2024.12.07NEW!
【櫻LIVE】第633回:岩田清文・元陸上幕僚長/小泉悠・東京大学 先端科学技術研究センター准教授との対談動画を公開しました
闘うコラム大全集
- 2020.12.03
- 一般公開
官邸に乗り込んだ韓国高官の赤い影
『週刊新潮』 2020年12月3日
日本ルネッサンス 第928回
政治が激しく動くとき、怪しい勢力が暗躍するのは世の習いだ。
11月8日に来日した韓国の国家情報院(国情院)院長、朴智元(パクチウォン)氏はその典型だ。朴国情院長は4日間滞在し、まず二階俊博自民党幹事長、次に菅義偉首相に面会した。
国情院は韓国の情報機関だ。そのトップが他国の首脳に会うとき、通常は秘密裏に行動する。ところが今回、朴国情院長は、官邸側が裏口からの来訪を検討したにも拘わらず、正面玄関から入り、会談後に記者団の取材に応じてみせた(「毎日新聞」11月12日朝刊)。
朴智元氏とは何者か。11月20日の「言論テレビ」でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力氏が以下のように説明した。
氏は韓国全羅道出身で金大中元大統領の同志だった。金大中政権で観光大臣に就任、この頃に、日本の観光業界の実力者、二階氏との親交を持ったといわれている。
朴氏は金大中の密使として北朝鮮と裏交渉を行い、2000年6月の金大中・金正日の南北首脳会談を実現させた。そのとき金大中側が4億5000万ドル(約450億円)の現金と5000万ドル(50億円)相当の物資を金正日に貢いだ。
西岡氏の指摘だ。
「朴智元氏の北朝鮮の交渉相手は対南工作機関の統一戦線部と見られています。金大中一行の平壌入りの映像には朴氏が金正日から耳打ちされている場面があります。彼が行った工作とは、金と物資を北の39号室、つまり金正日の対南工作の中枢機関で韓国制圧を目指して、長年凄まじい攻勢をかけ続けた機関に送ったことです。韓国への裏切りです。後に一連の悪事が明らかになって、有罪判決を受けて収監されました」
ちなみに二階氏は08年4月22日のブログ、「がんばってます」で、収監され、病気療養で刑の執行が停止された朴氏を見舞ったこと、運輸大臣だった当時、朴氏との間で「兄弟の契り」を結んだことを書いている。
義兄弟の面目躍如か、昨年8月19日、朴氏が文喜相国会議長の特使として来日した際、朴氏は二階氏と5時間以上会談している(「読売新聞」19年8月21日朝刊)。
2500億円の秘密文書
朴氏は金大中の系譜でありながら文在寅大統領らとは折り合いが悪かった。理由は朴氏が裏金献金工作の責任をとらされて獄に下ったとき、盧武鉉大統領は守ってくれず、文在寅氏は朴氏の選挙地盤である全羅道を乗っ取ろうとしたからだ。ところが今年7月、文氏はそれまでの国情院長、徐薫氏をスライドさせ、朴氏に頭を下げて国情院長就任を要請した。
「統一日報」論説主幹の洪熒氏が説明した。
「朴智元は複雑な人生を歩んできました。彼の父もその兄弟も日本統治時代にスターリンの指令で創られた南朝鮮労働党という共産主義革命党の党員でした。日本の敗戦で米軍が朝鮮半島に入ると彼らは獄中にあった共産主義者を全て解放しました。朴の家族は南朝鮮労働党の党員になりましたが、1950年に朝鮮戦争が勃発すると、父もその兄弟も韓国軍に処刑されたのです。彼は韓国を深く恨んでいると思います」
朴氏はその後米国に渡り、全斗煥政権当時、米国で事実上の亡命生活を送っていた金大中と知り合った。その後の両者の歩みは前述した。
朴氏の国情院長任命に戻ろう。国会での人事公聴会で金大中・金正日会談に先立って、朴氏が4億5000万ドルの現金とは別に、25億ドル(2500億円)の対北経済協力の秘密文書に署名していたことが判明した。西岡氏の説明だ。
「署名の筆跡は本人の自筆に間違いないと鑑定されましたが、本人は知らぬ存ぜぬで通しました。文氏は疑惑に蓋をしたまま、7月末に彼を国情院長に任命しました。そして何が起きたか。南北朝鮮関係が劇的に改善されたのです」
