闘うコラム大全集

  • 2020.07.30
  • 一般公開

日本の好機、米国の対中全面対決姿勢

『週刊新潮』 2020年7月30日号

日本ルネッサンス 第911回


「ヒマラヤ山系からベトナムの排他的水域、尖閣諸島とその先まで、北京は領土領海紛争を煽動している。世界は中国の弱い者苛めを受け入れない、その継続も許さない」


7月8日、ポンペオ米国務長官の発言は、世界の屋根から南の海まで、ユーラシア大陸をグルリと囲む全域で、米国は中国の専横を許さないという宣言だった。


米国は長年領土領海紛争で中立の立場を貫いてきた。尖閣諸島が明らかに日本領であることを承知していながら―日本占領の約7年間、米軍は尖閣で軍事訓練を行っていた―米政府は尖閣諸島の施政権を日中どちらが有しているかに注目するばかりで、決して同諸島が日本領だとは言明しなかった。


しかしいま、年来の方針を大転回させたのだ。茂木敏充外相が即、歓迎を表明したのは当然だ。米国の方針大転回の新局面で、日本も世界も新たな対応を急ぐときだ。


ポンペオ氏はその後、13日、15日にも続けて中国への全面的対決姿勢を明らかにした。それを一言で氏はこう語っている。


「大事な事は、米中関係が変わったということだ。中国の指導層もそのことを理解している」(15日)


氏は米国民が中国リスクに晒されるのはもはや受け入れられない、余りにも長い間、適正な見返りのない、不公正な中国の行動を米国は許容してきた。今、全てを反転させるときだとし、「実務において多くの仕事はこれからだ。トランプ政権の2年半は年来の米中関係反転の政策を積み重ねてきた年月だった」と語った。


米国政府の巻き返しには多くの行動が必要だとの認識だが、それはすでに私たちの眼前で展開されている。7月1日から中国は空母遼寧を中心に軍艦数隻を投入して大規模な軍事演習を南シナ海、東シナ海、黄海の3海域で行った。


米国も中国の演習と重なるように、7月4日から空母2隻及び攻撃艦を揃えて大規模演習を実行した。中国の軍事行動を見逃したり、勝手な振舞いを許したりはしないとの意思表示だ。米国の本気度を示している。


「最終判決」


米国の決意の尋常ならざることを私たちはポンペオ氏の発言が7月8、13、15日と続いたこと、他の閣僚たちも同様の発言を続けていることからも読み取っておくべきだろう。


6月24日にはロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官、7月7日にはクリストファー・レイFBI(米連邦捜査局)長官、16日にはウィリアム・バー司法長官らが続けざまに同様の発信をした。


中国に対する強い異議は、中国問題が国際社会全体に広がることへの警戒でもある。香港やウイグル問題に、中国の主張するように国内問題であるから介入しないという姿勢で対処したら、西側諸国も中国の悪しき体質に変えられてしまいかねない。そのことを、ポンペオ氏らは十分に識っているのだ。


たとえば南シナ海問題だ。中国は「長い歴史」を持ち出して2000年前から同海は中国の海だったという。ポンペオ氏は2016年7月12日の国際常設仲裁裁判所の判決こそ国際法に則った「法的拘束力」のある「最終判決」だと明言した。中国の主張する「九段線」にも一貫した法的根拠はないと強調した。中国は「国際法を『力が正義』という定理に置き換える」と喝破し、それらは「完全なる違法行為」だと非難した。その上で南シナ海の島々の固有名詞をあげて次のように主張した。


スカボロー礁、スプラトリー諸島、ミスチーフ礁、第二トーマス礁は全てフィリピンの主権に属す。パラセル諸島のヴァンガード堆はベトナム領、ルコニア礁はマレーシア領、ナツナ諸島はインドネシア領、ブルネイも排他的経済水域を有する。


ジェームズ礁は中国が領土だと主張するが、満潮時には20メートルも水面下になる。中国の領土でも島でもあり得ないと述べ、米国は東南アジアの同盟国、パートナーと共に、国際法に基づいて彼らの領海及び海洋資源を守る側に立つ、と述べた。


目のさめるような力強い発言だ。なんという変化か。ポンペオ発言の重要性、日本に及ぼす限りない前向きの影響を、わが国は見逃してはならない。最大の好機ととらえ、対応してわが国の守りを強固にせよ。


バー司法長官の中国認識の厳しさもよく知っておこう。


「中国はウィン・ウィンの関係を築こうと言う。(当初我々は言葉どおり、互恵の精神だと受けとめていたが)それは中国が二度勝つという意味だと判明した」


実に的を射ているではないか。なぜ、中国は「二度」勝つのか。中国式手法を米国にも広げて、米国をも「接収」してしまうからだ。


ハリウッドの接収


バー氏は「中国に叩頭する」企業のひとつとしてハリウッドの映画会社を挙げた。ハリウッドは当初中国資本を受け入れ、現在は技術部門をはじめおよそ全分野で中国人を受け入れている。中国人は米国が世界に誇る映画産業のノウハウの全てを吸収し、中国国内で活用中だ。中国の目標はハリウッドとの協力関係強化ではなく、ハリウッドの接収だとバー氏は断ずる。人間のあらゆる自由を尊び、権力への果敢な批判を売り物にしてきたハリウッドの中国支配への恭順振りこそ、卑屈だと氏は言っているのだ。


この間にボリス・ジョンソン英首相は27年までに全てのファーウェイ製品を5G通信網から排除すると決定した。中国側は強い不満を表明し、駐英中国大使の劉暁明氏が7月18日、「タイムズ」紙の取材に応じた。中国は平和の国だ、全ての国に友好的だと一連の嘘をいつものように披瀝し、英国は25年までに5G通信網を全国に広げる計画だが、英国の力では難しい、だから中国は助力したいと申し出た。その一方で英国がファーウェイ除外を決定したからには、中国の対英投資はもはやあり得ない、状況は変わったと述べた。中国の投資なしでやっていけるのかと、足下を見透かした発言である。


事実、19日には早速中国の動画投稿アプリ「TikTok」を手掛けるバイトダンスが、ロンドンへの拠点設置計画を棚上げした。


日本はいま、自らの立ち位置を明確に認識して戦略的に動くときだ。英国政府は日本に5G通信網づくりで協力を求めている。ファーウェイに代わる調達先としてNECや富士通の名前が上がった。日本企業は周回遅れだが、ポンペオ氏はNTTを5G関係の技術を有する世界の企業の中でもクリーンな企業の内のひとつだと評価した。


わが国が直面する中国の脅威は5Gだけでも尖閣諸島だけでもない。南鳥島にも中国は迫っている。米国の側に立ち、行動を伴う協力を進めるときだ。それが日本の国益を守る正しい道であろう。

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