元気になるメルマガ

  • 2013.01.22
  • 一般公開

想いはいつも自然の中へ 〜 雪の降る夜のおとぎ話 〜

 私にとって1日の内多くの時間を過ごす場所は書斎です。言論テレビ
で、「櫻LIVE君の一歩が朝を変える!」の、スタジオにしているあ
の書斎です。外出して人に会ったり話したりする時以外は、いろいろな
資料を読んだり、物を書いたり、考えごとをしている場所です。沢山の
新聞などの切り抜きと本しかないような空間ですが、とても気に入って
います。その最大の理由が、目を上げればその先に小さな庭があるから
です。

 庭は幼い頃に遊んだ田舎の風景を思わせる自然な佇まいです。花はみ
な、日本の野や山に自生する山野草です。季節になると実をつけてくれ
る梅や柿の木、金柑や、香りがなんともいえない柚子の木も植えていま
す。何年か前に数百円で買って植木鉢で大きくしたレモンの木は、いま
では20個ほども実をつけるようになりました。

 日本の花、桜が大好きで、枝垂れ桜と染井吉野、それに山桜も植えま
した。どれも少しずつ大きくなって、春になると、色合いも風情も異な
る、しかしどれもそれぞれに美しい花を楽しませてくれます。桜の花は
、この頃は遠くまで外出することが難しくなった私の母のなによりの楽
しみです。

 そうした木々の張り出した枝の下に、半畳分ほどの水溜まりを作りま
した。作って下さった人たちはこれをビオトープと呼びますが、私の感
覚では「水溜まり」と呼ぶのがぴったりのように思います。でもどんな
にささやかでも、庭に水場があるって、本当に素敵なことです。鳥も昆
虫も、驚くほど沢山の生き物がこの小さな水溜まりに集まってきてくれ
ます。

 この池の主人公は実は日本古来の黒メダカです。いまは冬ですからメ
ダカたちは池の底の泥の中で冬眠しています。あの小さな体で、泥の中
で静かに息をしながら、寒い冬を生き抜くのです。

 自然って本当に不思議ですね。この水場にいつの間にか沢山の蛙が棲
みつきました。おかげで春にはオタマジャクシがメダカと一緒に泳ぎま
す。夏には蛙の合唱が響きわたります。どれもこれも幼い頃に過ごした
九州大分県中津市や新潟県小千谷市の田舎の風景につながります。です
から私は東京に居ながら幼い頃を過ごした地方の田舎に住んでいる気分
です。

 池にはヤゴもいます。ヤゴは初夏にはトンボに変身します。ところで
皆さんは塩辛トンボの赤ちゃんの体は、最初は黄色だと知っていました
か?

 隣接する神社さんの山からやってくるのでしょうか、庭には蛇も出ま
す。去年の初夏には赤ちゃん蛇が2匹も出てきました。思いがけないと
きに蛇が突然現れるものですから、勿論、驚きます。でも蛇を見かける
度に、蛇が棲めるだけの自然が残されていることに感謝しています。で
すから、次の年も、蛇の赤ちゃんが生まれてくれるように、そしてまた
「生まれたよ!」と報せてくれるように、私は蛇を怖がらないようにし
ています。また相手を怖がらせないように、静かに優しく対応するよう
に努めています。東京の人家の建てこんでいる街中に残されたわずかな
自然の空間に、こんなにいろいろな生き物が生きている、そのことに心
から感動しています。

 過日も面白い場面を目撃しました。去年初めて実をつけた柿の木に、
まだ幾つか実が残っていた年の瀬のことです。美しい水色の羽と黒い帽
子が特徴の尾長がやってきました。尾長の美しい姿を目にする度に、私
は惚れ惚れと見入ってしまいます。尾長が庭に飛んでくると、彼らが少
しでも長くいてくれるように、また次の日も来てくれるように、私は急
いで台所に走り、果物を切ってきて枝に刺します。尾長は果物や干しブ
ドウが大好きです。

 それは兎も角、過日の年の暮れの日、尾長は珍しく1羽でやって来ま
した。そして柿の実を食べ始めたところに、ピューッとヒヨ鳥が飛んで
来て、大変な勢いで尾長に体当たりしたのです。体の大きさでは尾長に
分があります。それでもヒヨ鳥はお構いなしです。体当たりされて、思
わずひっくり返りそうになった美しい尾長はどうしたでしょうか。

