元気になるメルマガ

  • 2013.02.04
  • 一般公開

新たな米中2大国主義の始まりか
日本は米中の谷間に沈んではならない!

 いつもは安倍政権に厳しい「朝日新聞」が、2月2日の朝刊でアベノ
ミクスの成果が出ている、株価が12週連続で上がり、岩戸景気に次ぐ
上昇気流が生まれた、企業収益も改善されたと報じました。なるほど、
政権が変わるだけでこんなに人々の気持が変わるのかと思うほど、世間
の空気が明るくなったように思います。

 そんなこともあり、安倍政権は順風満帆のように思えます。しかし、
日本国を取り巻く国際情勢は非常に厳しく、安倍政権の前途は生易しい
ものではありません。とりわけ首相と自民党政権に課せられた外交課題
はいずれも重く深刻なものがあり、国益を踏まえた外交を揺るぎなく展
開しなければ、後世に憂いを残すことになります。

 それはひとえに、国際社会が大きく変化しているからです。中国、ア
メリカ、ロシア、アジア・太平洋地域の諸国。どこを見ても、いままで
にないような動きをしており、私たちは並々ならぬ諸国間の軋轢の真っ
只中にあります。いま、私たちが何をするか、或いはしないかによって
、私たちの国の運命が、決まっていく大事な時です。

 中国から見てみましょう。いったいあの国はどうしたのかと思うくら
い、メチャクチャなことをし始めました。とりわけ我が国の尖閣諸島で
中国がしていることは、挑発以外の何物でもありません。

 私は1月28日と29日の両日、沖縄を訪れ、尖閣諸島の状況も詳し
く取材してきました。「海監」や「漁政」など、中国の公船が尖閣諸島
周辺の領海及び接続水域に日常的に侵入しているのは、すでに皆さんも
ご存知のとおりです。常に2~3隻、ときには4隻、一番多いときには
13隻、侵入しました。

 それだけではありません。尖閣諸島の真北80海里、約150キロメ
ートルのところに中国の軍艦(フリゲート艦)が2隻、去年の9月20
日くらいから常駐しています。フリゲート艦はいざというとき軍事行動
をとれるように、そこにいるのです。

 沖縄に行って分かったのは、以前は海監や漁政、そして軍艦は各自バ
ラバラに動いていたのが、今年1月以降、組織的に連動し始めたことで
す。これはいままでにない新しい動きです。

 たとえば海監が3~4隻で来ます。接続水域や領海に侵入し、日本の
海保に退去を命じられても居座ります。居座ったあと彼らはやがて出て
いくのですが、そのとき2隻のフリゲート艦が南のほうにおりてきて、
睥睨するのです。

 海監などが尖閣の海に戻ってくるとフリゲート艦は北に退去し、海監
などが尖閣の海から出ていくとフリゲート艦が南下するという形で連動
しているのです。中国は四六時中、この海を自国の監視下に置いている
ということを行動で示し、国際社会に知らしめようとしているかのよう
です。日本に対してもまさに軍事力を前面に押し出して領有権を主張し
ているといえます。

 空にも中国の脅威が及んでいます。去年の12月13日、国家海洋局
所属のプロペラ機が、尖閣上空の我が国領空を侵犯しました。その後は
人民解放軍の戦闘機がかなり頻繁に飛来し始めました。彼らは北から飛
んできて領空と防空識別圏の境目スレスレをかするように南に下って、
やがて東進し、北上して中国に帰っていく。これが通常の飛行ルートに
なっていて、それを何回も繰り返すのです。

 日本側は海でも空でも抑制的に行動していますが、尖閣周辺の海と空
の緊張感には凄まじいものがあります。尋常ではない状況の中で冷静な
、そして毅然とした対処を、日本側が続けていることを実感しました。

 もはや、領土拡張の野望を隠そうともせず、むしろ正当化している中
国は、国境を接する14の国々全てと、領土・国境線に関する争い事を
抱えています。その中国で習近平氏が新しい指導者になりました。

 中国共産党一党体制の下で進んできた凄まじい腐敗と貧富の格差、ま
たこの頃日本でも盛んに報道される大気汚染の問題の深刻さなどを見ま
すと、習近平氏の政権が果たして任期一杯の10年も続くのかしらと疑
います。途中で政権が崩壊すると見ている専門家もいます。それでも一
応これから10年間、彼の政治が続くと考えて、対応策を構築しなけれ
ばなりません。習政権の特徴は、以前にもメルマガでお伝えしたように
3つあります。①中華思想、②共産党礼賛、③軍事優先です。

