闘うコラム大全集

  • 2014.01.18
  • 一般公開

日本は道義大国を目指さなければならない

『週刊ダイヤモンド』   2014年1月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1018


1月8日の夜、フジテレビのBS番組「プライムニュース」で上智大学国際教養学部教授の中野晃一氏と靖国神社参拝問題を論ずる機会を得た。放送開始後、視聴者から賛否両論のメールが殺到し、同番組のサーバがダウン。昨年末の安倍晋三首相による参拝の余波が年明けの今も激しく続いていることを実感した。

意見表明の賛否の割合について、私は知る由もないが、首相参拝が国益を損ねたと主張する中野氏の最大の論点は次の点だった。参拝で安倍首相個人の思いを満足させたとしても、日本が孤立するような国際社会の反発を招いた責任は重い。マックス・ウェーバーの言葉を引用すれば、政治家の「責任倫理」に悖るというのだ。

氏は解決策として、千鳥ヶ淵の戦没者墓苑拡大を提唱した。靖国神社が神道の考えに基づいて「A級戦犯」の分祀は不可能だと主張している限り分祀はできないのであるから、その点に拘らず、無宗教の追悼施設としての千鳥ヶ淵を拡大すべしというのである。

氏と私の考え方は真っ正面からぶつかる。氏の前半の主張は、中韓のみならず、米露独、シンガポール、EUなどから公式の批判のコメントを出された以上、首相参拝は国益を損なったのであり、日本は修復に取りかからなければならないというものだ。

だが、責任倫理論ははたしてどこを起点にすべきなのか。責任倫理をいうのであれば、中韓両国がいつ、どんな理由で靖国参拝非難を始めたのかを、まず明確にすべきだと、私は考える。

周知のように、「A級戦犯」合祀後、6年半もの間、両国の非難はなかった。その間に歴代首相は都合21回参拝した。「A級戦犯」が合祀された後も靖国神社に参拝し、訪中した大平正芳首相(当時)は熱烈に歓迎された。同じく、中国を訪れた中曽根康弘首相(当時)に中国は日本の軍事費の倍増を求めた。

中韓の参拝非難が宗教的あるいは歴史的要因ではなく、政治的要因によるものなのは明らかだ。責任倫理の議論の起点はそこまでさかのぼるべきだ。

ちなみに、米国は「失望」を表明したが、米国の動きを注視すれば、中国の提唱する「新型大国関係」に傾く可能性も私たちは考慮しておくべきだろう。その上でなお、よい日米関係を築くために、日本は道義大国としてあらゆる面で強い国を目指さなければならない。日米関係にも寄与し、アジア(当面は中韓ではない)の平和と安定に尽力してみせることが重要だ。

中野氏の後半の主張、千鳥ヶ淵の件は、無宗教の追悼施設を造る論と同じである。そこで、これまでこの案がどのような考え方で論じられてきたかを紹介したい。福田康夫官房長官(当時)が設置した「追悼・平和祈念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会」(追悼懇)の議事録から拾ってみる。

「近視眼的に、今日的な意味で、頭の中にいつでも近隣諸国を鎮めたいという思いがあった。だから、追悼哲学よりも、どうしたら黙らせられるかみたいなことがいつもあった」(第9回議事録、平成14年12月13日)

「国は国民一人ひとりが戦没者を追悼し、祈念する場所を公的に維持する、という言い方もあり得る。そうすると、国は祀っていないし、何も祈念していない。よほど困ったらこういう逃げ道もある。そうすると、A級戦犯論がなくなる」(第5回議事録、5月7日)(以上『「靖国神社への呪縛」を解く』大原康男著、小学館文庫)

これらの議論の意味するところは[「中韓両国から『戦犯問題』の批判を避けるために、戦没者の名前を語り継ぐことはやめました」ということ]という同書の解説に私も同感である。哲学も思想もなく、日本国への愛着も英霊への感謝もない無宗教の施設は亡国の極みではないか。

この国のあり方を、国民全員で真剣に考えるべきだと痛感したものだ。

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