闘うコラム大全集

  • 2022.10.27
  • 一般公開

予算委員会で光った政調会長の質問

『週刊新潮』 2022年10月27日号

日本ルネッサンス 第1021回


国際情勢は一瞬にして変わる。NATO(北大西洋条約機構)が「定期的訓練」だとしながら、高度な核抑止力を維持するための軍事演習を開始した。米国を含む14か国が参加して、10月17日から2週間、ベルギー、北海、英国など欧州北西部上空を各国軍機60機が飛ぶ。実弾は使用しないが核兵器の投下訓練も行う。


ロシアも「定例」の核演習を計画中だ。NATOはロシアの意図を警戒し、核の実弾使用なら「ロシア軍消滅の結果が生じる」と警告を繰り返す。


核の使用が現実味を帯びる。世界情勢の大激変に対応できなければ、無傷ではいられない。だからこそ各国は必死で対応策を打ち続ける。わが国はどうか。10月17日、衆議院予算委員会での論戦を聴いて岸田文雄首相に日本国と日本国民を守る責務への自覚はあるのかと疑った。


野党質問は統一教会問題を中心とする非建設的で無意味なものが多かったが、与党政調会長、萩生田光一氏の質問が本質を突いていた。


萩生田氏は過日、中国が台湾侵攻を想定した過去最大規模の軍事演習で、日本の排他的経済水域(EEZ)にミサイル5発を撃ち込んだことに触れた。台湾有事は日本有事という安倍晋三元総理の指摘の正しさを中国自らが証明したと述べ、質した。


「必要なものは言葉でなく抑止力であります。撃つなら撃つぞという能力を明確に示すことで、わが国へのミサイル攻撃を抑止する。これこそがわが国の平和を守り、国民の命と暮らしを守る道だと確信しています」と、反撃能力の保有に向けた岸田氏の決意を問うた。岸田氏は長い状況説明の後、語った。


「政府としては、反撃能力を含め、国民の命、暮らしを守るために何が必要なのか、あらゆる選択肢を排除せず、検討を今、加速しているところです。与党間の議論も踏まえながら、年末までに結論を出し、国民の安心安全に繋げていきたい」


答弁は長くとも首相本人の決意は全く伝わってこない。次に防衛予算だ。自民党は5年以内に防衛費を国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げると公約した。同目標に向けて政府は財務省主導の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(以下有識者会議)を設置、財源についての議論を進め始めた。


旧ソ連が決めた海保法25条


同会議についてはプライマリーバランスを重視するあまり、防衛予算の純増よりも、たとえば海上保安庁の予算を防衛省予算に組み込む形で、防衛費をふやしたという体裁を作ろうとしているのではないか、との疑念がつきまとう。


萩生田氏が単刀直入に質した。


「私は総理、水増しでは駄目だと思います。水増しでは国民の生命財産を守ることはできません」


氏はさらに述べた。


「日本はウクライナを侵略したロシアと隣り合わせの国です。北朝鮮は核ミサイルを開発し続けています。中国はこの30年で軍事費を40倍に増やしました。国民の命と平和な暮らしを守るため、必要な防衛力を積み上げたら、GDP比2%では足りないとかねてから申し上げてきました。GDP比2%に向けて、政治の意志で、予算を真水で増額し、防衛力を整備していく。このことについて総理の覚悟をお伺いしたい」


岸田氏の回答はまたもや長かった。


「国民の命や暮らしを総合的に守るには、装備、経済、技術、海上保安能力、あらゆる能力が求められる。総合的な防衛力、予算の裏付け、財源について、一体的に議論を加速します」


岸田氏はNATO方式に倣って海保予算の防衛省予算への組み込みを是認しているのだ。しかし、海保は今のままでは海自の一翼を担えない。NATO加盟諸国はコーストガード(沿岸警備隊)の予算を国防費に含める際、「軍事訓練を受け、軍事力として装備され、軍事展開時に軍の指揮下で運用可能である範囲に限る」と定めている。


コーストガードはどの国でも軍の一部で、国防の一翼を担うのが当然とされている。ところが海上保安庁法25条は「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と明記している。


元防衛庁情報本部長で国家基本問題研究所研究員の太田文雄氏は、1948年に海保が創設されたとき、25条の挿入を主張したのは「連合国軍総司令部(GHQ)の諮問機関である、対日理事会のソ連代表デレビヤンコ政治中将だった」と指摘する。


以来、海保は旧ソ連が決めた海保法25条をバイブルのように守り続ける。財務省の影響下にあると言ってよい有識者会議の助言で岸田氏が海保予算を防衛費に算入するのであれば、まず旧ソ連製の25条を撤廃し、NATO基準を満たさせるべきだ。だが法律を変えてもなお、海保と海自の連携は無理だ。太田氏が以下の点を指摘した。


財務官僚に国を任せる無責任


➀海保巡視船の機銃口径は13~14ミリだが、海自、米海軍、米沿岸警備隊は20ミリ多銃身機銃である。


➁海保巡視船のエンジンはディーゼルが主で燃料はA重油と軽油だが、海自、米海軍、米沿岸警備隊の主要船はLM2500ガスタービンとディーゼルエンジンの組み合わせである。海保は海自とも米海軍とも米沿岸警備隊とも互換性がなく、有事では助け合いにくい。


もっと決定的な欠陥もあると太田氏は指摘する。


「海自や米海軍、米沿岸警備隊は皆同じ指揮・管制・通信・コンピュータシステムを使用し、データリンクで連結されているためにリアルタイムで協力できます。仕組みが全く異なる海保はこのネットワークに入れません」


萩生田氏が両者の違いを踏まえて、予算委で重要な質問をした。


「武力攻撃事態において防衛大臣は海上保安庁を統制できると法律上なっています。統制の訓練を行ったことはあるか。統制の要領は定まっているか」「海保と自衛隊は武力攻撃事態における相互連携のための共同訓練を行ったことはあるか」


浜田靖一防衛相が答えた。


「海上保安庁を防衛大臣の統制下に置く場合の要領は確立されていません。訓練も実施していません。武力攻撃事態を想定した共同訓練も実施したことはありません」


これが現実なのに、財務省主導で海保予算の2618億円を防衛省予算に組み込むのか。防衛省予算を5年で2倍増にするには毎年1兆円強の増額が必要だ。海保予算はその4分の1以上で、まさに大規模水増しだ。


岸田氏に猛省を促したい。日本国民の命と日本国防衛の責務をどう果たすのか、何よりも国民は首相自身の考えを知りたがっている。その想いをこそ伝えよ。中露北朝鮮に囲まれた世界で最も厳しい安全保障環境の下で、財務官僚に国を任せるような無責任さは許されないのである。

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