闘うコラム大全集

  • 2019.03.28
  • 一般公開

深まる危機、中国による台湾統一

『週刊新潮』 2019年3月28日号

日本ルネッサンス 第845回


台湾が危ない。このままの状況が続けば、来年1月の総統選挙で蔡英文総統の与党民進党が敗北し、国民党が政権を奪還し、台湾は事実上、中国勢力に席巻される。


3月初めに金門島を取材したノンフィクション作家の門田隆将氏は、インターネット配信の「言論テレビ」で台湾を応援することが日本の国益だと強調したが同感だ。


「国民党イコール中国です。台湾が国民党政権に戻れば、それは単なる政権交代ではなく、台湾から中国への国家の交代になります。日本にとって最悪の状況です」


氏は、『この命、義に捧ぐ』(集英社)や『汝、ふたつの故国に殉ず』(角川書店)など、日台の歴史に関する著作を世に問うてきた。


台湾情勢は、米中両国のせめぎ合いの中で、危うさを増している。中国の全国人民代表大会(全人代、国会)が開幕した3月5日、李克強首相は演説で、台湾に関しては如何なる独立への動きも許さず「断固」中国の国益を守ると強い表現を用いた。


中国の台湾政策は今年1月2日、習近平国家主席が明確に語った。ポイントは、「92年合意」(中国と台湾はひとつの国)及び「一国二制度」を守ること、「台湾への武力行使の放棄は約束しない」である。


「台湾への武力行使」という表現は江沢民時代の後半から使われなくなり、胡錦濤時代にもほとんど言及されなかった。それを習氏が再び口にし始めたのだ。


習氏は、外国勢力に圧迫されていた中国を「立ち上がらせた」のは毛沢東で、貧しい中国を「豊かにした」のが鄧小平であり、そして自身は中国を「強くする」と誓っている。その決意が軍事力を用いてでも台湾独立を阻止し、中国の権益を守るという宣言につながっている。だが中国は、米国との貿易戦争の真っ只中だ。台湾への強硬策はとれない。結果として習氏は柔軟さを前面に出してきた。


融和策の罠


今月10日、習氏は福建省代表団と会談した。同省は台湾に最も近く、習氏が17年間勤務した場所だ。氏は台湾戦略を次のように語った。


「台湾海峡両岸の融合発展のために、新たな道筋を模索する」「経済と貿易協力の一層の円滑化にとどまらず、インフラ施設の連結、エネルギーと資源の相互調達、産業標準の共通化が重要だ」。


台湾を中国の一省と位置づけ、中台統合を実態的に進めていく考えに他ならない。現に昨年8月には金門島への給水事業が始まり、現在、電気供給の準備も進行中だ(3月2日、『産経新聞』)。一体化はすでに始まっているのだ。習氏はこうも語った。


「大陸の民衆に奉仕するのと同じように台湾同胞に福祉をもたらす。台湾同胞の声に耳を傾け、台湾の民衆にプラスになる政策や措置をさらに導入する」


つまり、「台湾の中国化」を柔軟路線で進めると言明しているのだ。同発言を受けて、「台湾独立を目指す如何なる動きにも断固対処する」と強く牽制した李氏も全人代閉幕後の15日の会見で調子を変えた。


「台湾同胞に優遇策を準備する。大陸で働き、学び、仕事し、暮らす人々は大陸の人々と同じ施策を享受できるようにする」


中国の台湾統一政策は堅固な軍事的構えを背景に、経済的社会的融和策を前面に出す形で着実に進む。ここには一帯一路で浸透する「債務の罠」と似通った面があるではないか。チベットを騙して領土を奪い、弾圧した手法とも共通項があるではないか。台湾は中国による融和策の罠を認識し備えるのがよい。が、備えができているとは思えない。金門島を取材した門田氏が指摘する。


「金門島は大陸から2キロ、国共内戦の最後の戦場でした。私は『この命、義に捧ぐ』で書きましたが、根本博陸軍中将ら、日本人の力もあって中国共産党の攻撃から守り通した奇跡の島が金門島です。なのに10年振りに訪ねると、島には中国人観光客が溢れていて本当に驚きました」


往時の激戦地はいま、台湾人が中国大陸を訪れる拠点にもなっている。180キロ離れた台湾本島から飛行機で金門島に飛び、水頭港から向かい側の福建省厦門(アモイ)の港にフェリーで20分。これが一番安く大陸に行く方法で、賑わっているというのだ。


中国人観光客を無防備に受け入れ、かつての激戦地を観光地に一変させながらも、多くの台湾人は中国の一部にはなりたくないと考えている。中国が一国二制度を強要する中で、「絶対に受け入れられない」と拒否した蔡英文総統の支持率が15%から23%に上昇したのは台湾人が中国に抱く恐怖心ゆえだ。


国民党はそうした台湾人の心理をよく知っている。だからこそ一国二制度を公約に掲げたりはしない。彼らは本音を隠したまま、来年の選挙で蔡氏・民進党を一層弱体化させ、総統の座を奪還したいと考えている。


救援を求めている


門田氏が語った現時点での選挙の見通しは衝撃的である。


「台湾のTVBSによる世論調査では、民進党は蔡英文氏にしても、もうひとりの候補者で日本大好き人間の前台南市長、頼清徳氏にせよ、国民党に勝つのは非常に難しいという結果が出ています。


国民党の側で名前の挙がっている候補者は4名、この中で蔡氏が勝てるかもしれないのは、高齢(71歳)故に出馬は難しいとみられている国民党主席の呉敦義氏だけです」


もう一人、その行動を注視すべき候補者がいる。現在台北市長の柯文哲氏である。元々医師だった柯氏は2014年の選挙で民進党の支持を受けて当選したが、必ずしも政策面で民進党と同一歩調ではない。しかし、彼には根強い支持があり、無所属で出馬する場合、国民党の候補者でも、青果市場の社長から高雄市長になった韓国瑜氏を除いて、歯が立たない。柯氏が出馬する場合、国民党が苦戦するのは確かだが、かといって民進党にもチャンスはない。


「民進党の敗北はほぼ間違いない。その時点で台湾がどう変わるのか。大半の台湾人が望んでいる現状維持にはそれなりの力が必要です。台湾にその力があるか、疑問です」


3月2日、『産経新聞』が蔡英文氏の記事を一面で大きく扱った。日本との「安全保障協力の対話のレベルを上げることが非常に重要」として、日台両国の当局者の対話を呼びかけた。蔡氏が救援を求めている。日本は米国と協力して応えるのがよい。


自民党を中心にわが国と台湾の対話は様々なレベルで行われてきた。軍事情報も日米台の間で一定程度共有されているはずだ。TPPなど、経済分野での日台協力はむしろ、日本にも望ましい。成果に繋がっていない課題もあるが、それでも日台協力を強力に推進するための最善の知恵を働かせるときだ。

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