元気になるメルマガ

  • 2013.02.20
  • 一般公開

中国女性民主化リーダーが語る「日中開戦の恐れ」

「中国は崩壊寸前だという声があります、中国共産党中枢部も危機的状
況を認識しています」

 こんな衝撃的なことを率直に語ったのは中国の民主化運動のリーダー
の1人で、北京電影学院元教授の崔衛平氏(56歳)です。

 崔さんには過日、私の主宰するシンクタンク「国家基本問題研究所」
(国基研)でお会いし、約3時間、お話を聞きました。

 彼女は中国では「有名人」で、常に公安に見張られている人物です。
中国の政治改革を求めた「08憲章」という文章が2008年12月に
303人の名前で発表されましたが、彼女はその内の1人なのです。「
08憲章」を起草した劉暁波氏は国際社会でその功績を認められノーベ
ル平和賞を与えられましたが、中国共産党政権に国家政権転覆扇動罪で
逮捕され、懲役11年の判決を受け、いまも獄中にあります。崔さんは
劉氏の最も近い友人と言われています。

 彼女は、中国の直面する問題は山のように多く、いずれも深刻だとし
て、「もはや改革では間に合わない。転換が必要だ」と多くの人が考え
始めていると語りました。

「大学教授を含む民間人、たとえば清華大学の孫立平教授なども、必要
なのは改革ではなく、転換だと主張しています。転換という考えには政
治の転換が含まれています。この切実な危機感は民間だけではなく、当
局側も共有しています。というより、実は当局の人々こそ共産党による
政治の合法性に関して危機感を覚えていると思います」

 中国共産党の統治の矛盾と問題点は現在あまりにも明らかです。たと
えば、中国の空を覆っている大気汚染です。

「大気や水の汚染、食品の安全といった問題は、都市部の中国人全員が
認識しています。農村でも、環境汚染、土地の立ち退き、教育、貧困、
格差の問題は全員が共有する危機意識となっています。こうした問題の
続発が中国の大衆に公民意識、市民としての意識の芽生えを促していま
す」

 日本にも被害が及んでいるあの凄まじい大気汚染は、いまや6億人の
健康を害しているといわれます。深刻な環境破壊は、国民生活に配慮す
ることなく利益優先で進めた開発の結果です。開発で潤っているのは、
国民一般ではなく共産党の特権階級です。中国共産党の政治は国民のた
めではなく、共産党とそこに連なる人々のためになされていると言える
のです。そして共産党は上から下まで腐敗しています。

 この1年余りを振り返るだけでも、中国の異常事態を示す事例には事
欠きません。第18回中国共産党大会直前の2012年10月25日に
「ニューヨーク・タイムズ紙」(NYT)が報道した温家宝一族の凄ま
じい腐敗はどうでしょう。中国の1人当たり国民所得は5,400ドル
(1ドル90円換算で48万円)です。この国で政府要人中の要人の一
族が、わかっただけでも27億ドル(2,430億円)の蓄財をしてい
たのです。凄まじい腐敗であり、犯罪です。

 習近平総書記の一族についてもブルームバーグ通信が2012年6月
19日、少なくとも4億8,330万ドルを蓄財し、そのうえ17億3
,000万ドルの資産を有するレア・アース企業の資産の18%分を所
有していると報じました。

 胡錦濤主席の腹心、令計画氏の息子が9,000万円もする高級車フ
ェラーリで事故死したのは2012年3月でした。車には裸の女性2人
が同乗しており、彼女らも死亡したとされています。

 一連の事件のあとの12年11月に中国共産党総書記に就任した習近
平氏はこうした危機を乗り切るために、まず何よりも中国共産党の求心
力を高めることを大目標としています。そのために①中華思想、②中国
共産党至上主義、③軍事最優先主義を掲げ、国内の引き締めに入りまし
た。

 2013年1月早々の南方週末紙社説書き替え事件は、このような強
硬、締めつけ路線の表れです。尖閣諸島の海と空で、中国海軍の軍艦か
ら日本の自衛隊に火器管制用レーダーが照射されたのも、習氏の強硬路
線の表れです。

中国社会での政治改革への動き

 崔さんは、南方週末事件を巡る中国社会の反応に見られるように、中
国社会の中国共産党に対する見方、そして共産党の締めつけに対する見
方が変化してきていると指摘します。

「南方週末事件ではメディア関係者の支持だけでなく、その他の一般社
会の人々や企業からも『南方週末』が支持を集めました。ネットでも同
様に支持を得ています。これまでは不動産の強制収容など個別問題でネ
ット世論が注目する事例はありましたが、政治改革というセンシティブ
な問題でも、議論が広がり始めたということです」

 崔さんはサラリと語りました。けれど、この発言をきいて私はゾクッ
としました。「政治改革」が広く議論され始めたというのです。経済に
関して市場を開き改革することは鄧小平以降、盛んに行ってきましたが
、中国共産党首脳部は政治改革だけは絶対にしようとしませんでした。
それは即、共産党打倒につながりかねないからです。にも拘わらず、い
ま中国社会で政治改革が広く論じられ始めたというのです。まさに時代
の転換を示しているのではないでしょうか。そこで「中国は崩壊に至る
寸前だと言い出し始めた人もいます」という冒頭の発言が飛び出したの
です。