 まず、反撃しました。2羽ともバタバタッと羽を震わせて、互いの背
中や尾っぽに攻撃をかけ始めました。あーっ! 喧嘩です! 大変です
! でも人間の私に仲裁など出来ようはずがありません。おろおろして
いる内に、2羽の闘いはあっさり終わりました。尾長が反撃を諦めて逃
げ出したのです。あっという間に、ヒヨ鳥が尾長を追い払ったのです。

 それにしてもこれまで尾長とヒヨ鳥が同時に庭にいるのを複数回見ま
したが、こんな場面は初めてでした。よくよく思い出してみると、尾長
は大体、数羽か十数羽の団体でやってきます。ヒヨ鳥は大概、1羽きり
です。単独のヒヨ鳥はこれまで、団体の尾長には手が出せなかったので
しょう。でも、過日は相手も1羽でした。1対1なら勝機はある。自分
の餌をとられないようにしよう。ヒヨ鳥はそうとっさに判断して攻撃を
仕掛けたのでしょう。

 果敢に戦ってみせたヒヨ鳥は、自然界はまさに気の強さと体力の勝負
の場であること、生存競争の現場であることを教えてくれたと思います


 東京に雪が降った今年1月14日も、わが家の庭ではドラマがありま
した。午前中に降り始めた初雪は美しい牡丹雪でした。ハラハラ、ハラ
ハラと天から降り来る雪が、見慣れた風景を少しずつ夢の世界へと変え
ていきます。

 やがて、屋根にも垣根にも庭にも、そして小さな池にも真っ白いフカ
フカの雪が降り積もりました。雪化粧した庭の美しさに見とれながらも
、私はハッと気づきました。これでは鳥たちの食物がみんな雪の下にも
ぐってしまう! 急いで半分に切ったミカンやリンゴを持って庭に出て
、雪の上に置きました。その上にビニール傘も差しかけました。こうす
れば雪がもっと降っても果物が雪に埋まることはありません。ついでに
牡丹の木にもビニール傘を被せました。赤みを帯びた元気な芽がもう幾
つも出始めています。上手に花を咲かせる人は、牡丹の根元に藁を敷い
て寒さから守ってやり、雪よけの藁傘を作ってやって、直に雪の冷たさ
に触れなくてもすむようにしつらえるのでしょうが、私は毎年ビニール
傘で我慢してもらっています。

 こうして小鳥と牡丹のための作業を終えて書斎に戻りました。すぐに
素早く影が走りました。目白です。庭の常連です。常連ですから影だけ
でわかります。雀ではありません。あのすばしっこさは目白か四十雀で
す。でも果物が大好きなのは目白ですから、走った影は目白なのです。
目白はしかし、木の上のほうの枝にとまって様子を見ています。降りて
きたり、傘の下に入ったり、中々しません。小鳥って、か弱い存在です
から敵に襲われたらひとたまりもありません。ですから見慣れないもの
にはとても慎重なのです。

 それでもお腹が空いていたのでしょう、やがて雪の上の果物の周りに
散らばしておいた小枝に舞い降りて、ミカンの実をつつき始めました。
1羽がそうすると、一緒に飛んできた連れ合いも安心したのでしょうね
、同じように果物をつつき始めました。

 真っ白い雪の上に鮮やかなミカンの色、黒い小枝に止まった明るい若
緑色の羽で身を包む1組の目白。なんという美しい色彩でしょうか。ず
っと見とれていました。愛らしい仕草でミカンのジュースを喉に運びま
す。黒い瞳のまわりの白い輪が、目白の首の動きを強調します。 目白
は餌をついばむときも機敏です。あっ、2羽とも飛び去ってしまいまし
た。風が吹けば、風の速さに負けない目にもとまらぬ速さで飛び立って
いくのが目白です。風かしら、雪かしらと思ったらヒヨ鳥でした。多分
、尾長を追い払ったのと同じヒヨ鳥でしょう。

