元気になるメルマガ

  • 2013.12.06
  • 一般公開

陛下も召し上がった福島のおコメ

 少し前、福島県双葉郡広野町の西本由美子さんから新米が届きました。3.11の大災害で、村をあげて避難せざるを得なかった広野町で、原発事故から3年目に、ようやく作ったコシヒカリです。

 早速炊いてみました。美しくツヤツヤです。赤絵の気に入りのご飯茶碗にふんわりとよそいました。そしてひと口、口に運びました。ほのかな甘さと香りが広がります。とても、美味しいご飯です。またひと口、今度は岩海苔の佃煮をのせて口に運びました。ウン、これもいい。次のひと口は牛肉のしぐれ煮と一緒にいただきました。

 広野町のおコメはお惣菜をのせたときは、お惣菜の味を上手にいかしてくれます。これぞ日本のご飯というものです。ご飯だけでいただくときは、おコメの美味しさを存分に味わわせてくれます。これもまた日本のご飯の面目躍如です。

 こうして、一膳のご飯をいただき終えると、おなかが喜んでいるのがわかりました。


#「熱い気持」の味

 広野町のおコメの美味しさには、おコメ本来の味に加えて、「熱い気持」の味があります。もう一度、古里を以前の美しい姿に戻したい、しっかり自分の仕事をしながら生きていきたい、災害にも風評被害にも負けないぞ、という熱い想いの味でしょう。

 広野町のコシヒカリは宮内庁にも贈られました。山田基星町長が安倍晋三首相に各省庁の職員の食堂用にと贈呈し、その一部が宮内庁にも届けられたのです。報告を受けられた天皇皇后両陛下が、「苦労されて作ったお米であろうから、自分たちも少しいただこうか」と仰り、召し上がって下さったことが報じられました。

 両陛下は震災以後、毎年福島に行幸啓なさってきました。その折りに除染作業もご覧になっておられます。「自分たちも少し…」というお言葉の中に、苦労している国民に寄り添いたいという今上陛下と皇后さまの深い想いを感じます。広野町の人たちも福島全県の人たちも、どれ程嬉しく、また、勇気づけられたことでしょう。

 原発事故で全住民が避難させられたのが双葉郡8町村です。8つの自治体の状況は同じではありません。いま、一部とはいえ住民が元の家に戻って暮らしているのは川内村と広野町だけです。


# 立ち直りつつある川内村

 その川内村でも、今年、3年ぶりにおコメを作ることができたと、村長の遠藤雄幸さんがほっとした声で語りました。
「105ヘクタールに作付けしました。村の田圃、約300ヘクタールの3分の1です。でもソバも90ヘクタールで育てました。少し、希望が出てきました。なんといっても、農家にとってはコメなりソバなり、作ることが仕事ですし、生き甲斐なのです」

 遠藤村長は、来年の作付けのための種籾の注文が150~170ヘクタール分に上っていると、教えてくれました。今年よりもっと多くの人がコメ作りに戻ります。皆さんが来年はもっともっと頑張ろうという気持になっていることがわかります。

 川内村の今年のおコメは政府が備蓄米として買い上げました。このことについて遠藤さんはこう説明しました。
「全てのおコメの放射能検査をして、1件も放射能が検知されなかったことに心底、安堵しています。大丈夫だとは思いましたが検査結果を聞いて、嬉しさの実感が湧きました。でもね、それでも川内村のコメは備蓄米になるんです。つまり、誰の口にも入らないということです」

 科学的に放射能汚染など全くないとわかっていても、世間には福島産を遠ざける傾向があります。そんな思い込みをなくして貰おうと、川内村でも広野町でも、懸命の努力が重ねられてきました。その結果、いま福島産の農作物は他の地方自治体のものと較べてなんの遜色もありません。そこに漕ぎつけるのに、沢山の作業がなされてきました。


# 川内村の努力

 遠藤さんが説明してくれました。

「土壌の除染が第一ですね。実は、川内村の放射線量は決して高くはなかったのです。一部に原発から20キロ圏内に入る地域が村にあり、居住制限区域となっていますが、全体的にみると、線量は低いのです」

