闘うコラム大全集

  • 2018.08.18
  • 一般公開

中国マネーが席巻する征服と略奪の網 日本は負の流れ変える歴史的使命がある

『週刊ダイヤモンド』2018年8月11・18日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1243 


中国で異変が起きている。7月26日、北京の米大使館付近で爆発事件が発生、中国当局は内蒙古自治区出身の26歳の男を拘束した。情報筋は、少数民族に対する苛酷な監視の網をくぐってモンゴル系の青年が爆弾を所持して北京中心部の米大使館に近づくなど、あり得ないと強調する。


「産経新聞」の藤本欣也記者が7月17日に北京発で報じたのは、(1)7月第2週、屋内外の習近平中国国家主席の写真やポスターの即刻撤去を命じる警察文書がインターネットで拡散した、(2)中国政府系のシンクタンク「社会科学院」で習氏の思想及び実績を研究するプロジェクトが中止された、(3)党機関紙「人民日報」一面から習氏の名前が消え始めたという内容だった。


いずれも権力闘争の明確な兆候と見てよい変化である。


中国の報道では常に鋭い視点を見せる産経の矢板明夫記者も7月18日の紙面で以下の点を報じた。(1)7月初め、江沢民、胡錦濤、朱鎔基、温家宝らを含む党長老が連名で党中央に経済・外交政策の見直しを求める書簡を出した、(2)長老たちは、党内にはいま個人崇拝や左派的急進主義などの問題がある、早急に改めよと要請した、(3)習氏の政治路線と距離を置く李克強首相の存在感がにわかに高まった。


(2)の「個人崇拝」や「左派的急進主義」などの表現は、独裁者、毛沢東の時代に逆戻りするかのような習氏を念頭に置いた警告であろう。長老群の習氏に対する強い不満が読みとれる。


8月1日の産経で、中国河北省の北戴河から西見由章記者が報じた。北戴河は毎夏、中国共産党の指導部や長老が一堂に会し、2週間ほどかけて人事や重要政策を議論する場として知られる。会議に備えて、渤海に面した北戴河一帯は数キロにわたって交通が遮断され厳重な警備体制が敷かれるが、街中で見掛ける看板には、ごく一部を除いて習氏の名前がないというのだ。


最も顕著なのが、「新時代の中国の特色ある社会主義思想の偉大な勝利を勝ち取ろう」という大スローガンを書いた看板である。これは昨年10月の第19回共産党大会で華々しく打ち上げた習氏の思想である。当然、「習近平による」という枕言葉がつかなければならない。にも拘わらず、沿道沿いの看板には習氏の名前はないのである。


また、街のどこにも習氏の肖像画や写真が1点もないそうだ。習氏の個人独裁体制が批判されているのは明らかといえる。


北戴河で長老たちはどんな人事を要求するのか。学生時代の級友たちを重要閣僚や側近につける習氏の「縁故政治」にストップをかけるのか、憲法改正まで断行して、習氏は自らの終身主席制度への路線を敷いたが、それを阻止するのか。そこまでの力が長老たちにあるのかは不明だが、中国が尋常ならざる混乱に陥る可能性もある。


習氏の強権政治が牽制されるにしても、警戒すべきは国際社会に対する中国支配の網が、彼らの言う一帯一路構想の下で着々と進んでいることだ。一帯一路構想で620億ドル(約6兆8200億円)という最大規模の融資を受けたパキスタンは、そのプロジェクトのおよそ全てで債務の罠にはまりつつある。過大借り入れで返済不能に陥るのはもはや避けられないだろう。7月の選挙で誕生した新政府が、いつ世界銀行などに緊急援助を求めるかが注目される中で、中国の債務の罠に捕捉された国々はスリランカのように、港やダム、重要インフラ、広大な国土を99年間などの長期間、中国に奪われてしまいかねない。


中国がどうなろうと、中国マネーによる征服と略奪の網は広がっている。この負の流れを米欧諸国と共に変えていくのが日本の歴史的使命である。奮起し、世界の秩序構築に貢献する責任を政治には自覚してほしい。

言論テレビ 会員募集中!

生放送を見逃した方や、再度放送を見たい方など、続々登場する過去動画を何度でも繰り返しご覧になることができます。
詳しくはこちら
Instagramはじめました フォローはこちらから

アップデート情報など掲載言論News & 更新情報

週刊誌や月刊誌に執筆したコラムを掲載闘うコラム大全集

  • 異形の敵 中国

    異形の敵 中国

    2023年8月18日発売!

    1,870円(税込)

    ロシアを従え、グローバルサウスを懐柔し、アメリカの向こうを張って、日本への攻勢を強める独裁国家。狙いを定めたターゲットはありとあらゆる手段で籠絡、法の不備を突いて深く静かに侵略を進め、露見したら黒を白と言い張る謀略の実態と大きく揺らぐ中国共産党の足元を確かな取材で看破し、「不都合な真実」を剔抉する。

  • 安倍晋三が生きた日本史

    安倍晋三が生きた日本史

    2023年6月30日発売!

    990円(税込)

    「日本を取り戻す」と叫んだ人。古事記の神々や英雄、その想いを継いだ吉田松陰、橋本左内、横井小楠、井上毅、伊藤博文、山縣有朋をはじめとする無数の人々。日本史を背負い、日本を守ったリーダーたちと安倍総理の魂と意思を、渾身の筆で読み解く。

  • ハト派の嘘

    ハト派の噓

    2022年5月24日発売!

    968円(税込)

    核恫喝の最前線で9条、中立論、専守防衛、非核三原則に国家の命運を委ねる日本。侵略者を利する空論を白日の下にさらす。 【緊急出版】ウクライナ侵略、「戦後」が砕け散った「軍靴の音」はすでに隣国から聞こえている。力ずくの独裁国から日本を守るためには「内閣が一つ吹っ飛ぶ覚悟」の法整備が必要だ。言論テレビ人気シリーズ第7弾!