元気になるメルマガ

  • 2012.11.30
  • 一般公開

アジアで求められる日本の叡知

 激しく変化するミャンマー情勢はどうなるのか、日本はどうすべきか、そのことを考えるために、ちょっと遠回りします。  国連総会は11月29日(日本時間30日)、パレスチナの国連参加資格を現在の「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案を可決しました。決議案に賛成した国は138、日本もその一国でした。反対した国はイスラエル、米国、カナダなど9ヵ国でした。日本が中東政策で米国と逆の立場をとったことに関して、玄葉光一郎外相は「米国とは緊密に協議をしており、日米関係には影響はないと思う」(「読売新聞」11月30日夕刊)と述べています。

 他方、ヒラリー・クリントン米国務長官は、パレスチナの国連参加資格を格上げしたことを「和平へのさらなる障害になる」「残念で非生産的」と非難しました。言葉の上では日米は対立しています。しかし、両国は基本的にパレスチナの穏健派、ファタハの立場を強化し、中東情勢をこれ以上不安定にしないための手段として、パレスチナの国連参加資格格上げを受け入れていると見てよいと思います。

 今回の事例に見られるように、中東政策においてもアジア政策においても、日本は必ずしも米国と完全な同一歩調をとってきたわけではありません。中東の安定に寄与するという目的を同じくしながら、日本には日本の国益があり、日本としてよりよく世界の平和と安定への貢献のし方があるのですから当然です。

 さて、ミャンマー外交でも同じことが言えるでしょう。ミャンマーは2015年に大統領選挙が行われます。アウンサンスーチー氏はすでに選挙を意識して、テイン・セイン大統領の政策を批判し始めています。理想を求めて急速な改革を求めるスーチー氏には、テインセイン氏の改革は手ぬるく見えるのでしょう。

 そのスーチー氏に、米国政府は全幅の信頼をおいています。オバマ政権がスーチーさんにどれほど肩入れしているかは、米国大統領初のミャンマー訪問で、オバマ大統領が首都ネピドーではなく、ヤンゴンにあるスーチーさんの自宅を訪れたことからも窺えます。ちなみにヤンゴンは首都ネピドーから約300キロも離れています。オバマ大統領はスーチーさんを「強烈な威厳の人」としてもち上げ、これから長い間、ミャンマーの指導的立場に立つであろうと語っています。全面的な肩入れです。

 他方、島田さんが指摘したように、獄中に20年も囚われていた民主化のリーダー達がいま発言の自由を得て、その自由をもたらしたテイン・セイン大統領の統治を高く評価しています。現実の政治課題を解決しながら民主化を進めるミャンマー政府の功績を、民主化のリーダーたちが評価していることに留意したいものです。日本、米国というアジア諸国に対して大きな影響力を有する国が、こうした実態を含めて、第三者の公平な目でミャンマー情勢を見て、支援していくことが大事です。

 島田さんは「米国のアジア外交は必ずしもいつも正しいとは限らない」と指摘します。一例が韓国の金大中氏を民主化の英雄であるかのように持ち上げ朴正煕政権と烈しく対立したことでした。いまでは金大中氏が北朝鮮と密接な関係にあったこと、金大中氏が大統領だったとき、金正日総書記と行った2000年の南北首脳会談は、金大中氏側が秘密資金5億ドルを支払って実現したことなど、金大中氏の下で進行した異常事態の数々が明らかになっています。

 このことに見られるように米国のアジア外交は時折、間違うという指摘は、一面において正しいと思います。それだけに、ミャンマー外交でも、一方的なスーチーさんへの肩入れにとどまらず、テイン・セイン現政権の実績もよく分析して、日本こそが米国に対して正しい情報提供を行い、バランスのとれたアジアの秩序形成に貢献すべきだという島田さんの指摘は大事だと思います。


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