闘うコラム大全集

  • 2014.02.13
  • 一般公開

変わる米外交、日本も機敏に対応せよ

『週刊新潮』 2014年2月13日号
日本ルネッサンス 第594回


2月4日、「産経新聞」の「正論」で、杏林大学名誉教授の田久保忠衛氏がオバマ大統領に「親米保守」の立場から一筆“啓上”した。バランスのとれた穏やかな表現ながら、鋭いメッセージを送る氏の主張に大いに頷いた。

日中韓の軋轢が激しくなるにつれ、米国の対日理解が如何に浅いかを、多くの日本国民が痛感させられていると、私は感ずる。たとえば尖閣諸島問題で、現状を変えてはならないという声が米国から日本に届く。しかし、現状維持を破り、積極的に変えているのは中国である。

安倍晋三首相の靖国神社参拝に関して、東京の米国大使館及び国務省が出した「失望」声明には、言うべき言葉もない。

祖国に殉じた人々の御霊に、感謝と敬意を表し、日本の不戦を誓った安倍首相の行動は、如何なる国においても非難や失望の対象となるべきものではない。にも拘わらず、米国が、どの国も行っている国家の指導者の慰霊に失望を突きつけるのであれば、私たちにも思い出さざるを得ないことがある。

広島、長崎への原爆投下、東京大空襲をはじめとする、日本の主要都市への凄まじい爆撃である。少なくとも50万の国民の命を奪った無差別爆撃の非人道性は、日本人なら誰でも知っている。

ただ、私たちは敢えてそれを口にしない。敗れたがゆえに、日本は勝者の論で裁かれた。その不当性を十分に識っていながら、口にしてこなかった。理由は、日本人ほぼ全員が深く反省したこと、加えて、敗者は基本的に言い訳はしないという日本人の性格及び美学ゆえだ。

田久保氏は、首相としての当然の参拝に米国が「失望」声明を出すのであれば、中韓両政府が「初代韓国統監を務めた伊藤博文元首相を暗殺した犯人、安重根の記念館を、事件現場であるハルビン駅に開設した非常識に『失望している』との声明くらいは」、同盟国として出してもよかったのではないかと書いた。その通りである。

「不介入政策」

戦後、米国は占領統治下において日本を弱体化させ、自国の影響下に封じ込める政策を採用した。いわゆる「弱い日本」(Weak Japan)政策であり、その基本的考えが、現在も米国の対日政策の芯に残っているという田久保氏の見方は正しいと思う。

日本を弱いままにしておこうとする米国、現在のオバマ政権は、往々にして中国の脅威に目をつぶる。国際政治において軍事力の果たす役割にも目をつぶり、ひたすら外交によって解決を図ろうと考える。外交が軍事力によって決定的な影響を受けることを、見ようとしない。

こうしたオバマ政権の実態は、シリアへの軍事不介入に典型的に示されている。

オバマ大統領はシリアへの不介入の理由を、昨年9月10日、全米向け放送で米国民に説明したが、その際、「米国は世界の警察官ではない」と2度繰り返した。今や、米国内にもオバマ大統領のこの種の「不介入政策」を批判する声は少なくない。ヴァンダービルト大学日米研究協力センター所長のジム・アワー教授は、オバマ大統領は外交にも国防にも興味がないのだと指摘する。

だが、オバマ大統領の基本姿勢は変わらない。その結果、冷戦終結以来の国際関係が大きく変わりつつあるのだ。シリアへの米国の不介入を受けて、サウジアラビア、エジプト、イスラエルが米国と少し距離を置き始めたのに続き、欧州連合(EU)にも注目すべき変化が生じ始めている。

2月1日、ドイツのミュンヘンで開催された「ミュンヘン安全保障会議」は米欧関係を見る上で極めて大きな意味を有するが、揃って出席したジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官はこの会議で、懸命に米国の立場を擁護しなければならない羽目に陥った。

「インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ」紙は、ケリー長官が「米国が外交、安保路線を変えようとしているという言説は、誰かが自分の利益のために故意に流しているものだ」と怒りの内に語ったと報じた。

ケリー長官の熱弁も、しかし、EUの、米国に対する疑念を払拭したわけではない。注目したいのがドイツの反応である。

メルケル首相の携帯電話が米国の国家安全保障局(NSA)によって盗聴されていたことは、たとえその種のスパイ行為が広く国際社会で行われていると仮定しても、ドイツの米国に対する不信感を深めたのは事実であろう。加えて、ケリー、ヘーゲル両長官の言葉にも拘わらず、米国政府の対外政策は専ら外交に傾斜するばかりで、軍事行動を避けようとするものだ。

EU諸国にとって、シリア情勢と同様に大きな関心事はウクライナ問題である。ウクライナの野党勢力がEUに加わる動きを見せる一方、ロシアはウクライナを自国の影響下にとどめようと、凄まじい圧力を加えている。だがEUのロシア非難にも拘わらず、米国は積極的に関与する姿勢を見せようとはしない。

中国との冷戦の真っ只中

そうした中で、ドイツのヨアヒム・ガウク連邦大統領が、これまでにない強い調子の演説をミュンヘン安全保障会議で行ったのである。

「ドイツは、ナチス及び共産主義の時代があったからといって、(砂の中に頭を突っ込んで現実から目をそらす)駝鳥のように、国際社会に対して負っている義務に背を向けてよいということではない」

ガウク氏はこう語り、現在のドイツは、「民主主義国家、信頼すべきパートナー或いは同盟国として知られているのであり、国際社会の舞台により早く、決定的に参加すべきである」と説明している。

中東の春と呼ばれる一連の民主化革命の中で、ドイツはリビアに対する軍事行動に参加しなかった。ガウク大統領は、その種の行動は繰り返されてはならないとも語っている。

超大国アメリカを軸に形成されていた冷戦後の国際社会の秩序が、本当に大きな変化を遂げているのだ。思いがけない変化はいつでも起こり得ると、認識しておかなければならない局面である。

時代が大変革に入るとき、危機を察知しなければ国家は間違いなく沈む。危機を察知しても、対処する実力を備えていなければ国家は滅びるだろう。

わが国の隣りには、激しい日本非難を国家戦略とする中国がいる。中国に盲目的に従う韓国がいる。彼らは明確な意図をもって歴史を捏造する。かつて中国の国民党が日本を宣伝戦で追い詰めたように、同じ漢民族の中国共産党は、またもや同じ手法を用いているのだ。日本は中国との激しい冷戦の真っ只中に在る。その自覚こそいま、必要である。

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