2025.05.03
【櫻LIVE】第654回:ジョセフ・クラフト・経済アナリスト/加藤康子・元内閣官房参与との対談動画を公開しました
闘うコラム大全集
- 2021.08.19
- 一般公開
尖閣諸島で「日米共同訓練」を開始せよ
『週刊新潮』 2021年8月12・19日合併号
日本ルネッサンス 第962回
東京五輪もあと数日、卓球、体操、水泳、陸上と、応援する側も、本当に忙しい。池江璃花子さんが女子競泳400メートルメドレーリレーを泳ぎきって、一緒に泳いだ選手たちと抱き合って号泣していた姿、その後は晴れやかな笑顔になって「幸せ!」と語った姿。きっとずっと記憶に残ると思う。
日本中が五輪で盛り上がっている間、世界と中国との対立は深まり続けている。57年前、東京五輪に合わせて核実験をしたように、中国はいつも相手国の不意を突く。「言論テレビ」は五輪の最中の7月30日、陸海空自衛隊の元幹部を迎えて危機に陥っている尖閣と台湾を取り上げた。
元陸上幕僚長の岩田清文、元空将の織田邦男、元海将の堂下哲郎の三氏は、いずれも軍事の専門家として台湾も尖閣も、日台両国は完全に中国の戦略にはまっていると危惧すること頻りだった。
たとえば尖閣諸島周辺海域にはほぼ毎日、中国人民解放軍(PLA)傘下の海警の船が侵入し続けている。海上保安庁の巡視船は口頭で退去を求めるが、中国側は気にもしない。日本政府は、領海侵犯される度に「遺憾である」と言い、尖閣諸島の施政権はわが方にあると繰り返す。
しかし国際社会の目には、日中双方の船が毎日せめぎ合っている尖閣の海は、両国の共同管理下にあるように見えるのではないか。「尖閣問題に関して日中間に領土問題は存在しない」と日本政府は主張するが、中国側が尖閣海域への侵入を開始して10年以上が経ったいま、残念ながら「領土問題は存在する」状況になっている。中国の戦略は功を奏しているのだ。
台湾情勢は日本よりはるかに厳しく、「単独では風前の灯」だ。岩田氏が指摘した。
「台湾の窮状は空において最も顕著です。2020年10月に、台湾空軍の参謀長がその年の1月から10月までの緊急発進の回数を発表しました。4596回という、異常な回数でした。台湾は極度な緊張下に置かれています」
「台湾はギブアップ」
10か月で4596回は1日平均で15回以上になる。わが国にも中国機やロシア機は接近を繰り返している。回数は年々増えており、過去5年間の平均で見ると、中国機への緊急発進は625回に上る。航空自衛隊は毎日、1~2回緊急発進しているのである。たとえ1回であろうと2回であろうと、日々緊急発進を迫られるのは戦闘機乗りにとっても航空自衛隊全体にとっても大きな負担である。ところが台湾空軍は毎日15回だ。PLAは悪魔のような力と執拗さで戦闘機を飛ばして、台湾を圧迫する。そこで何が起きているか。岩田氏が続けた。
「台湾空軍が音を上げたのです。パイロットは緊張の毎日で心身共にもちません。空軍としては機体の整備も十分にできない。燃料代もバカにならない。そこでやむなく緊急発進はかけないというところに落ちついたのです」
中国軍機の接近に対して台湾空軍が緊急発進をかけなくなったということは、軍事上どういう意味があるのか。織田氏が説明した。
「台湾は平時の対領空侵犯措置をギブアップしたということです。これでは台湾空軍は訓練もできません。事故もあり得るし、機体整備の必要性もあるということで、台湾軍機を(空へ)上げていないのですが、はっきり言って敗北です」
平時の領空主権は国際法上絶対的であり排他的である。たとえばトルコ政府は15年11月、ロシア軍機を撃墜した。トルコ、ロシア両国は戦争状態にあるわけではなく、両国関係は平時のものであった。ところが、ロシア軍機はシリアに対する空爆を開始、トルコ領空を侵犯し始めた。トルコ側は領空侵犯機に5分間で10回の警告を発した。それでもロシア機が従わなかったためにトルコ側は国際法に基づいて撃墜した。
プーチン大統領は激怒し、7か月後、トルコ側が「深い哀悼の意」を表明して、事件は決着した。要は、トルコには国際社会からもロシアからも報復はなかったということだ。
「領空主権という絶対的主権を持っているのが国家なのです。それを守らなければ国家ではないのです。台湾が自分たちは国家だと考えるのであれば、ここは苦しくても続けなければならないと思います」
織田氏が台湾の現状を厳しく指摘するのは、領空主権を守ることの重要性を骨身にしみて知っているからであろう。氏は35年間、戦闘機のパイロットとしてスクランブル発進も含め、日本の空を守ってきた。日本上空に向かってくる中国軍機は全てミサイルという実弾を搭載している。当然自衛隊機も同様に武装している。制空権を奪われれば、海でも陸でも勝目はなくなる。国の運命を担って日々領空を守るために、国際法に厳密に従いつつ、決して相手につけ入る隙を与えないように実弾装備で構え続けた織田氏の指摘を心に刻みたい。
日米両軍の結束を強調
空自機は、中国軍機が「上がった」という情報を掴んだら、即時緊急発進して中国軍機よりも先に尖閣上空に到着する。
「我々がそこに先にいれば、中国軍機は入って来れませんから」と織田氏。
日米両国は台湾(台湾海峡)の安定と平和を守ると国際社会に向けて公約した。中国が台湾を押さえれば、台湾海峡は日本の瀬戸内海のような形で中国の内海となる。日本のタンカーや貨物船が自由に通ることもかなわなくなるだろう。南シナ海への展開も難しくなり、日本はまさに危機に陥る。台湾と尖閣・沖縄さらに日本は、すべて一体と考えなければならないのだ。
クリミア半島や南シナ海の島々の例からも、領土は奪ってしまった方が勝ちなのだ。領土が奪われた時は被害国も国際社会も声を上げるが、暫く時間が過ぎると、やがて皆、黙ってしまう。奪った側は実効支配の実績を積み重ねていけばよいだけだ。だから、領土は決して奪われてはならない。
いま、尖閣で中国が手を出さないのは、米軍と事を構えたくないからだ。しかし一旦、有事となれば、必ずこちらが守り通せるともいえない状況がある。どうするのか。日米の結束と力を中国に見せつけなければならない。ひとつの方法として、8つの尖閣の島のひとつ、久場島を日米両軍が共同訓練の場として活用する手がある。
久場島には高い山はなく、平地が広がっている。米軍はずっと同島で軍事訓練をしていた。が、1978年に米国務省が久場島での軍事訓練を凍結した。理由は79年1月に米国が中国と国交を正常化すると決定したからだ。
いま、その凍結を解くよう、米国を説得するのがよい。台湾海峡の平和と安全にコミットした菅義偉首相は、尖閣を守り通すためにも、日米両軍の結束を強調してみせることで、自らの約束を果たせるはずだ。
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