闘うコラム大全集

  • 2020.09.24
  • 一般公開

菅新首相に望む、安倍氏の歴史観継続

『週刊新潮』 2020年9月24日号

日本ルネッサンス 第918回


9月11日の「言論テレビ」で安倍晋三首相と次期首相の菅義偉官房長官について語る内、安倍首相の最大の功績に話題が及んだ。政治ジャーナリストの石橋文登氏が「日本を死の淵から救ったことだ」と語った。


2012年以降も民主党政権が続いていたら、尖閣は今頃中国に奪われている。野田佳彦首相(当時)はよくぞ半年前倒しで解散してくれた。民主党政権下で経済はどん底、国際社会ではどの国からも相手にされず、日本は沈みかけていた。解散・総選挙で安倍氏率いる自民党が大勝利し、日本は蘇ったと、石橋氏は力を込めて語った。


安倍首相の真の功績は日本人の歴史観を正したことだと、私は思う。戦後70年談話で「子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と語り、歴史を公正に見詰めることの大切さを国民に説いた。


反省すべきは反省するが、父母・祖父母の世代の日本人が歩んだ道も十分に認めようというものだ。歴史に正対して評価する姿勢は未来永劫謝罪し続ける偏った道を拒否するもので、歴史観の矯正こそ安倍首相の最大の功績だ。会話がそんな形で深まったとき、石橋氏が言った。


「真ん中層を変えたのですよ。右と左は元々いた。僕が新聞記者になった30年前、君が代を歌う奴は右翼だと言われた。いま、君が代を歌わない奴は左翼だって言われる。この部分をいじったのが安倍晋三ですよ。総理になる前から歴史教科書の問題に取り組んでいた。それが原因で左傾メディアともぶつかった。しかし社会の中間層は普通の国民として、君が代を歌うのが正しいのか、歌わないのが正しいのか、ようやく気付いた。歌うのは右翼だというのと、歌わないのは特定の少数派だというのは非常に大きな違い。真ん中にいた人たちの認識を変えたのが安倍晋三の最大の功績ですよ」


そのとおりであろう。


独立国ではない状況


菅氏は安倍氏の路線を引き継ぐと語る。個々の政策ひとつひとつを引き継ぐという意味ではないだろう。安倍政権は選挙の度に国民の圧倒的支持を得て勝ち続けた。国民が支える安倍氏の価値観を引き継ぐという意味だろう。日本を本来の日本たらしめる、そのための改革を推進するということであろう。それは究極的には歴史観の問題に行き着く。


安倍首相は誰よりも、日本は独立国だという意識を持っている。日本が独立国だなんて当然のことだと思ってはならない。憲法、安全保障を見ればそうではないのであるから。わが国は実質的に独立国ではない状況に浸りきり、そのことに国民も慣れきっている。石橋氏の指摘した君が代を歌うのは右翼だという感じ方がその背景にあった。日本の過去はおよそ全て間違いで、悪いことばかりだと「反省」し続けるべしという歴史観だ。


菅氏が引き継ぐ安倍路線の一番大事な要素がこの歴史観であることは、繰り返し指摘したい。そして強調したい。歴史観の引き継ぎは理念にとどまっていては不十分だ。眼前にある具体的問題で筋を通すことだ。


一例が韓国を貿易上のホワイト国から外して通常の国と同じ扱いにしたことに関する事案だ。この点で菅氏の一歩も譲らない構えを評価する。もうひとつ、「産業遺産情報センター」問題もある。同センターは今年3月、東京・新宿区に開設され、前内閣官房参与の加藤康子氏がセンター長を務めている。


加藤氏は、鎖国の眠りから醒めた日本が如何にダイナミックに産業革命を進めて明治維新を成功させ、近代国家へと変身したか、先人たちの努力と叡智、その足跡を丁寧にまとめている。それはまさに心を揺さぶる感動の物語である。


一人一人の国民の位置づけ、行政機構、法律、哲学、文学などあらゆる面で日本は猛然と学んだ。鉄鋼、造船、石炭など重工業分野でも飛躍した。日本がほぼゼロの状態から産業革命を成し遂げられたのは、優れた人々の集団が日本に存在したからだ。その中核は紛れもなく誠実で真面目で高い労働倫理を身につけていた一般国民だった。


たとえば日本のエネルギーを賄う石炭採掘において長崎県端島の鉱山があった。軍艦島と呼ばれたこの小さな島では日本人と朝鮮人が心を合わせて働いた。三菱は当時世界最先端を行く近代的鉱山とそこで働く人々のためにこれまた近代的住宅街を造り、日本人と朝鮮人を平等に扱う社の倫理規程を実施した。


だが韓国はこの軍艦島を「強制連行」「奴隷労働」「虐待の限りを尽くした地獄島」と貶め、ユネスコの世界文化遺産登録に大反対の大キャンペーンを展開した。


強力な反対意見


加藤氏は元島民70人以上に会い、一人当たり数時間から数十時間にわたって証言を聞いた。端島で働き、家族と共に島で暮らした人々の証言は、日本人のそれも朝鮮人のそれも拷問、虐待、差別、奴隷労働、強制連行、地獄島などの全てを否定するものだった。


直接の当事者に話を聞くのは、歴史研究の第一歩だ。それを真面目に成し遂げた加藤氏がいま、激しい抗議に晒されている。情報センターに韓国メディアが押し寄せ、在京大使館からも見学者が来る。それ自体は結構なことだが、彼らはいずれも前述した軍艦島を貶めるような証言が展示されていないことに抗議するのだそうだ。だが、歴史の事実ではないことを展示できるはずはない。


問題は韓国側の理不尽な動きに「朝日新聞」や「共同通信」が連動していると考えられることだ。「月刊Hanada」9月号及び10月号に詳細は譲るが、朝日の清水大輔記者と共同通信の西野秀記者が、「朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動」事務局長の矢野秀喜氏と共に来館したときの応答は実に興味深い。明らかなのは矢野氏らが多くの間違った情報に依拠して日本非難を繰り返している点だ。


さて、ここからがもっと重要な部分だ。加藤氏に抗議する勢力は韓国や朝日や共同だけではないのだ。実は彼女が日本の産業革命の足跡を、そこで働く人々の実態も含めて調べ、資料収集していたとき、強力な反対意見が日本の官僚、とりわけ外務省や官邸中枢に陣取る幾人かの有力者たちから表明されたという点だ。


加藤氏の資料・証言収集と情報センター開設は、安倍首相の強い後押しがあって初めて可能だった。それなしには、到底、不可能だった。


加藤氏の手掛けるこの「産業遺産情報センター」がこれからも無事に存続できるように担保し、拡大発展して日本の歩みに光りを当て続けられるように守り、配慮することが、菅氏が安倍政治の継承という約束を果たすことだと思う。

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