 事実、去年(2012年)3月に川内村に行ったとき、川内村の線量が郡山市と較べても2分の1から3分の1の低さであることを発見して、私も驚きました。川内村の人々だけでなく、双葉郡8町村の少なからぬ人々が放射能を避けるために郡山市で避難生活をおくっているのですが、その避難先よりも古里の方が線量が低いという奇妙な状態になっているケースがあるわけです。この種の矛盾は現地に行けば多々あり、本当にこのような混乱をどう解決していけばよいのか、考えさせられます。

 とまれ、川内村でも広野町でも、田圃は鋤込みという手法で除染しています。30~40センチほど掘り返して、ゼオライトやカリウムなど、放射性物質の吸着剤を入れて土を上下反転させるのです。こうして除染はかなり進みました。その結果、どの田圃のおコメも安全です。


# うれしいニュース

 川内村ではその他に水耕栽培の施設も作りました。野菜など単価の高い農作物を生産し、出荷しています。川内村の農業は明確に甦りつつあります。遠藤さんが嬉しそうにさらに語りました。

「住民の半分以上の1460人、53%の人たちが戻ってきました。もっと多くの村民が戻れるように、村の基盤作りも目途が立ってきました。お年寄りのための特養施設のサービスも始まります。ささやかかもしれませんが商業施設も作ります。小さなスーパーマーケットがそこに出来ますから買い物もできます。

 それにすでに始まっているのが公営災害住宅の建設です。居住制限区域内に家をもっている人たちはいま仮設住宅などに住んでいるのですが、この人たちが戻って来られるように、少しばかりグレードの高い住宅を作っているんです。とりあえず15戸ほどですが、これで約40人ほどが戻れます」

 民主党政権のときよりも自民党政権の現在の方が物事の動きが早くなったと、遠藤さんは実感こめて語ります。

「12月3日に復興庁の川内村支所がオープンしました。国や県の機関が目に見える形で現地に設けられ、そこに人が配置されることは村民にとってとても大きな安心感につながるのです。私たちの側から見ると、自民党になってから、積極的に現場に入っていくという姿勢が強まったと思います。首相以下、大臣、副大臣、政務官などいろいろなレベルの政治家が現場に来てくれて、現場の住民の気持ちを掬い上げて下さることは、心強いと思います。

 役人たちも、政治家から早くやれと言われて、スピード感が出ています。これは本当にうれしいことです」


# 1ミリシーベルトの壁

 川内村は原発事故の被害を受けた8町村の中では最も復興が進みつつある自治体です。それでも戻ってきた住民は半分を少し越えたところです。もう少し詳しく川内村の現状を見てみましょう。

 一番の問題は若い人たちの戻り方が鈍いことだと言います。とりわけ小さな子供さんを持つ若い世代の親御さんがあまり戻っていません。

「若い人の戻る率は約4分の1でしょうか。私は彼らのような若い世代がこの村の担い手となってくれることを願って、水耕栽培の設備などにも力を入れてきました。金型企業を誘致したのも、若い人たちの就職先という気持が強かったのですが…。

 若い世代が戻ってこない限り村の将来はありません。なぜ彼らが戻らないかといえば、ひとつには1ミリシーベルトという数字が独り歩きしてしまっていることがあります」

 いま、被災地では年間で1ミリシーベルト以上の放射線量にあたる汚染が見られる所は除染するというふうになっています。

 この1ミリシーベルトを除染の基準としたことは民主党政権の犯した最も重い罪のひとつだと思います。被災地のどこに行ってもこの非現実な数値の設定が、古里再生の大きな妨げとなっているのです。


# 暮しの中の放射能

 1ミリシーベルトがどれ程非現実的な数値かは、私たちを取り囲む自然条件を見れば明らかです。私たちは自然界から常に放射線を浴びています。その量は世界平均で年間2.4ミリシーベルトです。日本の平均値はこれまでは1.5ミリシーベルトとされてきましたが、2011年12月以降、2.1ミリシーベルトに変えられました。これは天然ポロニウムのデータ不足によって過小評価されていた部分がより詳しいデータの補足によって変更された結果だそうです。

