闘うコラム大全集

  • 2021.02.04
  • 一般公開

米国の出鼻をくじく中国の本気度

『週刊新潮』 2021年2月4日

日本ルネッサンス 第936回


中国の習近平国家主席が1月11日、中央党学校の開講式で演説した。李克強氏ら政治局常務委員、王岐山国家副主席を前にして、今後30年間は中国が歴史的大望を達成する時期だと習氏は語った。


「世界はこの百年で初めての大変化を経つつあるが、時と勢いはわれわれの側にある。この事実こそわれわれの定力〈ぶれない力〉と気概の源であり、決意と自信の源だ」


「時勢は我に有利」と見る習氏は幹部らの心構えを次のように説いた。


「高級幹部は必ず中華民族の偉大なる復興戦略の全体像と、百年で初めての世界の大変化を踏まえよ。各自の胸に『国之大者』(国家の大事)を刻み、たえず政治判断力、政治理解力、政治執行力を高めよ」


目の前で進行中の世界情勢の大変化を中国優位の変化となすよう、あらゆる好機を掴み取れ、そのために全身の神経を針ネズミのように逆立てよと檄を飛ばしている。


だが中国共産党の足下の危うさは、国内治安維持に人類史上前例のない完全な国民監視システムを構築し、軍事費よりも尚大きな予算を充てなければならないことからも明らかだ。


それでも足りずに中国共産党は幾百万人を拘束し、発言を封じ、政府批判を罰する。多くの人々が責め苦の中で絶望し、拷問で死に追いやられている。ポンペオ前国務長官は中国のウイグル人に対する所業は「ジェノサイドで、人道に対する罪」だと認定した。ブリンケン新国務長官も同認定を受け入れ、バイデン政権は中国に対して何らかの措置を迫られることになった。


他方、コロナ禍で傷ついた日米欧諸国と較べて、中国の回復振りは確かに速い。経済活動も回復途上にあり、2020年の10~12月の実質成長率は2.3%と中国は発表、前期比を年率換算すると11%程度となる。国民の行動を中国のような強権発動でコントロールできない国々では、経済の回復においても足踏みが続く。その結果、中国が国内総生産(GDP)で米国を追い抜くのは、当初予見されていたよりも早く、28年にも逆転する可能性がある。


中国共産党の安堵感


自信をつけた中国はバイデン政権を様々な角度から試している。バイデン新大統領が21分間の就任演説で、団結と民主主義の重要さを米国民に語りかけていた丁度同じ頃、習氏ら中国共産党幹部は全国人民代表大会(全人代)で香港政府の行政長官や議会の選挙制度について、民主派勢力を徹底的に殺ぐための改悪案を論じていた。同案は3月5日開会予定の第4回会議で具体化すると見られている。


産経新聞台北支局長の矢板明夫氏が指摘するように、中国はいまや米国に何の気兼ねもせずに香港弾圧をやってのける。中国側は共産党内部の会議でバイデン演説とは正反対の、民主主義圧殺のための制度改革を議論し、香港の徹底的弾圧政策を画策する一方で、共産党機関紙「環球時報」では米国向けに偽善的な主張を展開する。


「バイデンは5つの課題を掲げた。ウイルス、格差、人種差別、気候変動、世界における米国の地位だ。(中略)中国は米国のパートナーとなってウイルスとの戦いで手を貸し、気候変動問題を解決し、経済成長を押し上げることができる」


バイデン氏が中国の助力を受け入れればウイルス問題も含めて難問を解決できる、助けてやろうというのだ。世界にウイルスを拡散させた中国共産党のなんと鉄面皮なことか。同時に彼らはこうも書いている。


「米国世論はバイデンを弱い大統領と見做している」「新大統領の議会における力も弱い」


バイデン氏は全く軽く見られているのである。氏は21分間の就任演説で武漢ウイルスをはじめとする国内問題に20分を費やし、残り1分で外交を論じた。しかも中国には一言も触れなかった。環球時報も書いている。「中国には一言も触れなかった」と。中国共産党の安堵感を読み取るのは私だけではあるまい。


演説全体に占める外交・安全保障問題の比重の小ささは、バイデン氏の国際社会への関心の低さゆえと見ざるを得ない。「自由で開かれたインド・太平洋戦略」や南シナ海、東シナ海、台湾問題に、そもそもどれ程の注意を向けているのか、見通せない。


そのことを試すかのように、中国人民解放軍が大胆な挑発行動に出た。23日のことだ。爆撃機「轟6」8機、ステルス戦闘機「殲16」4機に、対潜哨戒機を加えた13機編成で台湾南西空域の防空識別圏(ADIZ)に侵入したのだ。これまで1機乃至3機編成だったのが、一気に13機の大編隊によるADIZ侵入は、バイデン政権を試す明確な政治的メッセージに他ならない。


完全な恫喝外交


米国政府は直ちに反応した。国務省のプライス報道官が中国に「台湾への軍事、外交、経済的圧力を停止し、意味ある対話に取り組むように」と促したのである。プライス氏はさらに重要発言を重ねた。


「米国は民主体制の台湾との関係深化も含めてインド・太平洋地域において友邦や同盟諸国を支えていく」「米国の台湾へのコミットは盤石(rock-solid)だ」「(台湾の独立を守るための)台湾関係法を維持する」


丁度同じ日、米海軍の空母「セオドア・ルーズベルト」が打撃群と呼ばれる一群の艦船を伴って、台湾南側のバシー海峡を通過して南シナ海に入った。中国軍が空から侵入すれば、米軍が海上から睨みを効かした。


すると翌日、中国軍は前日を上回る15機編成で台湾のADIZに侵入した。さらに翌日には環球時報が社説を掲げた。要約すると、米中の相互理解の基本的枠組みが失われ、戦略的誤判断の確率が高くなっている。中国人民解放軍の戦闘機が台湾を周回飛行し、「海峡中間線」を越えるのはすでに常態になっている。米中共にますます相手の意図を読めないところが増えている。だが、台湾海峡情勢に対する主導力を最も素早く高めているのは疑いなく大陸側である。解放軍の戦闘機が台湾本島の上空に現れるのは時間の問題だろう。台湾海峡情勢の緩和は戦術面からは突破できない、政治面から手をつけるべきだ。


完全な恫喝外交だ。米国はトランプ政権の政策を受け継いではならない、「中国はひとつ」の原則に戻れ、さもなくば軍事紛争だと脅している。バイデン氏はこのような中国の恫喝に耐えられるか。日本は米国と共に台湾の側に明確に立てるのか、厳しく問われている。矢板氏は中国の一連の行動は南シナ海に中国のADIZを設定するためだという。


「ADIZを敷いてしまえば南シナ海の実効支配がより完全になります。彼らはその準備をしていると思います」


中国は今こそ覇権確立の時と見る。日本は祖国防衛の戦いを挑まれる可能性がある。覚悟が問われている。

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