闘うコラム大全集

  • 2019.05.30
  • 一般公開

文大統領の専制革命路線で滅びる韓国

『週刊新潮』 2019年5月30日号

日本ルネッサンス 第853回


 自伝、とりわけ政治家のそれは割引いて読まなければならない。それにしても韓国大統領文在寅氏の『運命』(岩波書店)ほど独特の左翼臭を放つものはないだろう。


日本語版の出版は昨年10月だが、韓国では2011年の発売で、刊行2週間で書籍部門の売り上げ1位になったと書いている。


氏が北朝鮮からの難民だった少年時代のこと、貧困を乗り越えて人権弁護士となったこと、「善き人」であろうとした「普通の人」が、人間の尊厳や人権を尊重して仕事をしている盧武鉉氏と知り合い、深く感銘を受け、やがて政治に関わり始めたという人生物語が情趣的な文章で描かれている。


北朝鮮一辺倒だった盧武鉉元大統領への感情移入と、彼らの振りかざす社会主義の旗には欺瞞の色彩が漂う。事実、自伝に綴られている人権、自由、正義や正統性などの価値観を、文氏自身がいま、酷い形で踏みにじっている。


文氏は5月に就任2周年を迎えた。任期5年、1期であるから、残り3年だ。2年間の文政治は、一言でいえば社会主義革命政治である。文氏も自分は「ロウソク革命」で政権を奪ったと語っており、氏の政策の方向性は独裁型社会主義政権の樹立だと断じてよいだろう。


ちなみにロウソク革命は、政権に不満を持つ市民がロウソクを掲げて街頭に繰り出し、圧力で政治を動かしていくものだ。朴槿恵前大統領はロウソクデモで糾弾され続けて失脚した。韓国ではこの左派リベラル勢力主導のロウソクデモと、保守勢力が韓国国旗の太極旗を掲げて行う太極旗デモが毎週、行われている。


文氏は言葉は柔らかくとも行動は陰湿で強硬だ。そんな文氏の体質は、少しずつ、韓国国民に見抜かれてきた。政権発足当時には84.1%もあった氏の支持率は、5月9日の世論調査(リアルメーター)では47.3%に落ちていた。不支持率は48.6%。政党支持率は文氏の与党「共に民主党」が36.4%、第一野党の「自由韓国党」が34.8%と拮抗している。


親日派パージ


このままでは来年4月の総選挙で敗北するかもしれない。おまけに韓国経済は苦戦中である。4月時点で失業者は124万人、若年層の失業率は11.5%だった。朝鮮問題の専門家・西岡力氏は、1日3時間のアルバイトで暮らす若者やパートタイムで働く予備校生なども入れると、若年層の失業率は25%にふくらむと指摘する(「言論テレビ」5月17日)。


そこで文氏は巧妙な罠を仕掛けた。西岡氏の説明だ。


「選挙制度の改正案と高級公職者不正捜査処設置法という二つの立法案件を国会の迅速処理案件に指定してしまったのです。これは通称ファストトラックと呼ばれて、330日がすぎると本会議で議決にかけられるという制度です」


今着手すれば二つの法律は来年4月の総選挙に使えるのである。


シミュレーションでは、改正選挙法の導入で文氏のライバル・自由韓国党が最も大きな打撃を受けるという結果が出た。韓国の国会は一院制で300議席、小選挙区が253、比例が47だ。小選挙区では第一党と第二党の戦いになり、第三、第四の小政党には勝ち目がない。そこで文氏は比例の議席数を75、またはそれ以上に増やす案を考えている。


75で計算すると、自由韓国党が約20議席減になる。与党の「共に民主党」も議席を減らす可能性があるが、韓国の政党は自由韓国党を除けばすべて左翼政党だ。特に少数野党の「正義党」は極左政党であるため、全体としては左派リベラル勢力が絶対に勝つ仕組みである。


「与党代表の李海瓚(イヘチャン)氏は、これで与党は20年間政権を握れると豪語しています」


西岡氏が言うと、「言論テレビ」で同席していた「統一日報」論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏が応じた。


「50年でしょう」


文政権のもうひとつの狙い、「高級公職者不正捜査処設置法」からはどんな結果が予測されるだろうか。洪氏は同法の性格をズバリ「ゲシュタポ法」だと断じた。


文政権は「積弊の除去」を掲げて、親日派を排除してきたが、このところ、文政権への批判が各界各層から噴き出し始めた。3月1日、退役軍人会は後輩の現役軍人に、「対北武装解除を進める文政権への不服従」を呼びかけ、鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防相の退任を要求した。


通常の軍隊では考えられない不服従の呼びかけは、韓国内の対立が如何に深刻かを示している。


また、元大使経験者ら42人が韓国の外交政策への反対を表明し、後輩の外交官に「早く日米両国との安保協力体制を復元せよ」と呼びかけた。


親日派パージの中心勢力になっているかのように見える検察、裁判官、警察官などの中にも文政権に批判的な勢力が存在する。こうした反文勢力の動きを鋭い嗅覚でキャッチし、このままではやられると考えて、先手を打ったのが今回の二つの法案であろう。


「血を流して我々は戦う」


「反旗を翻したら、今度はお前たちを逮捕するぞというわけです」


と西岡氏。


高級公職者を対象にしたこのような取り調べ機関が実現したら、韓国の空気は途端に陰鬱なものになるだろう。自伝で文氏は自らの使命を盧武鉉氏の遺志を継ぐこととしている。盧武鉉氏は07年の南北首脳会談で、金正日氏に韓国を事実上明け渡すような誓いを立てていた人物だ。韓国で進行中の革命と言ってよい一連の変化は、大韓民国の崩壊に直結しかねない。大統領が自ら指揮する、祖国への反乱である。


こうした異常事態の中で、自由韓国党代表の黄教安(ファンギョアン)氏の動きに注目したい。氏は朴前政権で法相、首相を務めた公安検事出身のエリートだ。元々政治家ではなかったが、今年2月、文政権と戦うために立ち上がった。氏はいま、街頭に出て国民に「一緒に血を流して戦おう」と呼びかけている。


黄氏が発表した決起文が凄まじい。


「文政権はすでに行政府を掌握した。司法府もほぼ占領された。彼は選挙法の改正で国会さえも掌握しようとしている。文在寅の左派独裁を、いま終わらせよう。自由韓国党は命がけの戦いの先頭に立つ。血を流して我々は戦う。国民の皆さんも犠牲を覚悟して立ち上がってほしい。そうしなければ、私たちの息子、娘たちは左派独裁の下で暮らすことになる!」


韓国は内戦中なのだ。それはとりも直さず日本に危機が迫っているということだ。令和の時代、日本を取り巻く国際環境は、平成の時代のそれ以上に、厳しいものになるだろう。そう自覚して憲法改正を含めて日本の在り方を考えていきたい。

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