 加えて、健康診断でレントゲン写真をとったり、CTスキャンを受けたりします。その他にもさまざまな治療を受けることによって、日本人は1年の平均値で年間4.0ミリシーベルトの放射線を浴びています。これだけでも平均値で6.1ミリシーベルトになります。

 その他、私たちの日常生活で、放射線は至る所で使われています。ひとつずつ袋に入った使い捨ての医療用具、たとえば注射針などは放射線を照射して殺菌します。旅行で飛行機に乗る際、手荷物検査を受けますが、これも放射線を当てて調べます。化粧品が微生物などに汚染されていては肌に大問題を起こします。ですから、これも放射線で殺菌します。マスカラも同様です。食品を、包んだりしまっておく容器も、車のタイヤも、オムツも消臭スプレーもみな、放射線を照射されています。

 このような中で、福島で1ミリシーベルトを超えるところは除染しなければ住めないというような考え方は殆ど意味がありません。1ミリシーベルトを超えると危険であるかのような思い込みが広がっているために、人々が古里に戻らず、復興が進まないという意味では、自分で自分の足を引っ張っているような面があります。


# 前に進む勇気

 自民党政権が国際基準に従って20ミリシーベルトまでの所はもう住んでも構いませんと、新しい基準を発表しました。けれど民主党政権時の刷り込みが強かったせいでしょうか、福島県が反発しました。佐藤雄平知事が「追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト以下にするという、除染の長期目標を維持するようあらためて要請します」と政府に要望書を出したのです。

 すでに述べたように、1ミリシーベルトは科学的根拠がないだけではなく、福島の復興を妨げている大きな要因となっています。佐藤知事も政治家なら、福島の未来を考えてなぜ、科学的思考で福島再生を促進しないのか、疑問に思えてなりません。

 村長の遠藤さんも言いました。

「私も1ミリシーベルトは意味がないと思います。けれど、福島ではずっと1ミリシーベルトという数字を軸に物事が進んできました。いま、科学的に正しい数値として20ミリシーベルトを言っても、聞く耳を持たない人々が圧倒的なのです」

 苦境の中にいる人たちは、不安や喪失感、苦労や悲しみが多すぎて、事実を直視できないこともあるでしょう。感情論に流されているとうすうす気づいていても、またもっとしっかり合理的に考えなければならないとわかっていても、それでも感情に流されてしまうこともあるでしょう。福島だけでなく宮城、岩手の被災者の方々も、恐らく、同じでしょう。

 ですから遠藤さんも西本さんも、いまはとにかく自分たちの生活を立て直してみせて、幸せな暮らしを実現すること、その姿を他の人たちに見てもらって、自分たちもやはり古里に戻ろうかと思ってもらえるようにしたいと語ります。西本さんが目指しているのは「君の一歩が朝(あした)を変える!」の中でもご紹介しました。ウクライナのスラブチッチのような町です。

 双葉郡8町村の首長選挙で、次々と現職が負けて、新人にとって替わられつつあります。震災後の復興のあり方への不満が現職の敗北の要因だと見られています。でも、新人の首長になったからといって問題が解決するわけでもないことから、折角、当選した新しい首長への不満も噴き出しているケースがあります。

「皆さん疲れてきてるんです」 と西本さん。3年近く経つのに復興が進まないのですから無理もありません。私たちに出来ることは、福島のことや岩手、宮城のことを忘れないこと、少しでも支えになることです。そして、被災者の方々には、希望を持ち続ける勇気、前に進み続ける勇気を持ってほしいと思います。

 問題を克服するには、私のような情報発信の役割を担う人間は、たとえ批判されても正しいと思う情報を発信し続けなければなりません。ですから再度、強調します。1ミリシーベルトへのこだわりを捨てて古里再生を加速させてほしいのです。

 きっと、大丈夫、と信じて、私は明日も広野町のおコメを炊こうと考えています。


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