闘うコラム大全集

  • 2020.05.14
  • 一般公開

黄金週間に国の在り方を考えよう

『週刊新潮』 2020年5月7・14日合併号

日本ルネッサンス 第900回


安倍晋三首相による緊急事態宣言の効果が出始めるのが宣言から2週間後、4月21日の火曜日以降とされる。


東京都の新規感染者数は21日が123人、その後ずっと100人を超えていたが、日曜日には72人になった。週末は検査数が少ないため額面どおりの「減少」とはとらえられないだろうが、それでも少し安堵する。


外出の自粛「要請」にとどまる緩い規制で、私たちは武漢ウイルスに勝てるのか。十分に行動を律して結果を出せるのか。日本人が試されている。


テレビのニュースが東京都台東区浅草寺の無人の様子を伝えていた。銀座も赤坂も同様だ。店の経営者も耐え、国民も頑張っている。いま、私たちはゴールデンウィークに入った。出来るだけ家にいよう。新規感染を出さないように、とりわけ重症者や死者を出さないように、一緒に頑張ろう。


だが、一部のパチンコ店が休業を拒否し続けている。大阪府知事の吉村洋文氏が要請に応じないパチンコ店名を4月24日に公表した。するとその店に客が殺到したという。海外メディアはこんな日本式手法を生温いと批判する。国内でも安倍首相の手法は手緩(てぬる)い、遅いという強い批判がある。そのとおりだ。


しかしよく考えれば安倍首相の責任も大きいが、日本国の造り自体に問題がある。日本国総理大臣には緊急時において国全体を陣頭指揮する権限がないのであるから。


すでに指摘してきた点だが、今回の政府及び地方自治体の武漢ウイルス対策の基本となっている特措法自体が危機対応の体を成していない。その第5条は「国民の自由と権利を制限するには、その制限は対策を実施するため必要最小限のものでなければならない」と定めている。


インターネット配信の「言論テレビ」で新型コロナ対策の担当大臣、西村康稔氏は、政府対応への批判に「政策は必要最小限でなければならない」と応じた。法を忠実に守れば、対策は文字どおり「必要最小限」にとどまり、ウイルス対策に効果的で大胆な策は打てないというのだ。


政府の打つ手は遅い


特措法はまた地域主権の考え方に基づき、地方に軸足を置く形で権限を国と地方に分散する。緊急事態宣言は首相の権限だが、権限行使は知事だ。政府にできるのは精々、「基本的対処方針」を定め地方自治体間を「調整」することだけだ。


この法律は、民主党政権が作った新型インフルエンザ対応の法律に、適用対象に武漢ウイルスを加えただけのものだ。民主党の法律そのままの内容で、従って政府対応を遅い、少ないと批判する立憲民主党副代表の蓮舫氏や幹事長の福山哲郎氏らは、天に唾しているに等しい。


権限と責任のおよそすべてを任される地方自治体で、いま、何が起きているのか。対策を打つには、検査であれ隔離であれ、休業要請と対になる協力金であれ、財政力が必要だ。東京都を除いて、国の交付金頼りの地方自治体には、実力を超える権限も責任もきつい負担である。結果として国に財政援助やより強い規制の定めを求めることになる。


法律上、政府は地方自治体に権限を委譲し、地方自治体は各々、本当に努力し、よくやっているとはいえ、力不足は否めない。


こうした状態を率直に表現すれば、いま、国難にある日本で、ウイルス対策で最終的に責任を取る主体が事実上、存在しないということなのだ。県境など無意味なウイルスとの戦いで、日本全国を見て総合指揮を取る主体が存在しなければ効果的な手など打てない。


場合によっては外出禁止令発出も可能な強い権限を政府が持ち、東京や大阪などを筆頭に各自治体と密接に協力するのでなければならない。陣頭に立つべきは中央政府でなければならない。にも拘わらず、政府権限を否定し、地域主権を進めるという基本構造の延長上に成り立ち、危機に直面すれば一層政府を縛るべきだという現行法の発想自体が、日本を機能不全に陥れているのである。


そうした事情があるにせよ緊急経済対策をはじめ政府の打つ手は遅い。考えられる理由は二つだろう。国会における野党の非協力と、敗戦を受けて作られた財政法29条だ。


財政法29条は、本予算が成立しなければ補正予算の本格的な策定はできないと定めており、状況に対する臨機応変の予算措置を困難にしている。


予算案は与党主導で策定し、閣議決定する。毎年数百ページの分厚い予算書を財務官僚がひと月弱かけて徹夜作業で仕上げる。それを財務大臣と首相が国会、衆参両院の予算委員会で説明する。


野党の責任もある


令和2年度の本予算は3月27日に成立したが、もし野党が協力していれば約ひと月早い成立も可能だった。予算案の衆議院通過は2月28日、憲法第60条2項の衆議院の参議院に対する優越によって、予算案が成立するのは明らかだった。平時なら参議院での大議論も必要だが、1月末には世界保健機関(WHO)が武漢ウイルスについて緊急事態を宣言した。その最中、立憲民主党の蓮舫氏らは、恰(あたか)も武漢ウイルス問題など念頭にないかのように、参院での審議の大部分の時間を「桜を見る会」問題などに費やした。安倍政権批判を優先する余り、国民に早くお金を回す緊急性などは考えなかったのか。2月末の衆院での本予算可決後、早めに参院で成立させて、3月を補正予算の審議に使い、同月末までに成立させていれば、4月早々には国民に「30万円」であれ「10万円」であれ、支給できた。


安倍政権の「遅すぎる対応」には野党の責任もあるのだ。


日本以外の国々では、拙速ではあっても対応が早い。英国議会は党首討論もテレビ会議などの遠隔操作に切り替える。欧州議会は重要案件の決定も各国からの電子採決で行った。


日本では2018年に国会改革の一環として、インターネットによる遠隔投票が提唱されたが、国会外での投票は憲法第56条違反だとして退けられた。


迅速決断のためにドイツ議会は下院定足数を過半数から4分の1に下げた。日本は憲法56条で定足数を議員の3分の1以上としており、これを動かすことは無理である。


国家を悪として敵視して、政府には権力を与えないという発想の憲法と、国民代表としての国会が細かいことまですべて議論しなければ政府への監視機能が果たせないという、財政法を含めた種々の法律を見直さなければ、日本はまともな国になれない。たとえ国民の自律心と協力で国内での武漢ウイルスとの戦いを制したとしても、これからの国際社会の環境は非常に厳しくなる。その中で生き残るには憲法をはじめ戦後体制の見直しが要る。ゴールデンウィークに、皆で日本国の行く末をじっくり考えてみるのもよいではないか。

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