。たとえば、10万人から30万人規模の難民が南北両朝鮮から日本に流入することが考えられる。韓国への脱北者の中に韓国転覆の密命を帯びた工作員が紛れ込んでいるのと同様、わが国にも武装難民が紛れ込む可能性は十分にある。


北九州や日本海沿岸の鳥取、島根、新潟、秋田など各県に万単位で押し寄せる難民は警察だけでは手に負えない。陸上自衛隊が主軸となって、仮上陸を許可し、衣食住を手当し、身元調査、感染症対策などを施して社会の安全を維持しなければならない。だが陸上自衛隊は14万人弱しかいない。彼らは北朝鮮有事で軍事的任務もこなさなければならないのであり、その一方で難民にどう対処できるのか。


日本は早急に法的、物理的な準備を進めなければならない。同時進行で米朝軍事衝突に関連して、軍事的役割も果たさなければならない。現在の安保法制を活用して、或いはそれ以上の法整備をして備えなければならないだろう。


このような事態が今年末から来年にも現実となる可能性が高い中で、希望の党が試されていくのだ。

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