 彼が——と私は勝手にヒヨ鳥を雄鳥だと決めつけているのですが——
彼が飛んで来ると、小さな鳥たちは一応場所を空けます。体の大きさが
違うためにやはり威圧されるのでしょう。かといって、いつも逃げてい
くわけではありません。仲よく一緒に餌をついばむときもあれば、ヒヨ
鳥が羽を震わせて威嚇して小さい者を追い回すこともあります。そのと
きどき、ヒヨ鳥が異なる行動に出るのはなぜなのか。今度もっとよく観
察しようと思います。

 こんなふうに書くと、ヒヨ鳥が意地悪な鳥のように思われるかもしれ
ませんが、実はヒヨ鳥を知ってみると、とりわけ賢くて愛情深い鳥だと
わかります。私のとっておきのヒヨ鳥のはなしは、とても長くなります
ので、またいつかの機会にお話しすることにします。

 今日は喧嘩っ早いヒヨ鳥が、美しい姿をしていることだけを強調して
おきます。背中の羽はグレーですが、胸には白い羽が洗練された模様を
つくっています。白とグレーという大人しい色で美しいお洒落な装いを
しているのがヒヨ鳥だということ、空を飛ぶときは流れる空気のように
優美な波型の線を引きながら飛ぶ鳥だということだけをお伝えしておき
ましょう。

 さて、1月14日の大雪の日、目白とヒヨ鳥の他に庭にやって来たの
は四十雀でした。いつもやってくる雀もカラスも鳩も姿を見せない中、
四十雀が黒と白の、キリッとした美しい姿で元気なパフォーマンスをし
てくれました。必ずペアでやって来る仲睦まじい四十雀の夫婦は雪の降
りしきる中、青竹の樋(とい)を伝って流れる水を幾度も幾度も飲み、
樋から流れる水が池の表面を覆った雪を溶かし、水溜まりが顔を出して
いる空間で、水浴びを始めたのです。

 雪の中の水浴びです! でも2〜3回でやめました。いつもは20回
以上も水を浴びるのに、流石に寒かったんでしょうね。 なぜ私が、四
十雀の水浴びの回数を知っているのか。それは数えたことがあるからで
す。庭の常連中の常連が雀、ヒヨ鳥、鳩、カラス、四十雀の五大グルー
プです。中でも、一番水浴びが好きなのが四十雀なのです。ある日、目
を凝らして数えてみると、20数回も水浴びを繰り返しました。頭も顔
も羽もすべてきれいにして、ようやく木の枝に飛んでいって、ブルブル
ッと羽を震わせ乾かしにかかりました。さっぱりしたのでしょう、如何
にも機嫌よさそうに飛んでいったものです。

 こんな他愛のないことをしている内に、日が暮れました。でも、鳥た
ちが皆、どこかに戻っていき、夜が訪れたとき、事件が起きたのです。

 夜中の2時を過ぎたとき、怪し気な雰囲気を感じて目が醒めました。
暗闇の中に明るい光がパッ、パッと閃いています。物音も聞こえます。
光は、侵入者が庭にいることを示しています。急いでベランダと庭の電
気をつけると、一気に明るくなりました。その光の中に、雪の上で遊ん
でいるかのような小振りの動物の姿が浮かびました。猫ではありません
。犬でもありません。動物がこちらを見ました。狸ではありませんが、
狸のようなつぶらな目です。鼻筋が白くスーッと通っていて顔全体に白
い十字架模様が浮かんでいます。怖がる様子もなく、私をジッと見詰め
ています。あとで図鑑で調べたら、ハクビシンだとわかりました。

 彼は、小鳥用に置いていたリンゴやミカンを見事に食べてしまいまし
た。満腹になったからでしょうか、かわいらしい顔で満足そうに見えま
した。神社の宮司さまが、社殿にハクビシンが出没して困っているとこ
ぼしておられたのを思いだしました。神社の森に棲みついて、木の上か
らきっと多くの人間を見てきたのでしょう、だから人間を怖がらず、私
のことも怖がりません。東京の街の真ん中で、ハクビシンが夜、人家の
庭にやってきて、その家の主人と相対しても怖がらず、つぶらな黒い瞳
でこちらを見詰め続けるのです。降る雪の中、おとぎ話の世界が眼前に
現れた夜でした。

                           櫻井よしこ


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