闘うコラム大全集

  • 2021.01.21
  • 一般公開

ポンペオ氏、米中関係転換の決定打

『週刊新潮』 2021年1月21日号

日本ルネッサンス 第934回


任期が残り11日に迫った1月9日、ポンペオ米国務長官が鮮やかにケジメをつけた。米国はこれまで、「中国はひとつ」と中国政府が主張していることを承知し、米国と台湾の政治家、外交官や軍関係者の接触を「自主的に制限」してきたが、それらすべてを撤廃したのだ。


氏はこう述べている。


「台湾は活力に溢れた民主主義国で信頼すべき米国のパートナーだ。しかしこれまで数十年間にわたって米国は北京の共産主義政権を宥(なだ)めるために台湾との交流を自主規制してきた。だが、もうしない」


「ノーモア」と言い切ったのである。米上院は3年前の2018年2月28日、共和、民主両党が全会一致で台湾旅行法案を可決した。閣僚級も含め米政府の全職員が台湾を訪れ各自の相手と会談するのを許可する内容だ。


その後、台湾を巡る情勢は大きく変わった。中国が香港を弾圧し、国際社会の同情と支持は香港や台湾に集まった。中国の弾圧が続く中、昨年1月の台湾総統選挙で民進党の蔡英文総統が圧倒的強さで再選された。中国寄りの国民党は潰滅的打撃を受け、現在米国との国交樹立を唱えて、民進党よりも過激である。


総統選直後に武漢ウイルスが広がり、台湾は見事に防いだ。そして米国は昨年8月にアザー厚生長官を台湾に派遣、9月にはクラック国務次官が、そして本稿が活字になっている頃にはクラフト国連大使が台湾を訪問しているはずだ。つまり1979年の米中国交樹立以来39年間続いた自己規制は事実上すでに撤廃されていたのだ。今回、ポンペオ氏はそれを明確に言葉で表現し、米国政府の政策として発表し、ケジメをつけたのだ。


中国は烈しく反応した。中国共産党の対外向け機関紙「環球時報」は10日、バイデン次期政権は現政権の行動を無効化するのか、それに対してポンペオは―とポンペオ氏を呼び捨てにし―自身の台湾訪問など、さらなる挑発的行動に出るのかと問うている。


米国は台湾の側に立つ


バイデン政権が現政権に迫られる形で「ひとつの中国」政策の根底をつき崩す行動に出ないように、中国側は断固たる意思を示すべきだと環球時報は警告する。クラフト国連大使の訪台はポンペオ氏が中国を試しているケースだと見て、中国政府は決定的に強い意思表示で反対しなければならないとする。


その上で、万が一、ポンペオ氏が任期切れ前に台湾を訪問する事態になれば、人民解放軍(PLA)空軍の戦闘機は直ちに台湾上空に飛び、かつてない形で中国の主権を宣言すると警告してみせた。「米国と台湾が過剰に反応すれば、即ち戦争だ」、とまで書いた。


日程が発表されたクラフト大使訪台を中止させるのは厳しいと観念しているものの、ポンペオ氏の訪台だけは何としてでも阻止したいとの思いが透けて見える。恫喝はまだ続く。


「アメリカ国民に見捨てられた政権の気が狂ったような最後の足掻きを頼りに、台湾が分離独立を果たせると考えてはならない。そんなことをすれば全滅の運命が待っている」


彼らの反応こそまさに「気が狂ったよう」ではないか。憤懣やる方ないのか、彼らはポンペオ氏及びトランプ大統領を以下のように貶める。


「バイデン陣営と多くの米国民は、余りにも愚かな現政権が核兵器を使ってでも目的を達成しようとするのではないかと懸念している」


台湾を狙う、核弾頭を含むミサイル約2000基を実戦配備しているのは他ならぬ中国だ。いざとなったら核があるぞと脅し続けている自国の「狂気」を、彼らは忘れているのか。共和党政権への常軌を逸した攻撃が、彼らの衝撃の強さを示している。中国共産党が死ぬほど懸念しているのは、バイデン政権がポンペオ氏の決定を継承することだろう。果たしてバイデン氏はポンペオ氏の決定とどう向き合うだろうか。


バイデン氏は米国が中国と国交を樹立した79年、上院議員として台湾関係法に賛同している。中国による台湾併合に断固反対し、米国は台湾の側に立ち台湾の独立を守ると宣言したのが台湾関係法である。その延長線上にあるのがトランプ政権による台湾旅行法で、ポンペオ氏の決定は台湾旅行法を別の表現で語ったにすぎない。


筋立てて考えれば、そしてバイデン氏が信念の政治家であるのなら、ポンペオ氏の決定を否定することはあり得ないはずだ。


日本にもポンペオ氏の重大決定は必ず跳ね返ってくる。日本は台湾問題に関して迷う余地はないだろう。罷り間違って北京側についたりすれば、89年の天安門事件のときと同じ間違いを繰り返すだろう。


悪霊のような勢力


あのとき日本外務省は二つの大きな柱を立てた。➀絶対に中国を刺激してはならない。天安門での弾圧を批判するなら決して中国の面子を損なわない形にする、➁中国は鄧小平の改革開放政策を推進中で日本はこれを助けるべきだ。さもなければ中国の混乱はアジアにおける撹乱要因になる、である。


日本政府即ち宇野宗佑、海部俊樹の両首脳は当時の欧米諸国とは反対に対中制裁に抑制的姿勢を取り続けた。しかし日本政府の対応は結果として間違っていた。中国共産党は人間の自由も民族の独自性も受け入れず、ひたすら自らの支配を強めようとする悪霊のような勢力だ。そのような勢力を信じたツケがいま、回ってきている。


バイデン政権の対中政策についてはまだ不透明な部分が多い。しかし、ひとつ明確なのは力強いリーダーシップは発揮できないだろうということだ。力で統率する中国共産党のぶれない外交の前で、バイデン氏が劣勢になることも十分にあると覚悟しておいた方がよい。しかし、そうであればある程、日本が発奮しなければならないだろう。米国との協力体制を強め日本なりの知恵を出すことが日本の国益である。


中・長期的に見れば、人間の自由を抹殺する中国に未来はない。自由主義陣営の私たちは必ず、勝つ。彼らよりずっと好ましい未来を築ける。そう信じて揺るがず、いまは目の前の台湾の独立維持を力強く支え、守ることが大事だ。


たとえば、日本はすでに中国と対峙する日米台の産業構造の構築に参加しているのだ。米国抜きのサプライチェーン構築に躍起の中国に対して、日本は中国抜きのサプライチェーン構築の重要メンバーだ。世界最大手の台湾の半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)はすでに米国での工場建設を決定したが、今年、彼らは茨城県つくば市で日本企業との共同開発にも入る。北九州に工場もできる。ポンペオ氏の政策こそ、正しいと思う。そのような台湾擁護の政策づくりに日本政府は知恵を絞り、勇気をもって実行すべきだ。

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