たとえば9月8日、文氏が北朝鮮への災害に見舞いの手紙を出すと、4日後に「大韓民国大統領文在寅貴下」という宛名の返事が来た。
北朝鮮は元来、大韓民国を認めず、いつも南朝鮮と呼ぶ。だから文氏はへりくだって、2018年9月、初めての平壌訪問では、「南側の大統領文在寅です」と自己紹介した。だが今回、金正恩氏が「大韓民国大統領貴下」と書いてきた。驚くべき豹変である。
9月22日、韓国の公務員が海上で北朝鮮軍に殺害され遺体を焼かれた。すると3日後、金正恩氏の謝罪文を朴智元氏が受け取った。
何故急変したのか。韓国情報機関のトップとしてあらゆる秘密情報を手にする立場に立った朴氏を活用して、韓国を手玉にとれると金正恩氏が考えたからではないのか。朴氏の動きはおよそ全て北朝鮮の利益をはかるためと考えておくべきで、その画策は対日政策にも深刻な影響を及ぼすだろう。朴氏の背後の勢力と見られる北朝鮮の統一戦線部は朝鮮総連の上部機関だ。朝鮮総連の幹部が足しげく二階氏の幹事長室に出入りしていることは深く懸念される。
最も危険な人脈
西岡氏の話だ。
「これまでは安倍前総理が北朝鮮外交を指揮していました。菅政権下で二階氏の発言力が強まったらどうなるか。『義兄弟』と言われる情報機関の長とどんな話をしたのか。私には分かりませんが、『朝鮮日報』は東京五輪に合わせた日米南北朝鮮の4首脳会談を画策したと報じました」
菅首相は安倍晋三前首相と同じく、拉致問題解決を最優先し、金正恩氏との直接会談を考えている。朴国情院長が、金氏への太いパイプがあるという触れ込みで接触してきた場合、菅首相がその話に乗る可能性はあるかもしれない。しかし、西岡氏はそれこそ最も危険な人脈だという。
「朴氏がつながっている統一戦線部は横田めぐみさんらは死亡と言い、偽の遺骨を出してきた機関です。日朝の交渉は統一戦線部を外して首脳同士が会い、被害者の全員帰国に向けて直談判しなければなりません。統一戦線部に任せれば、もう一度、死亡説を主張され、日本側が納得しないなら合同調査委員会を作ろう、東京と平壌に連絡事務所を設置しようと言い始めるでしょう。これまでの失敗の繰り返しになります」
経済制裁で疲弊しきった金正恩氏が統一戦線部の戦略に沿って、二階氏の巻き込みを図り、制裁の輪を緩める脱出の道として日本に狙いを定めた可能性がある。思惑があるため拉致問題が動く可能性もある。だが、経済支援だけをとられ、核もミサイルも開発され、拉致被害者は戻ってこないという失敗を繰り返さないために、菅首相にはしっかりしてほしい。朴智元氏のような人物を、日本政府はもっと厳しくスクリーニングする必要があろう。
言論テレビ 会員募集中!
アップデート情報など掲載言論News & 更新情報
週刊誌や月刊誌に執筆したコラムを掲載闘うコラム大全集
-
異形の敵 中国
2023年8月18日発売!1,870円(税込)
ロシアを従え、グローバルサウスを懐柔し、アメリカの向こうを張って、日本への攻勢を強める独裁国家。狙いを定めたターゲットはありとあらゆる手段で籠絡、法の不備を突いて深く静かに侵略を進め、露見したら黒を白と言い張る謀略の実態と大きく揺らぐ中国共産党の足元を確かな取材で看破し、「不都合な真実」を剔抉する。
-
安倍晋三が生きた日本史
2023年6月30日発売!990円(税込)
「日本を取り戻す」と叫んだ人。古事記の神々や英雄、その想いを継いだ吉田松陰、橋本左内、横井小楠、井上毅、伊藤博文、山縣有朋をはじめとする無数の人々。日本史を背負い、日本を守ったリーダーたちと安倍総理の魂と意思を、渾身の筆で読み解く。
-
ハト派の噓
2022年5月24日発売!968円(税込)
核恫喝の最前線で9条、中立論、専守防衛、非核三原則に国家の命運を委ねる日本。侵略者を利する空論を白日の下にさらす。 【緊急出版】ウクライナ侵略、「戦後」が砕け散った「軍靴の音」はすでに隣国から聞こえている。力ずくの独裁国から日本を守るためには「内閣が一つ吹っ飛ぶ覚悟」の法整備が必要だ。言論テレビ人気シリーズ第7弾!