闘うコラム大全集

  • 2019.07.04
  • 一般公開

新潟選挙区、野党統一候補のおかしさ

『週刊新潮』 2019年7月4日号

日本ルネッサンス 第858回


「アリさん、早くこっちによけないと、ひかれちゃうよ!」


幼い少女は、列になって道路を這っている蟻の群れが車に轢かれてしまうと心配して、一所懸命、群れを道路の端に誘導しようとした。少女は横田めぐみさんである。早紀江さんが当時を懐かしみながら語った。


「幼い頃のめぐみはいつもこんなふうでした。生きものは何でも大好きで、変なものもしょっちゅう、家に連れてくるんです」


丸々とした頬の心身共に元気なめぐみさんを想い出してか、早紀江さんは笑みを浮かべながら語った。


「ある日は両手に余る大きなガマガエルを、ナフキンに大事にくるんで家にもってこようとしていたんです。お友達のお母様がめぐみが抱えている大きな蛙を見てびっくりして私に電話してきました。めぐみは弟たちに見せてあげたい一心でもってきたんですねぇ。小さかった頃、子供たちはいつもこんなで、楽しかったんですよ」


早紀江さんも御主人の滋さんも、最初の子供は男の子だと信じ、名前は「拓也」と決めていた。早紀江さんが隣の拓也さんを見ながら語る。


「生まれてきたのは女の子でしたからねぇ、めぐみにして、拓也という名前は次の子のためにとっておいたんです」


ころころと笑う早紀江さん。


「拓也と哲也のお産もよく憶えています。拓也が最初に生まれて、もう一人いるのに、私はすっかり疲れて、眠りかけたんです」


話をきいていた参議院議員の山谷えり子氏も私も、ここでどっと笑った。早紀江さんが続ける。


「お医者さんが私の頬っぺをピチャピチャ叩いて、眠ってはいけませんよ、もう一人いますよ、眠る前に頑張りましょうと声をかけて下さって、それで哲也が生まれたんです」


「神さまの御意志」


二人の男の子は小さい頃は喧嘩でプロレス技をかけ合った。団子のようにからみ合い、玄関先まで転がってガラス戸を破ったこともある。けれど弟二人はいま両親を支え、めぐみさん奪還に向けて頼もしく行動している。早紀江さんが続けた。


「めぐみちゃんは大変な人生を生きていますが、世界中の皆さんからご心配いただいて、本当に幸せです。日本全国の人たちが気にかけて下さり、安倍総理の働きかけで世界の指導者も拉致問題を知って下さっている。トランプ大統領も真剣に拉致問題解決に力を貸して下さっている。家族には大きな驚きですが、私は神さまの御意志を感じています」


この日、私たちは五嶋龍氏のコンサートを聴いたあと、一緒に食事をしたのだが、五嶋氏は拉致問題に非常に深い想いを抱き、解決を訴える多くのコンサートを開いてきた。五嶋氏の母、節氏は拉致のニュースに涙し、家族会を応援してきた。


拉致問題はいま、これまでのどの時より解決に近づいている。無論、並大抵ではない。安倍晋三首相が呼びかけた日朝首脳会談実現の目途も立っていない。それでも、私たちは拉致解決に近づいている。


「ここまで本当に多くの方たちが努力して下さった。姉と寄居中学で同窓の塚田一郎さんもそうです」


拓也氏が語ったのは参議院議員の塚田氏のことだ。氏は関門新ルート(下関北九州道路)整備構想に関して、首相や副総理を忖度したと発言して国土交通副大臣を辞職した。


氏は福岡県知事選挙の応援でその場を盛り上げるために過剰なリップサービスをしたのだが、この道路は地元も、立憲民主党も国民民主党も切望してきたもので、首相への忖度とは全く関係なく進められている。公職にある人物が事実と異なることを語るのはとんでもないことだ。だからこそ、

塚田氏は自分の言葉を厳しく反省し、陳謝し、辞任した。


「そのことだけを批判し続けて、塚田さんの功績をまったく認めないのもおかしい。塚田さんは私たち国民のために、地味ですが本当によく働いてくれています」と、拓也氏。


「救う会」会長の西岡力氏も語る。


「一昨年9月、トランプ大統領が国連演説で、13歳の少女が北朝鮮に拉致されていると語り、めぐみさん拉致事件を世界に知らしめました。背景に塚田さんの力があったのです」


事情はこうだ。2017年5月に加藤勝信拉致担当大臣が訪米を計画したが、要路の閣僚と日程調整ができず延期された。加藤大臣に同行することを考えていた家族会、救う会は迷ったが、単独で訪米した。


「塚田さんがとにかく動こうと言って訪米が決まり、国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長のポッティンジャー氏に会えたのです。氏に拓也さんがめぐみさんのことを語り、それを聞いたポッティンジャー氏が、これからトランプ大統領に会うので、必ず伝えると約束してくれたのです。その1週間後にめぐみさんに言及した国連演説があり、11月6日、トランプ大統領が家族の皆さん方に初めて会って下さった」(同)


考え方もバラバラの野党


家族会、救う会の人々は、一様に、塚田氏が拉致被害者支援法改正、13項目の対北朝鮮制裁の決定、米国人拉致被害者デービッド・スネドン氏救出を目指す米議会の決議実現への働きかけなどを行ったことを評価し、未だに「忖度」発言で塚田氏を批判することを疑問視する。


7月に予定される参議院議員選挙の新潟選挙区は、全国で展開される与党候補と野党統一候補の一騎討ち選挙区のひとつだ。新潟では共産党から国民民主党まで一列に並んで弁護士の打越さく良氏を支援するが、これら野党に共通項はあるのか。


たとえば拉致に関して、これまで共産党も社民党も力になったことなどない。国民民主党などとの決定的な違いのひとつであろう。


天皇と皇室についても、共産党は繰り返し「天皇制の転覆」や「天皇制の打倒」を謳い、現委員長の志位和夫氏は「天皇の制度のない民主共和制を目標とする」と語っている。共産党の主張に国民民主党は同意できるのか。価値観がまったく異なる政党が統一候補の打越氏を応援するというが、打越氏が当選したとしても、一体どんな政治ができるのか。


打越氏の現状認識にも違和感を抱く。16年9月21日付のネットサイト「LOVE PIECE CLUB」に、「かなりリベラルと信頼する友人たちからも、『慰安婦って、朝日新聞のねつ造なんでしょ?』と言われてびっくりすることも多い」と書いている。


朝日新聞は14年8月5,6の両日に、自社の慰安婦報道を、吉田清治氏の関連記事すべてを虚偽として取り消すことで大誤報だと認めた。そうした指摘を「びっくり」とはこちらがびっくりだ。考え方もバラバラの野党が担ぐ極めてリベラルな打越氏と塚田氏の一騎討ちで、重要なことは、共産党をも代表する人物の政治的立場を信用できるか、ということだ。

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