闘うコラム大全集

  • 2020.11.19
  • 一般公開

尖閣で試される菅首相の気概

『週刊新潮』 2020年11月19日号

日本ルネッサンス 第926回


世界の混乱に乗じて目標を達成するのが中国の手法だ。相手が事態の急変に対応できない時こそ好機と見て中国は襲ってくる。


米国はいま、大統領選挙を巡る混乱の極みにある。世界の耳目も米国の迷走に吸い寄せられている。中国が挑戦的行動に出ても米国の対応能力は低いままだ。中国が狙い定める尖閣諸島に手をつける可能性はかつてなく高い。


離島・海洋問題に詳しい東海大学教授の山田吉彦氏は、尖閣の危機はこれまでになく深刻だと警告する。


「中国は尖閣奪取の法的・軍事的準備を完了しています。このままでは、わが国の領土が奪われる時は目前に迫っています」


中国は10月末に全国人民代表大会(全人代)で国防法改正案を提示した。「中国の経済的利益が脅かされる場合、全国総動員または一部動員を行う」、「海外での中国の利益は断固守る」などの条項を加えた。領土や安全が損なわれる場合だけでなく、経済的利益が脅かされる場合も、戦争に踏み切るという宣言だ。


右の国防法改正案は果てしない拡大解釈が可能な危険な内容だが、全人代はさらに、11月5日までに海警局の権限を強化する海警法案も発表した。こちらは国家の主権や管轄権が外国の組織または個人に侵害されるとき、海警局所属の隊員、艦船、航空機の全てに武器使用をはじめあらゆる必要措置を取らせるというものだ。


即ち外国船が管轄海域で違法行為に及んだ場合、海警局所属の全部門に武器使用が許される。尖閣海域での日中の対立に当てはめれば、日本と全面的に戦う法的準備を中国は完了したという宣言だ。


中国は、海上保安庁の尖閣海域での活動を中国の国家主権への侵害だと見る。海保が中国公船に領海から退去せよと指示すれば、それも違法行為だと彼らは見る。


「実力行使しかありません」


改訂国防法及び海警法はどちらも国際社会には通じない中国の身勝手な法律ではあるが、彼らは両法を海保への武力行使の法的根拠とするだろう。海保の後方に控える海上自衛隊が介入すれば、海自への空からの攻撃の根拠ともするだろう。中国は正に自分たちの価値観で国際秩序を作る気なのだ。中国問題の専門家、矢板明夫氏は語る。


「もし、中国政府が日本国政府に、尖閣海域から退却しない限り、海保、或いは日本漁船を武力攻撃すると通告したら、どうなるでしょうか。海保にも漁船にも死者が出る可能性に日本は耐えられるでしょうか。戦っても中国に勝てないと判断すれば、日本は退却するのではないか。中国は法律ひとつで脅しをかけ、尖閣を手に入れるということです」


日本の領海に中国船が居座ることが常態になって久しい。だが、野党はそんなことにお構いなく、国会でいまも学術会議問題の重箱の隅つつきにうつつを抜かしている。片や与党・政府は「中国海警局の動きについては引き続き高い関心を持って注視する」「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も疑いのない、わが国固有の領土であり、有効に支配している」などとお経の如く繰り返す。日本の政治家があらゆる意味で中国に見くびられる理由である。


尖閣諸島を管轄する沖縄県石垣市の中山義隆市長は訴える。


「中国船の領海侵入は毎日引きも切りません。米国の混乱が続くと中国が間隙を縫って行動を起こすでしょう。日本漁船が日本の海で中国軍の発砲を受けたりしたら、尖閣諸島も海も日本領だというわが国の主張は木っ端微塵です。取るべき手立ては明らかです。中国公船の尖閣侵入を一切、許さないことです」


たとえば中国公船を海保の船で取り囲んで近づけないようにすべきだと、中山氏は言う。しかし、海保手持ちの尖閣専従の巡視船は1000トンクラスの大型が12隻だ。中型・小型の巡視船を合わせると66隻になる。他方中国海警局は76ミリ大型砲を備えた5000トン級を中心に、130隻、その多くは事実上軍艦である。


彼我の力の差が開く中で海保は12隻の内4隻を海警局の4隻に対抗するため海に出してきた。別の4隻は出動準備、残り4隻は待機する体制だ。しかしいま、尖閣の現場は大変な状況だと山田氏が警告する。


「中国は日本の足下を見て、8島ある尖閣諸島の内の大正島と魚釣島に海警を出してきました。そのため海保は8隻を海に出し、残る4隻は出動準備中です。海保は船も人員も一日も休ませる余裕がありません」


海警の艦船を海保の船で取り囲む余力はない。中山氏が強調した。


「ですから、島に日本人が上陸して中国人を上陸させないことしかない。私たちはずっと前から政府にそのように要請してきました。石垣市は➀環境調査、➁漁業者のための灯台の整備・維持、➂気象観測、➃無線中継局の建設、➄人員の配置、を求めてきました。島を守るには上陸する、実力行使しかありません」


守る力が欠落


中山氏の訴えは悲愴である。だが悲愴な訴えを発し続けているのは坂東博一氏も同じだ。坂東氏は石川県漁業協同組合小木支所に所属し、日本海が事実上中国と北朝鮮に奪われてしまっていると厳しい現実を語る。


「水産庁から9月30日、最良の漁場である大和堆を含む広い海域で漁の自粛を要請されました。事実上の命令です。イカ漁の最盛期に出漁できないため、ほとんどの漁民は赤字経営です」


自粛要請は10月28日から29日にかけて8割方、解除され、漁民の皆さんは早速漁場に向かった。そこで驚くべき光景に出くわしたという。

「中国漁船が1000トンクラスも含めて数百隻もいたのです。我々のイカ釣り漁船は日本の法律で199トン以下と決められています。多勢に無勢。強力に非力。彼らの中に割り込んで漁をするなど考えられず、空で戻ってきました」


実は同じことが昨年も起きていた。昨年8月23日、海保の巡視船が大和堆周辺で北朝鮮の船に銃口を向けられ「即時退去」を要求された。水産庁は驚き漁協に自粛要請をした。大和堆は日本の排他的経済水域の内にある。外国漁船の漁は国際法違反だ。にも拘わらず、政府は北朝鮮や中国の漁船を取り締まるかわりに、日本の漁船に漁を諦めろという。水産庁には外国漁船を取り締まる力がなく、海保に委ねるにしても海保は尖閣諸島で手一杯で余力がないことが理由だ。


尖閣の海も日本海も、日本には守る力が欠落している。米軍の支援があれば守りようもある。しかしもはやそんな時代ではない。いま問われているのは日本国に国として領土防衛に立ち上がる気概はあるのか、である。中国はその点を凝(じ)っと見ている。菅義偉首相よ、中国に日本の気概を示せ。力で守る構えを作れ。

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