闘うコラム大全集

  • 2013.11.09
  • 一般公開

中国政府のウイグル族弾圧が苛烈さを極めていくのは明らか

『週刊ダイヤモンド』   2013年11月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1009


中国の最も政治的な場所、天安門広場に10月28日、車が突っ込み毛沢東の巨大な肖像画近くで炎上、車中の3人が死亡した。翌日、中国当局は共犯者としてウイグル人5人を逮捕し、北京のウイグル人約3,000人の監視のために「ローラー作戦」を開始した。中国政府のウイグル族弾圧がさらに苛烈さを極めていくのは明らかで、事態はおぞましい。

亡命ウイグル人の組織、「世界ウイグル会議」(WUC)は、10月29日に声明を発表し、車両炎上事件がウイグル族の犯行だとする根拠をただした。WUC日本代表部のトゥール・モハメッド氏は「ウイグル人の行動の可能性もある一方、中国政府の捏造の可能性もある」と語る。

これまでと同様、中国政府は今回も一切、根拠を示さない。明確な証拠のない、したがって信頼性に欠ける一方的発表は常に情報封鎖と一体である。今回も中国政府は「徹底的かつ完璧に」(BBC)情報を封鎖した。現場に駆けつけたBBC、AFP、スカイ・ニュースの記者全員が拘束され、メディア報道も写真も徹底的に削除された。

中国外務省の女性報道官、華春瑩氏は事件についてただされ、穏やかな笑顔で「情報はない、わからない」と回答を避けた。尖閣諸島問題等での日本非難で見せる恐ろしい表情とは打って変わったほほ笑みが、かえって中国政府の危機感を表しているかのようだ。

中国政府のウイグル族弾圧を振り返る。2001年、米国への同時多発テロに乗じて中国政府は国内のウイグル人はイスラム教徒で、アルカイダなどと結びついたテロリストだと主張、類例のない監視と弾圧に乗り出した。“テロとの戦い”を前に、国際社会も中国政府の弾圧に異を唱えなかった。

中国政府の弾圧はいわば国際社会の黙認を得る形で激化し、拷問で多くのウイグル人が死亡した。中国共産党の拷問の手口は、モンゴル、チベットの人々に対するのと同様、筆舌に尽くし難い凄惨さを特徴とする。その恐怖社会で、息を潜めて暮らすウイグル人がこのところ、連続して殺害されている。

6月26日、新疆ウイグル自治区ピチャン県ルクチュンで事件が発生、35人が殺害され、25人が負傷した。

6月28日、同自治区南部のホータンで暴力事件、死傷者数は不明。漢族の強権支配にウイグル人が抗議し、警察、公安、軍が弾圧の挙に出た。

習近平国家主席は同日夜、政治局会議を緊急招集し、新疆自治区の安定維持を「テロとの戦い」と位置づけた。最高指導部序列四位の兪正声全国政治協商会議主席を現地入りさせ、兪氏は「徹底的な取り締まり」を命じた。

中国共産党機関紙、「人民日報」傘下の「環球時報」は7月1日、「シリアとトルコのイスラム過激派が中国に潜入」と伝え、ウイグル族と世界のテロリストの共謀を印象づけた。だがこの報道の根拠となる証拠は示されていない。WUCならずとも捏造を疑うのは当然だ。そして、この日もまたウイグル人2人が警察に銃殺された。

7月3日、先述したホータンでの抗議事件で10~15人のウイグル人が警察の発砲で死亡、50人以上が負傷していたと、米政府系ラジオ放送局自由アジアが報じた。

8月10日には同自治区アクス地区でウイグル人3人が警官に殺され20人以上が負傷した。

8月20日、同自治区カシュガル地区葉城県で、テロを計画したとして中国公安局がウイグル人集団を急襲し、15~20人を射殺した。

8月23日、カシュガル地区ポスカム県で、テロ訓練をした容疑で地元警察がウイグル人12人を射殺した。

厳しい監視をかいくぐって国際社会に伝えられた情報だけでもこれだけある。異民族を虫けらのように殺害する中国政府はいつの日か「人道に対する罪」で裁かれるべきと、私は思う。

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