 とりわけ③に関して習氏の立場は強硬です。彼は繰り返し、「平時に
おける軍事力の活用を進めなければならない」と語ります。有事でもな
く緊急事態でもない、紛争が起きたわけでも戦争になったわけでもない
平和なときに、軍事力を使えと言うのです。「軍事闘争に向けての準備
を最優先せよ」とも繰り返します。南シナ海や東シナ海での中国の振る
舞いを見れば、習氏の指示が実行されているのがわかります。

 これに対し、アメリカはどのように対処してきたでしょうか。

 オバマ大統領は就任1期目の最初の年は、アジアといえば中国だと考
え、日本を殆ど軽視していました。中国とアメリカさえ協力し合い2ヵ
国でルールを決めることが出来れば、国連もIMFも不要だというかの
ような考えでした。当時、G2、二大国主義、米国と中国だ、という言
葉や考え方が飛び交い、大事な問題になればなるほど、米中間の話し合
いが日本の頭越しに行われたのを忘れられません。

 しかし、クリントン国務長官がやがて中国の本質を見抜きました。中
国はアメリカとは価値観が違う、国際法も守らない、人間の自由も認め
ない、人権も人道も無視しがちである、アメリカにとってより良いパー
トナーは日本だと彼女は確信し、中国一辺倒から日本重視、アジア重視
へと路線を変えました。結果オバマ大統領の外交政策もアジア・太平洋
重視に転換しました。大西洋と太平洋に等分に配備していた軍事力を大
西洋に4、太平洋に6の割合で配備することも、オバマ政権は決定しま
した。

 アメリカがアジア・太平洋諸国、南シナ海諸国、日本、韓国、豪州、
ニュージーランド、インドなどの側に立つことを明らかにしたわけです
。ただ、それでもアメリカは決して「中国と対抗するため」とも「中国
を封じ込めるため」などとは言いません。アメリカには中国封じ込めの
意図はありません。意図があってもそのようなことは現実的には不可能
であることを知っているからです。アメリカがアジア・太平洋諸国の側
に立つ姿勢を明確にしたのは、飽くまでも中国の暴走を許さないとして
、中国を牽制するためです。

 それでも、アメリカが後ろについていてくれますから、フィリピン、
ベトナム、インドネシアなども中国に物を言えるようになりました。こ
れが2013年1月までの状況でした。

 私はいま、過去形で表現しました。なぜなら状況が再び変化し始めた
からです。日本にとって心配な方向への変化です。これまで日本は、「
アジア・太平洋に戻ってきた」アメリカと日米安保条約を軸に協力し、
アジアの国々のためにも力を尽すよう努力すれば良かったのです。

 しかし、そのような外交政策を打ち出したクリントン国務長官は2月
1日で辞めました。中国の正体を見抜き、尖閣諸島には日米安保条約第
5条が適用されることを明確にし、「日本の(尖閣諸島への)施政権を
害そうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と踏み込んだ表現で
日本擁護の立場を明示したクリントン氏の後任に、ジョン・ケリー上院
外交委員長が就任しました。

 この人はリベラル派で親中国の人です。日本にはあまり関心がない人
物ともいえます。彼は上院の公聴会で所信を述べ、3時間半の質疑応答
に臨んで以下のように発言しています。

「中国を敵対者と見てはならない」、「中国は大国であり、アメリカの
国益のために中国との関係を強化しなければならない」、「中国の資源
消費と経済活動は大規模であり、知的財産権の保護や為替操作などの問
題についてルールの確立が必要だ」、「米中が相互の利益について一致
すれば、問題は解決可能だ」

 逆戻りなのです。オバマ政権の1期目の1年目の考え方、米中二大国
主義への逆戻りです。その証拠に、3時間半の公聴会で、ケリー氏は日
本については一度も言及しませんでした。クリントン国務長官とは対照
的です。

 オバマ大統領がケリー氏を選び、国防長官にチャック・ヘーゲル氏が
就任すれば何が起きるでしょうか。ヘーゲル氏は実は財政削減の名手で
す。民主党政権で、ヘーゲルという共和党の人材を登用するのは、これ
からの緊縮予算、とりわけ軍事費の削減を彼にやらせるということでし
ょう。

