闘うコラム大全集

  • 2020.11.26
  • 一般公開

バイデン政権、上院次第で機能不全に

『週刊新潮』 2020年11月26日号

日本ルネッサンス 第927回


米大統領選挙の結果は米国が「一国二国民」(米外交問題評議会会長、リチャード・ハース)であることをはからずも露呈させた。


外交問題評議会は議会関係者や国際政治・安全保障の専門家にとって必読誌とされる「フォーリン・アフェアーズ」の発行元である。その会長であるハース氏は9・10月号の同誌に「分裂のさ中で――トランプは如何にして米外交政策を破壊したか」を書いた。


トランプ氏に対する感情的反発が表現の端々にまで噴出した内容だったが、氏の指摘する「一国二国民」は米国の現状を象徴して巧みである。しかし実は米国民は二分どころか四分五裂されている。


大統領選挙は11月13日に全州の開票が終了し、バイデン、トランプ両氏の選挙人獲得数は306人対232人となり、一応バイデン氏勝利となった。「一応」と留保したのは、トランプ氏がバイデン氏の勝利は選挙の不正によってもたらされたと主張し法廷闘争を続けているからだ。


トランプ氏の挑戦が続く一方、最大の争点は来年1月5日の再投票で決着する上院の2議席の行方に移ったと見てよいだろう。上院全議席100の内、共和党はすでに50を固めた。ジョージア州の2議席の内、ひとつでも取れば議会運営の主導権は共和党が握る。民主党圧勝の予想に反して共和党多数となれば、ホワイトハウスを失ったとしても、大統領選挙の勝者はトランプ氏の共和党だと言ってもおかしくない。この点を含めてトランプ氏の功績は正しく評価されるべきだろう。


米国の国内問題で見れば、トランプ氏はバイデン氏より少ないとはいえ、7100万票以上を獲得し、共和党の支持基盤拡大に貢献した。アフリカ系米国人、ヒスパニック系米国人の支持も各々、8%から12%、28%から32%へと前回より大幅に増えた。武漢ウイルスで大きく後退したが、経済成長は著しく、失業率は6.9%まで大幅に低下した。武漢ウイルスの犠牲者が24万人に達する中での、アフリカ系、ヒスパニック系の支持拡大の理由は経済の好調振りにあっただろう。


極端な社会主義者


氏の最大の功績として歴史に残ることが必定なのは、最高裁判事の人事である。日本では私を含めて国民が最高裁判事の人事に大きな関心を持つことはない。しかし、米国では法を基本としながらも、判事の価値観が判決を下す際の重要要素となる。従ってどんな価値観の人物を選ぶか、非常に厳しい闘いとなる。


トランプ氏は第一期の4年で保守派のゴーサッチ、カバノー、バレット三氏を任命、判事9人の内6人を保守派で固めた。最高裁判事の任期は終身であるため、これから少なくとも数十年、米国社会の規範は保守派の価値観を体現するだろう。判事任命の仕組みを活用すれば二世代、三世代、即ち百年単位で保守派が社会の価値観設定を主導できるといってもよいだろう。このような人事を決断・実行したトランプ氏の共和党が予想に反してはるかに善戦した。米国民の動向を判断するうえでこの点の過小評価は禁物だろう。


国際社会におけるトランプ政権の貢献の筆頭は、専制独裁ファシズムの中国に異を唱えたことだ。力を背景に膨張を続け、世界に中華秩序を確立しようとする中国共産党の前に立ち塞がった功績は計りしれない。


バイデン民主党政権はトランプ氏が確立した価値観の修正にとりかかるだろう。しかし、バイデン氏がどれだけ問題解決能力を発揮できるか、疑問だ。氏が直面する第一のハードルが前述した上院の壁である。共和党が過半数を制した場合、バイデン氏は閣僚人事をはじめ予算案などで大幅譲歩を迫られ、党内左派の要求に応じられない可能性がある。


米有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が11月9日の社説で興味深くも指摘したのは、共和党による上院の過半数獲得こそバイデン氏にとって好都合だという点だ。


民主党の大統領候補選びが最後までバイデン氏とサンダース氏の激しい争いでもつれたことは周知のとおりだ。サンダース氏は自身を民主社会主義者と呼ぶが、もっと極端な社会主義者である。シンクタンク、「国家基本問題研究所」研究員で福井県立大学教授の島田洋一氏は『3年後に世界が中国を破滅させる』(ビジネス社)でサンダース氏の実像を描いた。


島田氏の指摘から紹介する。サンダース氏は民主党を右寄りすぎるとして党籍を取っていない。徹底した環境主義者で反炭素主義者だ。石油・石炭・天然ガスから速やかに脱却し、太陽光、風力中心の再生可能エネルギーへの完全転換を主張する。


米軍派遣に強く反対


外交・安保政策では徹底した非介入主義者で、尖閣有事で米軍派遣に強く反対するのは間違いないだろう。日本にとって大変な事態だ。中東を起点とする石油輸送ルートは米軍が防護しているがこれも直ちに止めよと主張する。石油の9割を中東に頼る日本にとってこれも深刻だ。


このような環境、非軍事、非介入政策に加え、最低保障賃金として時給15ドル政策を民主党の公約にするとしたサンダース氏は、若者たちの熱狂的支持を受けた。しかし社会主義政策では全米各層全人種の支持獲得は不可能だと説得されて、氏はバイデン支持に回った。バイデン氏がサンダース氏ら左翼陣営の政策を無視できないゆえんだ。


上院議員から副大統領となるカマラ・ハリス氏は、上院議員100人中一番の左翼と評されている。彼女の外交や安全保障政策の全容はまだ見えないが、「米中は環境政策で協力できる」とは語っている。中国を巻き込んで環境問題を改善していくことは重要だが、環境大国は日本で、しかも同盟国だ。オバマ政権時代に日本の頭越しに中国に傾いた米国の悪癖を連想するのは、日本人として自然な反応であろう。


バイデン氏が重用しかねないのがスーザン・ライス氏だ。オバマ政権時代に重職の安全保障担当補佐官を務めた。彼女は北朝鮮の核ミサイル保有を容認し、北朝鮮と平和共存の道を探るべきだと主張する。


当のバイデン氏はオバマ政権の副大統領だったとき、オバマ氏に輪をかけて軍事行動の回避に努めた。一例がアルカイダの指導者、オサマ・ビンラディンの殺害である。失敗した場合の政治的打撃を恐れて最後まで反対したのがバイデン氏だった。オバマ政権の国防長官、ロバート・ゲイツ氏はバイデン氏を、「誠実な人物」としながらも、「過去40年間、ほとんどあらゆる主要な外交安保政策について判断を誤ってきた」(前掲書)と回顧録に記した。


米国は確実に変化し続ける。中国がそこにつけ込む。日本を守るのは日本でしかない。強く覚悟して、万全の備えを築くのが唯一の道だろう。

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