闘うコラム大全集

  • 2019.03.30
  • 一般公開

日本の国益に重なる台湾総統選挙 親日派の若き政治家は健闘できるか

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月30日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1273
 


台湾が中国の支配下に入るかどうかは、インド・太平洋の地政学を揺るがすほどの影響を及ぼす。


わが国に物資を運ぶ大型船やタンカーが台湾海峡を通過できるのはそれが公海だからだ。台湾が中国に領有されれば、同海峡は中国の内海となる。日本の瀬戸内海のようなものだ。日本の船は通りにくくなるだろう。いわんや米国の軍艦などへの影響は大きく、インド洋から西太平洋にかけての米軍の作戦行動に大きな負の影響が出るのは避けられない。


トランプ米政権が台湾支援策を次々に打ち出してきたのは、南シナ海への北東の出入口である台湾と、南西の出入口であるシンガポールを支援し、南シナ海を自由の海として守りたいとする戦略ゆえだ。


米国のみならず、日本にもあらゆる意味で決定的な影響を及ぼす台湾情勢だが、その台湾で来年1月、総統選挙が行われる。現職の民主進歩党、蔡英文総統の支持率は低迷しており、中国との統一を望む台湾国民党が政権を奪還する可能性が現時点ではかなり高い。


中国とほぼ一体だとみるべき国民党が政権を握れば、実質的な中台統一につながると考えてよいだろう。国民党の最有力候補とされる高雄市長の韓国瑜氏の持論は、中国との交流による景気刺激策重視である。


台湾に関して『汝、ふたつの故国に殉ず』(角川書店)を上梓したノンフィクション作家の門田隆将(かどた・りゅうしょう)氏は、来年の台湾総統選挙は日本の国益に重なる選挙であり、日本人はわが事として見守るべきだと語る。


「国民党で一番人気の韓国瑜氏が主張するように、国民党政権ができれば中国本土による投資拡大政策が採用されます。現在も中国資本は台湾に注入され続けていますが、それでも、表面上、台湾人の社長を据えたりして、カモフラージュしています。政権奪取となれば、一変して、大手を振って中国資本が流入すると思います」


武力行使に至るまでもなく、台湾は実質的に中国に「所有」されてしまいかねないということだ。そのような事態を防ぐには、次の選挙で民進党が勝つしかない。だが、蔡氏の支持率は、中国の習近平国家主席の唱える「一国二制度」を「絶対に受け入れない」と拒否したことで8%上昇したものの、まだ23%にとどまっている。


台湾の大手テレビ局TVBSの世論調査では、予想される国民党の候補者4人に対して蔡氏が勝てるのは1人だけだ。このままでは民進党はどう見ても勝ち目がない。


そんな悲観的な見方が広がっていた中で、民進党の頼清徳氏(59歳)が出馬することになった。頼氏の出馬宣言を、氏をよく知る評論家の金美齢氏は、「民進党にショックを与えて、蔡氏をより強く支えるため」とみる。


門田氏は「民進党に対して、このまま、座して死ぬのかと、凄い圧力をかけた」とみる。


世論調査では、蔡氏に比べて頼氏の勝利の可能性は少し高い。頼氏なら国民党候補者4人中、2人には勝てる見込みだ。


それでも民進党勝利の可能性は低いのだが、頼氏出馬がカンフル剤になる可能性もある。


頼氏とはどんな人物なのか。


氏は2歳のときに父親が死亡、母親が6人の子供を育てた。氏は台湾大学医学部を出て医師となった。台湾人意識が強く、日本が大好きで熊本地震のときにはいち早く駆けつけた。


国民党による台湾人への圧政を批判し、台湾独立論を持論とする。悪名高い「2・28事件」で国民党に殺された湯徳章氏を偲んで、「正義と勇気の記念日」制定に力を尽くした。10カ月後の総統選挙の見通しは現時点でわからない。ただ、この親日派の若い政治家の健闘を祈りたい。

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