 中国は崩壊寸前で、状況の深刻さを国民は見抜いている、国民が見抜
いていることを共産党幹部は認識している、という構図の中で、次のよ
うなことも起きたと、崔さんが語りました。

「王岐山が3ヵ月前に全共産党員に対して、トクヴィルというフランス
人が書いた『旧体制と大革命』を読むようにと指示したのです」

 王岐山(64歳)は副首相で、党員の汚職の調査や取り締まりを担当
する党中央規律検査委員会トップです。

 アレクシス・ド・トクヴィルは十九世紀のフランスの思想家です。彼
の『旧体制と大革命』の第8章には、フランスの貴族階級について示唆
に富んだ分析が記述されています。以下、その大意について、小山勉氏
訳ちくま学芸文庫『旧体制と大革命』を参考にしてご紹介します。

 フランスの貴族階級は税負担免除の特権など、貴族としての特典を保
持していたばかりか、それを大いに拡大した。特権の塊となった貴族階
層は中産階級からも、民衆からも離れて、国民のなかで孤立無援となっ
た、そして「軍隊の長ではあっても、実質的には兵卒なき将校となった
」と書いているのです。

 そしてフランスでは血の革命が起きました。かつてのフランス貴族の
姿は21世紀の中国共産党の紅い貴族の姿そのものでしょう。であれば
、次に中国に起きるのは血塗られた革命でしょうか。少なくとも、王岐
山はそう考え、全共産党員にこの本を読むように指示したと思われます
。王氏を登用した習近平総書記も同じ危機感を抱いていると考えてよい
でしょう。

左折ランプで右折する?

 にも拘わらず習近平総書記は改革に進むどころか、メディア規制にし
ても共産党至上主義にしても、改革とは反対の強硬路線を突き進んでい
ます。習近平氏は、国内を締め付けて共産党の権威を高め、対外的にも
強硬路線を貫いて、実施して、なんとかこの危機を突破しようとしてい
ると見られます。そうではないかと問うと、崔さんはこう答えました。

「中国には『左折ランプを点けながら、右折する』という諺があります
。保守派に妥協する姿勢を見せる必要性があるのです」

 習氏の強硬路線は決して本音ではないというわけです。強硬発言を繰
り返し、強硬な政策を打ち出しながらも、最後はもっと民主主義的な開
かれた国造りに向かうという期待を、彼女は抱いているわけです。かと
いって、彼女も習総書記が改革をやり遂げられると見ているわけではあ
りません。

「現在の中国社会には、胡錦濤・温家宝体制への大きな不満があります
が、彼らは非常に多くのことをやったと思います。ただ彼らの改革は社
会の要求に追いつかなかった。公民意識を持ち始めた人々のエネルギー
に全然追いつけなかったのです」

 彼女はこうも語りました。

「中国共産党の直面している問題は、言論の自由の幅をどれだけ広げる
かということではなく、いまどんどん進んでいる情報やネットの自由化
にどう対応するかという問題なのです」

 崔さんは、改革を拒むことはもはや不可能で、否応なく国を開き、社
会の自由度を高めていかなければならないと言っているのです。しかし
、そうなると、中国共産党一党独裁体制などもたなくなるのは明らかで
す。そう尋ねると、崔さんはこうも語りました。

「いつそれ(中東のような独裁政権の崩壊)が起こるかはわかりません
。いま中国は変換期にあると表現したいと思います。私自身は、私たち
が見守れる将来に憲政民主が中国で芽生えてくると期待しています。

 共産党は瓦解するのではなくて、その専制体制が分割され、切り分け
られていくと思います」

 私は共産党の分裂などという事態を習総書記がスンナリ受け入れると
は思いません。彼はなんとしてでも共産党を守ろうと死に物狂いの手を
打ってくるでしょう。これは対日強硬路線に走るということだと、考え
ておいたほうがよいでしょう。

 これまでも中国は共産党が問題を抱え、危機に直面したとき、必ず日
本を悪者にして国民の不満を日本に向けてきました。今回も必ず、そう
なると考えるのが正しいでしょう。今回の中国共産党の危機は、共産党
の存続を問われる本当に深刻なものです。その分、対日政策も強硬路線
を強めるでしょう。

 最後に崔さんが語りました。

「仮に中国政府が戦争という手段を以って国内の注意力を尖閣諸島に向
けようとしたときには、日本側には抑制的に対応してもらえればありが
たいのです。あらゆる手段を尽くして日中が戦争を起こさないようにし
ないといけないと思います」

 この発言こそ中国の国民世論の激しさを反映しています。激しい世論
は中国共産党が作り上げたものです。共産党に対する批判や非難をすで
に日本非難につけかえているのです。これからも中国共産党の政治は行
き詰り続けるでしょう。そうなれば強硬策はますます強硬になり、日本
は格好の標的になります。

 対日開戦の可能性も現実的に考えなければなりません。まさに、私た
ちは国を守り抜く体制を作るときに来ています。

                           櫻井よしこ


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