闘うコラム大全集

  • 2023.06.08
  • 一般公開

創価学会と公明党、統一教会と同じだ

『週刊新潮』 2023年6月8日号

日本ルネッサンス 第1051回


衆議院の小選挙区「10増10減」に伴う候補者調整をめぐって自民党と公明党の対立が深まり、東京都における選挙協力が成立しなくなるという。公明党の集票力は1選挙区で約2万票とされ、先の衆院選で次点との差が2万票以下だった5人の自民党議員の当選が危ぶまれる。


5月29日現在、東京都に限られている協力中止が他の選挙区に拡大し全面的中止となった場合、自民党の衆院議員262人の内、当選が危うくなるのは60人から100人規模だとされる。


20年以上も続いた自公協力はここまで深く自民党に浸透してしまった。だが両党の協力が国民、国家の為になっていない事実の前では、共闘を見直すのは当然であろう。


日本国はこれまで公明党の所為(せい)でどれ程恥ずかしい想いをしてきたか。最近の事例は中国の人権弾圧に対してわが国が声を上げられなかったことだ。2021年12月、自民党は対中抗議文策定の最終段階にあった。中国政府はウイグル人を100万人単位で収容所に閉じ込め、民族の言語を奪い、イスラム教を禁止し、中国共産党の信奉者になれと強制した。従わないウイグル人を拷問し、死に至らせる中国共産党の手法はジェノサイドだとして世界の非難を浴びた。


自民党は「新疆ウイグル等における深刻な人権侵害に対する非難決議案」を作成したが、公明党の竹内譲氏が修正を入れた一枚の縦書きの紙を出してきたと、当時自民党の政調会長代行だった古屋圭司氏は語った。


公明党の修正は「人権侵害」を「人権状況」に、「非難決議」をただの「決議」に弱めるものだった。修正点は他にもあり、その全てが「平和と人権の党」を標榜する同党の有権者への背信を示すものだった。


この種の事例には事欠かないが、より大きな問題として憲法改正がある。第二次安倍政権以降、わが国は戦後初めて憲法改正の発議に必要な衆参両院における3分の2の改憲勢力を得た。が、改正は一向に進まない。


「政治家とは何か」


その責任は第一義的には自民党にあるが、公明党の責任も非常に大きい。目前に迫る中国の脅威に、岸田文雄首相は防衛費を27年度にGDP比2%へ倍増するなど、手を打ち始めた。だが危機はこれだけでは防げない。自衛隊を他の民主主義国同様に軍隊と位置づけ、警察法の枠組みから解放しなくてはならない。それができないのは、憲法改正に常に後ろ向きな公明党に大きな責任がある。


選挙協力を望むのなら、都に新たに生まれる五つの選挙区中、28区を含めて二つをよこせという公明党の言い分を自民党は断った。政調会長の萩生田光一氏は自民党都連の会長も務める。氏は東京選出の衆議院議員21人を招集して考えを聞いた。公明党の支援なしには選挙は戦えないと弱気だったのは一人だけで、残り20人は基本的に公明党なしで自力で戦おうと意見表明した。それを以て萩生田氏は、公明党の応援に頼らず選挙を戦う、自民党議員としての本分を尽くすと党本部に伝えた。18区選出(新30区)の長島昭久氏が語る。


「これまで8回、選挙を戦いました。四方八方気を配って、この法案は強すぎるのではないかなどと考え後退するより、決死の思いで戦う方が有権者に伝わると思います。その意味で、自民単独で選挙に臨むのがよいと、発言しました」


公明党との選挙協力なしには当選は危ういと報じられた一人、山田美樹氏にも話を聞いた。


山田氏はこれまでは東京1区で、港区を地盤としていた。それが新しい区割では新宿区と千代田区だけになる。新宿区には創価学会の本部があり、学会員の動向は当然、選挙に大きく反映される。山田氏は港区で築いた実績、人脈、後援会、友党の公明党議員とも深めてきた相互理解など全てを置いて、新選挙区で一から出直すことになる。


彼女はしっかりした国家観をもつのみならず、政策立案能力も高い。自民党の政治家らしい実績を私は高く評価する。そうした政治家が選挙区で培ってきたものをいきなり白紙状態に戻すような区割をする審議会は一体どういう基準でこんな線引きをしたのかと、私は大いに疑問に思う。絶体絶命の次元に置かれた山田氏は萩生田都連会長にどう訴えたか。


「公明党に支えられている弱気な自民党では本当の保守勢力が離れていく。このままでは駄目です。その上で、自民党が自民党らしく潔く戦えば、無党派層の有権者がついてきてくれる可能性はあると、私は言いました。無論、私の立場は苦しいです。でもこれは政治家とは何かという根源的な問題です」


「創価学会の強い意向」


ここで注目すべきことがある。正論に立って揺らがない山田氏を含め、都選出の自民党国会議員の多くが公明党の議員に同情的でもあるのだ。理由は一連の動きを主導しているのが公明党ではなく、創価学会だという点に尽きるだろう。学会の力をフルに使って、政教分離を定めた憲法20条に違反していると言えるのが「創価学会の政治部長」とされる佐藤浩・創価学会副会長だ。


5月21日配信の朝日新聞DIGITALの記事のタイトルが、興味深い。「『軽く考えているのか』創価学会幹部が自民に迫る衆院選候補者調整」(傍点筆者)である。右の記事は5月9日に自公両党の幹事長と国会対策委員長が国会内で行った会談の様子を報じたものだが、公明党幹事長の石井啓一氏、即ち公明党執行部には、候補者調整の主導権がなく、彼らは「支持母体の創価学会の強い意向を体現しているに過ぎない」というのだ。記事は「候補者調整の実権は、ある学会幹部が握っている」とも指摘する。それが佐藤氏であることは記事の続きを読めば明らかだ。


ここで統一教会問題と公明党・創価学会問題がぴったり重なる。安倍晋三総理がテロに斃れたとき、朝日をはじめとするメディアは総理殺害の重大犯罪に焦点をあてるのでなく、統一教会問題、宗教と政治に的を絞って被害者である安倍総理への批判を展開した。今起きているのは、統一教会の約100倍の信者数を持つ創価学会が政治を動かしているという厳然たる事実だ。統一教会の信者は6万から8万人だが、創価学会は近年の選挙で700万前後の票を獲得してきた巨大宗教団体だ。


その副会長が前面に出て、東京28区をよこさないなら学会の信者に指令を出して、自民党には投票させないが、それでよいかと言っている。だから朝日でさえ、「創価学会幹部が自民に迫る」とタイトルにつけた。創価学会と公明党によるとんでもない憲法違反が進行中なのだ。


自民党は公明党とのこんな“くされ縁”を断ち切り、山田氏が訴えたように自力で戦うのがよい。そこから保守政党として国民の信頼を取り戻す作業が始まるだろう。

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