闘うコラム大全集

  • 2022.03.31
  • 一般公開

自民安保調査会、国民を裏切るな

『週刊新潮』 2022年3月31日号

日本ルネッサンス 第993回


自民党安全保障調査会(以下、安保調査会)は視野狭窄症か。小野寺五典元防衛相が会長を務める同調査会に、現実を踏まえた議論を期待するのは無理なのか。


3月16日、安保調査会は「有識者」3人を招いて「拡大抑止」や「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について意見をきいた。


拡大抑止とは、日本が核攻撃を受けた場合、米国が自国への攻撃と見做し、核戦力で反撃する姿勢を明らかにして抑止力を強めるという考え方だ。核共有とは、北大西洋条約機構(NATO)と米軍が、米軍の小型戦術核弾頭を共有し、ロシアに対する抑止力を高める戦略としているのに倣って、日本も米軍と同じような協定を結び、たとえば中国に対しての牽制とする戦略である。


核共有戦略に基づいて自国内に米軍の核を配備しているNATO諸国にはドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコがある。有事の際、NATOと米国が話し合い、核攻撃はNATO側が行う。


一連の議論は当然、わが国の非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ちこませず)は今のままでよいのかという問いにつながる。核共有に踏み切れば「持ちこませず」を外し、二原則にする必要があるからだ。


会合を受けて、安保調査会の宮沢博行幹事長代理が語っている。それを報じた「産経」「毎日」「東京」「日経」の四紙における宮沢発言は一貫しているところから、各紙ともに歪曲することなく報じたと考えてよいだろう。氏が明らかにした結論には問題点が少なくないが、その中で最も深刻なのは以下の点である。


➀拡大抑止及び核共有に関して「議論は以上だと認識している」とし、これ以上議論しないと結論づけた。


➁拡大抑止、核共有、非核三原則の見直しについて、「出席議員から導入に前向きな発言は一切なく、日本にそぐわない政策だと納得した」


➂「核を使用すれば核による報復が当然あり、核の配備先になれば真っ先に相手国から狙われるなど、実益が全くないことがはっきりした」

 

➃「唯一の戦争被爆国として、世界平和に貢献するわが国の立場(非核三原則)は絶対に崩すべきでない。『国是』とは大変適切な言葉だ」


自己の権力への過大評価


安保調査会は5月に党提言をまとめる方針だが、宮沢氏は、「核共有という言葉は私の権限で提言には盛り込まない。非核三原則の見直しも盛り込まない」と語っている。


「これ以上の議論をせずに」「私の権限で」決めるという宮沢氏は、国民が議論を望んでいることをどう考えるのか。左系の意見が強く打ち出されがちなTBSの世論調査では「核共有に向けて議論すべきだ」が18%、「核共有はすべきではないが、議論すべきだ」が60%と、「議論せよ」が計78%の圧倒的多数を占めた。


保守系メディアの産経とフジニュースネットワークの調査では、「核共有に向けて議論すべきだ」が20.3%、「核共有はすべきでないが、議論はすべきだ」が62.8%、計83.1%。これまた圧倒的多数だ。


左右両メディアの調査が巧まずして明らかにしたのは、国民は議論を望んでいるという事実だ。ロシアに侵略されているウクライナの現状を見て、多くの日本国民は中国による日本、台湾への侵略もあり得ると直感している。だからこそ、日本を守る手段や戦略に何があり得るのかを真剣に考えようとしている。日本国も日本国民もこれまで核や核共有について全く議論しないできた。結果、拡大抑止や核共有についての理解は全く不十分だ。非核三原則は美しい考えだが、それで日本を守り通せるのかという至極真っ当な疑問も感じ始めている。だからこの際議論し考えようと、国民は言っている。


前述したように宮沢氏は、5月予定の自民党提言に「核共有」も「非核三原則の見直し」も「私の権限で盛り込まない」と決めた。氏は安保調査会幹事長代理で自民党国防部会長だ。自民党は国会で絶対安定多数を擁する大政党だ。その意味で宮沢氏はたしかに「権限」を有している。しかし、厳しく問いたい。大政党の「権限」ある人物だとしても、氏に国民の約80%が望む核共有及び非核三原則見直しの議論を封じ込める正当な「権限」があるのか。党提言に盛り込まないと決定する正当な「権限」があるのか。宮沢氏の言う「私の権限」にそこまで重いものがあるとは、私は断じて思わない。氏の気負いは空回りであり、自己の権力への過大評価にすぎない。


アリバイづくり


宮沢氏はこうも語っている。


「タブー視せずに議論すべきだという先輩議員の言葉を受け止めて議論した。どんな結論を出すにせよ、議論すること自体は自民党らしさだ」


そこまで言うなら、もっとまともな議論をしてみせるべきだ。宮沢氏の発言は、安倍晋三元首相や高市早苗政調会長が非核三原則見直し、核共有の議論を提起したことを意識してのものだろう。安保調査会に招いた専門家は皆、核共有は日本には適さず、効果もないと説いた。安保調査会も「日本にそぐわない政策だと納得した雰囲気」になったと宮沢氏は語っている。


ならば答えてほしい。非核三原則の見直しも核共有も必要で前向きに取り組むべしという意見の専門家は招いたのか。私の周りには安保調査会で招いた人物らと異なる考えの人々は少なくない。一方の意見の専門家ばかり招いて、それを以て十分とするのは、一応議論はしたというアリバイづくりにすぎない。


今回の安保調査会の在り方は、弁明ばかりの自民党の典型事例ではないのか。岸田自民党は言うべきことを言わず、問題提起もできない政党になったのか。ウイグル問題について、中国に対するまともな非難決議さえもできなかった自民党の卑怯さを、私は忘れていない。


3月18日の「言論テレビ」で高市氏が重要なことを指摘した。日本防衛のために第一列島線に中距離弾道ミサイルを配備する必要について、全く議論が進んでいないというのだ。理由は「アメリカ側の提案がない」からだそうだ。


第一列島線の中距離ミサイル配備は米国側が提案し、日本側が受けるか否かの議論ではないということだ。日本の国防は日本が考え、主導し、実行しなければならないという当たり前の現実を直視することだ。いまはあらゆる選択肢を議論すべき時なのだが、小野寺氏や歴代防衛相、宮沢氏らは議論もしないという。


彼らはまた、非核三原則は日本の「国是」だという間違った主張を展開する。非核三原則はいつから「国是」になったのか。この種の好い加減な議論は即刻止めるべきだ。自民党安保調査会よ、これ以上国民を失望させてはならない。

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