 オバマ大統領の就任演説からも明確な路線変更が窺えます。いままで
はアメリカはアジア・太平洋、世界のために、「自由、民主主義、秩序
を守り、テロと戦う」役割を担ってきました。しかしもはや、オバマ大
統領はそんなことは言いません。諸国の連携の要の役割を果たすという
表現を使います。実際に色々な仕事をするのは日本、豪州、インド、ア
ジア諸国、とりわけアジアの大国である日本にはうんと働いてほしいと
読める演説です。

 オバマ大統領は国内政策を丁寧に論じています。福祉、教育、医療を
はじめ、国内政策に重点を移しつつあるのが見てとれます。つまりアメ
リカは内向き路線に転換しつつあるのです。アジア・太平洋へのアメリ
カのコミットメントは弱くなり、日本重視ではなく中国重視になってい
くと思わざるを得ません。

 他方、中国もまた、別の面を見せようとしています。冒頭で説明した
習近平氏の価値観である中華思想、中国共産党重視、軍事優先という3
つの柱では、世界に通用しないことを自覚して、改革に向かう印象を作
ろうとしています。

 現時点では、中国は強硬路線を貫くのか、または改革路線にシフトす
るのか、分かりません。私は習近平政権が強硬路線を続ける可能性は大
きいと思います。というより、強硬路線を継続しなければ中国共産党が
持たないという状況下、彼には選択肢はないだろうと思うのです。しか
し、それも突然変わる可能性もあります。そのときアメリカの対中融和
策は次のような考え方で習近平氏の改革を後押しする力となることでし
ょう。

「クリントン国務長官は中国を批判的に見ていた。ケリー新国務長官は
、中国に同情的で中国の発言に耳を傾け、むしろ日本を軽視している。
ならば、アメリカが期待するような政策を少しでも打ち出す方向を見せ
れば、確実に米中関係は改善、強化され、日米関係は後退する。中国に
とって願ってもないことだ」

 中国の指導者が真に賢い人々であるなら、必ず、このように考えて路
線を変更すると思います。

 習氏については色々なことが言われています。本当は彼は改革派だと
言う人も多いのです。中国の民主化運動のリーダーの1人、崔衛平とい
う人も、習氏を改革派だと見做していました。それでも私は習近平体制
の下での改革は経済の分野に限られるのではないかと思います。経済分
野の改革の筆頭が、習氏が盛んに言っている腐敗撲滅です。

 習氏は官僚や軍人たちの会合では飲酒や贅沢な宴会は控えるようにと
いう指示をはじめ、非常に厳しい引き締め政策を打ち出しました。腐敗
撲滅はしかし、中国共産党にとっては両刃の剣です。やりすぎると共産
党幹部の身辺にも追求の手が伸びて、自らの腐敗が曝かれる危険が迫り
ます。共産党一党支配体制の土台もやがて崩されかねません。

 他方、腐敗撲滅運動は、中国の国民の不満を宥め、アメリカに、中国
もまともな国になろうとしているとの好印象を与える効果をもたらすで
しょう。元々親中のケリー国務長官はそのような中国にもっと肩入れし
ようとするでしょう。前述のG2の時代がくっきりと浮かび上がってき
そうです。

 こうして見ると、中国が強硬路線をとるにしても改革路線をとるにし
ても、日本にとっての状況が厳しいことがよくわかります。一言でいえ
ば、日本にとって中国は永遠の艱難(かんなん)なのです。日本がしっ
かりしていなければ、いつも中国と米国に振り回されるのです。

 どうしたらよいのか。答えは明確です。日本が他国に過度に依存する
状況から脱して、自主独立の国になることです。たとえアメリカが内向
きになり、二大国主義を掲げて中国のみを相手にするような時代になっ
ても、また、中国が異常な軍拡で迫ってきても、究極的に頼れるのは自
分のみ、自国のみと認識して、力をつけ、立派に振る舞うことを基本に
おけば、アジアの大国日本は生きのびることが出来ます。先述したよう
に、これからの5年、10年の間、中国が現状のまま、安定して一党独
裁体制を続けることがかなり難しいのは明らかです。

 21世紀の価値観は日本の背中を後押ししています。日本国民は自信
をもってよいのです。米国との同盟関係を大事にしながらも、飽くまで
も自主独立の路線を進めていくしか、日本の未来を切り拓き担保する道
はありません。                         
                 

                           櫻井よしこ


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